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野村正昭 この映画がよかった! myマンスリー・ベスト

私の3月第1位は、日本映画『三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実』、外国映画『黒い司法 0%からの奇跡』に決定!

毎月連載

第22回

20/3/31(火)

3月公開の日本映画、この10本

①三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実
②劇場版「SHIROBAKO」
③わたしは分断を許さない
④架空OL日記
⑤スマホを落としただけなのに 囚われの殺人鬼
⑥劇場版 おいしい給食 Final Battle
⑦もみの家
⑧星屑の町
⑨弥生、三月-君を愛した30年-
⑩初恋

※対象は2/21~3/21公開のもの

日本映画、外国映画を問わず、新作の公開が、どんどん延期されて、ただもう唖然とするばかり。『映画ドラえもん のび太の新恐竜』は、ようやく8月公開と表示だけで、公開時期未定のものが多く、恐るべし、新型コロナウィルス! 日本映画界の将来は一体どうなるんだろうかというより、それ以前に、日本の、いや世界の将来の方向が予測不能という事態に茫然自失。

気を取り直して、『三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実』『わたしは分断を許さない』は〈水先案内〉でも書かせてもらいましたが、どちらもドキュメンタリー。前者の熱量の高さは半世紀の歳月を越えて、なお圧倒的でした。1969年5月13日、東大駒場キャンパス、900番教室のスリリングな伝説の討論会と、当時の関係者を含めた合計13人のインタビューが交互に描かれ、どう時代と向きあうかと、現代の我々にも鋭く迫ってきて、実に見応えがありました。特筆すべきは、平野啓一郎ら証言者たちの三島由紀夫への的確な分析で、当時の空気を分かりやすく翻訳してくれているので、結果的に、とても親切な構成になってます。

『わたしは分断を許さない』は、ジャーナリスト堀潤が、福島や沖縄、シリア、パレスチナ、朝鮮半島——と世界中を駆けぬけ、差別や排斥を生む分断の実態を具体的に提示していて、そのエネルギーに敬服。映像の力を思い知らされます。『劇場版「SHIROBAKO」』は、NHKで放映されたアニメ版『映像研には手を出すな!』(これは、まぎれもなく傑作!)と同様に、アニメ業界の諸事情を愛情こめて描き、もの作りの楽しさ、苦しさ自体をエンタテインメントとして成立させ、一見の価値あり。『スマホを落としただけなのに 囚われの殺人鬼』は、成田凌を『羊たちの沈黙』のレクター博士に見立てたのか、なるほどなあと納得させられ、これならシリーズ化できそう。井浦新のキャラクターへのフェイントも成功してましたし。(私が観た3月の日本映画は25本)

『劇場版「SHIROBAKO」』(C)2020 劇場版「SHIROBAKO」製作委員会

3月公開の外国映画、この10本

①黒い司法 0%からの奇跡
②スキャンダル
③馬三家からの手紙
④ジュディ 虹の彼方に
⑤チャーリーズ・エンジェル
⑥コロンバス
⑦PMC:ザ・バンカー
⑧ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY
⑨スウィング・キッズ
⑩ムルゲ 王朝の怪物

※対象は2/21~3/21公開のもの

“クラスター”だの“オーバーシュート”に“テレワーク”“ロックダウン”って、新作映画の題名なのかと思っていたら、そうじゃなかったんですね。冗談はさておき、連日の新聞やTV報道の方が映画以上に映画的というか、自分がパンデミック映画の中に入りこんでしまったみたい。大変な世の中になったもんだ。

気をとり直して、マンスリーテンでは遅ればせながら劇場で観た『黒い司法 0%からの奇跡』は必見。80年代のアラバマ州を舞台に、冤罪で死刑宣告された黒人被告と、彼を救うべく奮闘した弁護士の話で、これが実話だというんだから、たまったもんじゃない。往年の名作『アラバマ物語』を彷彿とさせますが、ここにも差別と排斥による分断が! 弁護士役のマイケル・B・ジョーダン、死刑囚役のジェイミー・フォックス、ヒロインというべきブリー・ラーソン、いずれも熱演で、こういう映画を製作できるアメリカ映画の層の厚さに改めて感心させられました。『スキャンダル』も同様。

レニー・ゼルウィガーには、あまり興味がなかったのですが、それでも『ジュディ 虹の彼方に』の彼女は凄い。これならアカデミー主演女優賞受賞も当然だわな。外面を似せて演じるのではなく、熱唱も含めて役に入り込んでいるんだから、こういうのを入魂の演技というんでしょうね。余談ですが、わが日本の美空ひばりを連想させられ、ほぼ同じような年齢で亡くなっていることもあり、やはり芸道を究めるためには私生活を担保に入れなくちゃならないのかと、つくづく凡人の幸福を噛みしめたりして。

『スキャンダル』『馬三家からの手紙』『コロンバス』『PMC:ザ・バンカー』は〈水先案内〉でも書かせてもらったので、そちらも、ぜひ御一読を。『チャーリーズ・エンジェル』『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』はアクションに次ぐアクションの連続で、飽きさせず、それでいて、いまの時代の女性たちのあり方について、きちんと描いているあたりが見事。壊れたヒロインと現実につきあうのは大変でしょうが、映画で観る分には面白いですし。(私が観た3月の外国映画は19本)

『スキャンダル』(C)Lions Gate Entertainment Inc.

プロフィール

野村正昭(のむら・まさあき)

野村正昭(のむら・まさあき) 1954年山口県生まれ。映画評論家。年間新作800本を観る。旧作も観るが、それを数えると空恐ろしい数になるので、数えないことにしている。各種ベストテンの選考委員を務めている。

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