和田彩花の「アートに夢中!」
ラファエル前派の軌跡展
毎月連載
第16回
今回紹介するのは、三菱一号館美術館で開催中の「ラスキン生誕200年記念 ラファエル前派の軌跡展」。1848年のイギリスで結成され、ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ、ウィリアム・ホルマン・ハント、ジョン・エヴァレット・ミレイらが結成した「ラファエル前派同盟(ラファエル前派)」。英国美術の全面的な刷新を目指し、アカデミズムに異を唱え、ラファエロ以前の美術へと立ち戻ることを目指した彼らの作品や動向、ラファエル前派の精神的な指導者であったジョン・ラスキンに焦点を当てた展覧会だ。油彩画や水彩画、素描、ステンドグラス、タペストリ、家具など約150点の展示から、和田さんは「ラファエル前派」という潮流をどのように捉えたのだろうか。
アカデミズムに反旗を翻し
中世に立ち戻る
今回久々にしっかりと「ラファエル前派」の作品を見ることができました。でも実は見れば見るほど、知れば知るほど謎が生まれるというか、まだまだ知らないことが多いなと思わされました。
「ラファエル前派」は、ルネサンス時代に活躍したラファエロよりも前の美術に戻ろうという芸術運動グループで、グループの結束はわずかな期間だったけど、イギリスの美術・芸術を活性化させ、広く共感を呼んだそうです。
「ラファエル前派」を結成したのは、当時ロイヤル・アカデミー付属美術学校の学生だったダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ、ウィリアム・ホルマン・ハント、ジョン・エヴァレット・ミレイらの若手作家。そしてそのきっかけを作ったのは、美術批評家であり社会思想家として有名なジョン・ラスキンという人で、メンバーは彼のことを精神的、思想的な拠り所としていたんだそうです。
ラスキンは、あらゆる人に関わる芸術の必要性を説く一方で、ロセッティやミレイと、その影響を受けた後世のバーン=ジョーンズやモリス、そしてイギリスの偉大な風景画家・ターナーとを関連づけて考察しました。
ロイヤル・アカデミー会長が
ラファエル前派に影響される?
まず気になった作品が、フレデリック・レイトンの《母と子(サクランボ)》です。
このレイトン、実はロイヤル・アカデミーの会長を長年勤めていた人。本来はガチガチのアカデミズムの人のはずですが、ラファエル前派に影響を受けてこの作品を描いたそうです。
レイトンという人は、ロイヤル・アカデミーの中でも、ヨーロッパ各国で修行をしていたこともあり広い視野を持っていた人でした。だからラファエル前派をただ否定するだけではなく、柔軟に自分にも取り入れることができたんでしょうね。
でも私がこの作品が気になったのは、そういった背景があったからではありません。
ただただシンプルで綺麗で美しかったから、好きだなって思ったんです(笑)。