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ハナレグミがハナレグミたるゆえんーーボーカリストとしての存在感示した『ツアー ど真ん中』千秋楽

リアルサウンド

18/8/20(月) 16:00

 この日のハナレグミによる「家族の風景」を聴きながら、彼はこのレベルの名演を毎回のようにしているのだろうと感じた。私が聴いたのは、2018年8月7日に新木場Studio Coastで開催された『ハナレグミ 2018 ツアー ど真ん中』でのことだった。

 考えてみるとハナレグミというミュージシャンは不思議な人物だ。かつてはSUPER BUTTER DOGのようなファンクバンドで活動していたのに、今ではまるでイメージが異なる。音楽性も含めて、ここまでソロで変化して、イメージを確立させられる人物は珍しい。

 『ハナレグミ 2018 ツアー ど真ん中』東京公演を見ながら感じたのは、ハナレグミの音楽は、2000年代以降のアコースティック楽器を多用するアメリカのシンガーシングライターやバンドに通じるものがあるということだった。楽曲によってはWilcoも連想もする。「家族の風景」だけを聴いたら、ロン・セクスミスのようだ。しかし、そこで日本的な〈どこにでもあるような 家族の風景〉を歌うことによって、日本のポップスへと昇華している。この日の「家族の風景」を聴きながらハナレグミの真骨頂だと感じたのは、そんな理由からだった。

 バンドのメンバーは、キーボードにYOSSY、ベースに伊賀航、ドラムに菅沼雄太、ギターに石井マサユキ。そしてハナレグミが登場すると、男性の声で「タカシー!」という声が飛んだ。ハナレグミとは永積 崇によるソロユニットである。

 1曲目の「ぼくはぼくでいるのが」から、バンドはリズムのタメが利きまくった演奏を聴かせた。そこに郷愁が漂う永積のボーカルが乗る。「ブルーベリーガム」では、しなやかなボーカルを聴かせた。ギターのスティール奏法が響く「My California」はアメリカンロック。それにしても今日はなぜだか「タカシー!」と叫ぶ声が男ばかりだ。

 ファンキーな「無印良人」にはユーモアも。永積はフロアに「お酒が入ってるのかい? いい感じがこっちに伝わってくるよ」と語りかけた。「大安」ではソウルフルなボーカルが全開に。ミディアムナンバーの「あいまいにあまい愛のまにまに」にはカントリーの香りが漂い、ギターにはラグタイムの匂いもした。途中でBPMが上がり、コールアンドレスポンスから、激しくシャウトをする展開も。

 イントロで歓声が上がったのは「音タイム」。カントリーロックなサウンドだ。「レター」のギターの音色はAOR的で、一方でメロディーラインには昂揚感がある。

 そしてやはりイントロで歓声が起きたのが、冒頭で紹介した「家族の風景」だった。

 レゲエの「旅に出ると」では、坂本九の「上を向いて歩こう」を挿入する一幕もあり、観客にも歌わせていた。「フリーダムライダー」はブルースロック。なにしろ〈ヘッドフォンからマディーウォーターズ〉と歌っているのだ。サビの開放感も心地いい。

 MCで永積は語る。僕らは意外と言葉にならないものを操っていると思う、曖昧さにたくさんの救いがある気がする、と。そして「音楽は深呼吸かな」と続け、「深呼吸」を演奏するためにキーボードの椅子に座った。永積の肉声の魅力を体感させる楽曲でもあった。

 元のバンド編成に戻ってからの「Spark」は、穏やかなボーカルと演奏ながら、緊張感が漂う。ゆっくりと熱し、熟していくかのような演奏だった。

 永積が、手元のキーボードでアナログシンセサイザーのような音を奏でて始まったのが「Primal Dancer」。ロック然としている楽曲は、「Primal Dancer」と「My Calfornia」ぐらいだ。スカの「太陽の月」では、永積のギターとウッドベースのかけあいもスリリングだった。

 サルサの「オアシス」では、マイケル・ジャクソンばりにシャウトをしてステップを踏んだかと思うと、間奏では小沢健二とスチャダラパーの「今夜はブギー・バック」のラップを入れはじめた。さらに「日本語じゃない言葉で交信しようぜ!」と、奇声のようなコールアンドレスポンスも。いっそサウンドをアフリカまで展開してほしくなったが、基本的にサウンドをひとつのトーンでまとめるのがハナレグミの美学なのだろう。

 本編の最後は、カントリーな「明日天気になれ」。フロアを埋めつくすファンは両腕を上げて振っていた。

 アンコールで永積が「あっという間にスナックになるから!」と言うと、杏里の「オリビアを聴きながら」をスカで演奏しはじめた。そしてファンに呼びかける。「社長にゴマ擦ってるように歌ってよ! これじゃ商談成立しないよ!」。スナックと化した新木場Studio Coastでは、「オリビアを聴きながら」が大合唱されることになった。これなら商談も成立したはずだ。

 語るように歌う「光と影」は、ハナレグミの魅力が光る歌モノ。そして、バンドメンバーがステージを去り、永積ひとりに。彼はアコースティックギターを抱えて「きみはぼくのともだち」を歌いだした。最後の最後は、SUPER BUTTER DOGの「サヨナラCOLOR」。

 ハナレグミは、ファンクは絶妙に避けながらアメリカ音楽の旅をする。カントリー、ソウル、ブルース、サルサ、そしてジャマイカに渡ってレゲエ、スカ。「サヨナラCOLOR」を筆頭とするフォーキーな要素も見逃せない。多彩な音楽的要素を吸収しながら、そこに日本的な感性を混ぜて歌いこなせるボーカリストが永積なのだ。ウェットになりすぎず、しかしドライにもなりすぎない。この絶妙なバランス感覚を操れるボーカリストは少ないだろう。それがハナレグミがハナレグミたるゆえんであると感じたライブが『ハナレグミ 2018 ツアー ど真ん中』千秋楽だった。

(写真=田中聖太郎)

■宗像明将
1972年生まれ。「MUSIC MAGAZINE」「レコード・コレクターズ」などで、はっぴいえんど以降の日本のロックやポップス、ビーチ・ボーイズの流れをくむ欧米のロックやポップス、ワールドミュージックや民俗音楽について執筆する音楽評論家。近年は時流に押され、趣味の範囲にしておきたかったアイドルに関しての原稿執筆も多い。Twitter

■セットリスト
01. ぼくはぼくでいるのが
02. ブルーベリーガム
03. My California
04. 無印良人
05. 大安
06. あいまいにあまい愛のまにまに
07. 音タイム
08. レター
09. 家族の風景
10. 旅に出ると
11. フリーダムライダー
12. 深呼吸
13. Spark
14. Primal Dancer 
15. 太陽の月
16. オアシス
17. 明日天気になれ
-Encore-
01. オリビアを聴きながら
02. 光と影
03. きみはぼくのと
04. サヨナラCOLOR

バンドメンバー
Key:YOSSY 、Ba:伊賀 航、Dr:菅沼雄太、Gt:石井マサユキ

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