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浦井健治×高岡早紀 対談 新しい試みに刺激を受ける日々―『愛するとき 死するとき』インタビュー【後編】

ぴあ

浦井健治×高岡早紀  撮影:牧野智晃

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東西統一前後の東ベルリンを舞台に、社会主義体制の中で生きる人々の愛の交錯を三部構成で描いた『愛するとき 死するとき』。ドイツ人劇作家フリッツ・カーターが2002年に発表した戯曲を、ドイツで生まれ育ち、ドイツ発の舞台『チック』(17年初演、19年再演)で高い評価を得た気鋭の演出家、小山ゆうなが、現代の日本で立ち上げようとしている。その挑戦に共鳴し、カンパニーを先導するのは浦井健治と高岡早紀、初顔合わせとなる実力派のふたりだ。数々の経験を積んで来たふたりにとっても、これまでにない実験的魅力にあふれた今回の舞台、稽古渦中の手応えをじっくりと伺った。

「これまでにない不思議な体験をしています」(浦井)

――社会主義体制下のドイツにおける人間模様が描かれた、三部構成の戯曲です。とても興味深い作品への挑戦ですね。

浦井 今作のお話を世田谷パブリックシアターさんからいただいて、演出の小山ゆうなさんとは初めまして、ですが、ドイツで生活され、演劇を学ばれた方なので、ドイツ演劇にお詳しい。戯曲を読ませていただいたらとても難しくて、うわ、これは大変だ……!というのが第一印象でした。

高岡 私は、「小山さんという若くて才気あふれた演出家さんがいるんですよ」と教えていただき、また浦井さんが出演されることを聞いて興味を持ったんです。浦井さんは、どちらかというと私とは違うジャンルでお仕事をされて来た方だと思うので、ご一緒するのは自分の中で新しい試みだなと思いまして(笑)。

浦井 ありがとうございます(笑)。台本が、句読点もなかったりして読みづらいのもあって、とにかく難しいんですよ。それ以上に当時の、壁が崩壊する前後の東西ベルリンのことを肌でわかっているわけじゃないから、これは何? どういうことだろう? と疑問も多くて。でも立ち稽古に入って、小山さんが「これは作者のフリッツ・カーターさんというひとりの作家を、全員で演じていくのだと思います」っておっしゃった時に、なるほど、そういう世界観なんだな…って少しだけ見えて来た感じですね。

高岡 私も、台本を読んでも、理解も想像も出来なくて。どんなふうに成立するんだろう!?という不安が一番でしたね。ですから最初の本読みも、読むしかないな!という感じで読んでいって。そのうちになんとなく……でもやっぱり、世界観をつかむのは難しいですね。浦井さんがおっしゃったように、壁の崩壊前のドイツの閉塞感とか、なかなか肌で感じるのは難しいですし。

浦井 ただ、一部、二部、三部でまったく違うシチュエーションではあるんですけど、最初の本読みで皆の声を聞いた時に、直感的に一貫した空気を感じたのは不思議でしたね。小山さんが「ここに出てくる“彼”も“彼女”も、実はひとりの作家だ、というところに着地すればいい」と言ってくれたこととか、この戯曲の冒頭に「〜のために」といった献辞が入っていることから、この作品って小説のようだなと感じていて。だから、句読点なしで書かれているのはそういうことかな、と。歌もあるけどメロディアスに歌う感覚じゃないので、とにかく言葉で伝える、言葉を置いていく……という、これまでにない不思議な体験をしています。

「浦井さん、さすがだなあ〜って稽古の最初からずっと思っています」(高岡)

――キャスト全員が複数のキャラクターを演じますが、一部、二部、三部で、ここまでさまざまな個性を演じ分けることも、これまでなかった体験では?

高岡 そうですね。私が演じる母親役にしても3人いるから、それぞれのお母さんを表現しないと(笑)。演じ分けも、着替えを含めてすごく大変なんですけど、ただ浦井さんがおっしゃったように、すべての登場人物が“僕”の中のピースなのかもしれないということ。すべて“僕”の目線から見た、“僕”の中にいる人物かもしれない……そう考えていくと、お客様も楽しく観られるのではないかなと。あと、今、私が稽古場ですごく印象的だなと感じているのは、小山さんが「あ〜わかんないっ!」と言うこと、それが面白くて(笑)。

演出家の心理と役者の心理は違うと思うから、役者が疑問を投げた時に「わかんない、そうかもしれないし、違うかもしれない」と言ってくれるのは、俳優にとってはありがたいことだと思うんですね。たぶん答えは何でもいいと思うんですよ。筋が通らないことなんて、生きていくうえでいくらでもあるし、人生ってそんなものだから。「それは違う」と言われたら根底から考え直さないといけなくなるけど、「そっちも、あっちもあるかもね」と肯定していただけると、幅が広がって助かるなあと思えます。

浦井 ただ僕が思うに、小山さんはもう数ヶ月も前からスタッフの方々と打ち合わせをしているし、台本も推敲を重ねて第11稿にもなっているので、きっと明確なビジョンはお持ちなんですよね。でもそれをあえて言わずに、「皆はどう思う?」と楽しみながら聞いているような気がする(笑)。ちょっと余裕を持っているというか。時々、「あ、そのセリフのところはこうだから」ってスパーンと答えを出して来る時があって、あ〜ここはもう小山さんのビジョンが確立しているんだな、って感じたり。

このあいだ、立ち稽古を見たスタッフさんが「小山さん、会議を開いてください。プランの話をしていいですか?」って提案しているんですよ(笑)。初めて見る光景で、そういうのってこの戯曲ならではだなと。そうしたやり取りを経て、皆で作り上げたものをお客さまに楽しんでもらいたい。小山さんはそう考えてスケジューリングして、稽古を進めているんじゃないかなと感じています。

――初共演となるおふたりですが、稽古場でのお互いの印象を教えてください。

高岡 今、話を聞いていて…、稽古場でも思っているんですけど、浦井さん、すごいな!って。こんなに受け身でいられる人いるんだ!と。本当に珍しいくらいに、相手のことをちゃんと見てくれています。逆に言うと私も見ているけどね(笑)。

浦井 フフフフ。

高岡 演出家もスタッフも、おそらく「どうして最初からこんなに息が合ってるんだろう!?」と思っているんじゃないかと。それくらい、「一緒に前に進んで」と言われたら一緒に前に進むし、一緒に立ち上がれるし……。男の俳優さんには珍しいくらい、肩を前に出さない人なの!(一同笑)いや、私、別に誰かのことをディスっているわけじゃないんです(笑)、肩を前に出して来る方が本当に多いので。浦井さん、すごいなあ、さすがだなあ〜って稽古の最初からずっと思っています。

浦井 ハハハ。高岡さんは、現場を明るくしてくださる方です。小山さんに「これよりこっちのほうが良いのでは?」といきなり大改造を提案したり、カンパニーの若い役者さんたちを弾ませるようなイジリをしてくださったり。

高岡 フフフ、イジメ?

浦井 イジメじゃないっ(笑)。やはり百戦錬磨と言いますか、実生活でもお母さんでもあるし、すごく皆のことを見てくれていて。疲れた時には「疲れた」ってはっきり言う男らしさが…あ、いや、女らしさと言いますか。

高岡 ハハハ! どっちよ。

浦井 いや、本当に、ほかの役者さんたちも高岡さんにイジられることを望んで、自ら話しかけに行ったりしてるじゃないですか。

高岡 ウチの息子たちより若い方もいるからね。そういう意味では、とても幅広い年齢層のキャストで、この戯曲にすごく合っていると思います。

浦井 個人的に僕、台詞覚えが悪くて……。

高岡 そんなことないよ!

浦井 いや、わりとそう。だからつねに台本を読み返して覚えていかないと不安になっちゃうタイプで。でも高岡さんは、覚えると決めたらスパーッとやるんですよね。それで第一発目で答えを出したら、その表現がちゃんと台詞に残っている。それって僕には出来ないんですよ。台詞に説得力があるな!というのを目の当たりにして、素敵だな〜と思いました。今回高岡さんとご一緒出来て、すごく勉強になっています。

高岡 え〜そんなことを言ってくれてありがとう。

浦井 本当にそう思うんです。自分はとにかく、集中が切れると長台詞や突発的な台詞が出て来なくなっちゃうので、体に慣らしておくことをやっていかなきゃ、と思っています。

高岡 作品全体の底辺に流れているものは同じだけど、一部、二部、三部とまったく違う作風なので、一部が終わってさあ次という切り替えがまだ全然追いついていかないんです。とくに私たちは出ずっぱりだから、とにかく必要なのは集中力と、切り替え力と…、あとは何!?

浦井 体力!(一同笑)

作品の一部になった感覚で楽しんでもらえたら

――稽古を進める中で、現時点で感じている作品の味わい、魅力などはいかがでしょうか。

高岡 一部は、どちらかというと馬鹿馬鹿しい展開になっていて(笑)。大人たちが皆で馬鹿馬鹿しいことを一生懸命にやっている、その面白さはこれからもっともっと増していくような気がします。もう毎日が試行錯誤の連続なんです。『愛するとき 死するとき』というタイトルのごとく、大きくて長い人生の中で、馬鹿馬鹿しいこと、悲しいこと、怒り……そういう色々な感情がゴチャ混ぜになっているんです。だから観る方々が何を思うかは自由で、いろんな感情を共有したり、人ぞれぞれで全く異なる印象を受けたりすると思います。

浦井 小山さんはこの戯曲のラストを、本読みの段階では“死”と捉えていたそうなです。でも立ち稽古に入ったら考えがガラッと変わって、ラストで“希望を持った”、もしくは“何かを投げ捨てて、そこから進もうと思った”、そんなふうに感じたと。今の、まだコロナ禍が終息したかどうかも定かではない日本で、ドイツの戯曲を上演する。その結末に、何かこの先の光を感じてもらいたい……というのが小山さんの今の狙いなのかなって。ただ、もちろん高岡さんがおっしゃったように、それぞれの自由な見方でいいと僕も思います。

――小劇場の緊密な空間で、本作に出会えることにも期待が募ります。

浦井 はい、今回は劇場がシアタートラムで、舞台と客席が近いからこそ、お客様が一緒にこの作品を作ってくださるようになっていったら素敵だなと思っています。作品の一部になった感覚で、楽しんでいただけたら……、そこを目指して日々頑張っていきます!

高岡 ドイツの戯曲で、社会主義体制の中で…といった部分だけ見ると、すごく重い作品と思われがちですけれど、「浦井さんと高岡さんがトラムでお芝居やるんだ!見てみたいな〜」くらいの軽いノリで来ていただけたら(笑)、楽しんでいただけると思います。



取材・文:上野紀子 撮影:牧野智晃



翻訳・演出の小山ゆうなさんへのインタビューも掲載中!

『愛するとき 死するとき』
作:フリッツ・カーター
翻訳・演出:小山ゆうな
出演:浦井健治 /
前田旺志郎、小柳友、 篠山輝信
岡本夏美、山崎薫 /
高岡早紀

2021年11月14日(日)~2021年12月5日(日)
会場:東京・シアタートラム
名古屋・兵庫でも上演

チケット情報
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2181001

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