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立川直樹のエンタテインメント探偵

独創性に唸ったイキウメの『獣の柱』。贔屓の劇団がまたひとつ増えた!

毎月連載

第27回

イキウメ『獣の柱』左から、浜田信也、安井順平、村川絵梨/撮影:田中亜紀

 イーグルスの名盤『ホテル・カリフォルニア』に『駆け足の人生』という名曲が収録されている。原題は『LIFE IN THE FAST LANE』。追い越し車線を走っている人生 ──とでもいう感じだが、メモを見てみると本当に自分でも飛ばしているなと思う。

 前回の続きからいくと、5月27日にはコシノジュンコさんのブティックで開催された『吉川有悟展/キュイジーヌの世界』のレセプション・パーティで、日本人の父とフランス人の母の間に生まれ、幼年期から10代の後半をロンドン、パリ、東京、バンコク、ニューヨークで過ごしたというバックボーンも納得の、独特のセンスにあふれたチャーミングな絵を観て、いい気持にさせてもらったのを皮切りに、29日にはシアタートラムでイキウメの『獣の柱』の独創性に唸らされ、その翌日にはワタリウム美術館で7月7日まで開催されている『ジョン・ルーリー展』にKOされた。絵もいいし、タイトルも最高。

 そして展覧会2つは、チラシや案内状から大方の予想がついていたのに対し、『獣の柱』はほとんど予備知識がなく出かけたので、観劇の喜びはひとしおだった。天文マニアと隕石との出会いから、地球と人間の行く末までを描いたパニックSF ──と言葉にしてしまうと簡単だが、SFの展開をこんなにうまく演劇化できるのかと驚かされ、舞台美術や音楽、音響の使い方も抜群だった。

 これでまた贔屓の劇団がひとつ増えたことになるが、東麻布のギャラリーTake Ninagawaで開催されていた大竹伸朗の展覧会も銀座のポーラ ミュージアム アネックスで開催されていた束芋の国内では9年ぶりになる本格的な個展『透明な歪み』も、谷中のSCAIで7月6日まで開催されている横尾忠則『B29と原郷ー幼年期からウォーホールまで』も贔屓のアーティストのパワーと健在ぶりが十分に感じられたものだった。

『LUNA SEA The 30th Anniversary Special Live』、CD 14枚組ボブ・ディラン『ローリング・サンダー・レヴュー:1975年の記録』

 そして6月に入って最初の日には日本武道館でLUNA SEAの結成30周年記念ライヴ。アンコールも含めて3時間近いコンサートだったが、5人のメンバーのパワフルでレベルの高いパフォーマンスは、これこそが“ロックの力”と感じさせてくれるもので、音響と、レーザー光線をうまく使った照明などについても申し分ないレベルに達していた。次の新作はスティーヴ・リリーホワイトがプロデュースするというから、これも楽しみだ。

 CDの楽しみと言えば、6月7日に世界同時発売されたボブ・ディランの『ローリング・サンダー・レヴュー:1975年の記録』がCDという複製物の魅力たっぷりのもの。絶頂期を迎えた30代半ばのディランがアメリカ建国200年を迎えた年に、アメリカ再発見と巨大化するロック・ビジネスの軌道修正を目指してジョーン・バエズやミック・ロンソン、ロジャー・マッギン、ボビー・ニューワース……など素晴しい共演者と行ったツアーのライヴ音源を中心にしたCD14枚組で枚数もさることながら中味の濃さには完全に圧倒される。

 収録曲は148曲。ツアーでライヴ録音された5回の完全フルコンサートで10枚。最近、新たに見つかったツアー・リハーサル音源で3枚、さらに希少な音源などをまとめた1枚という内容で56ページのオリジナル・ブックレットと136ページの日本版ブックレットがついていて、15000円というのは絶対にお買得だ。

 あとは、6月5日にセルリアンタワー能楽堂で『川井郁子の音がたり~源氏物語~』。6月8日には白山市の東二口歴史民俗資料館で人形浄瑠璃・でくの舞の『出世景清』を特別に上演してもらった。これは東二口集落に350年以上前から伝わるものだた、保存会の人たちの芸のプリミティヴな魅力には胸の奥が熱くなった。

 本当に世の中にはまだ知らないものがたくさんある。だから、駆け足でも走り続けることになるのだが、目黒にある長泉院附属現代彫刻美術館で開催されていた『複合の彫刻家たち展』の素晴しさ ──日曜美術館のアートガイドで見て出かけた。その存在も知らなかった美術館、かなり前の37、8年前に開館していたという ──に唸らされた後で、東京都写真美術館の『世界報道写真展2019』の迫力に圧倒され、最後はシアターサンモールでWAHAHA本舗の『~ショー・マスト・ゴー・オン~』で馬鹿笑いして、夜は『MET STARS SING PUCCINI』を聴くなんてスケジュールになってしまう。その日は『田園の守り人たち』という映画の試写にも出かけているから、もう頭の中はいっぱいいっぱいになった。でも、この流れはとまることがないだろう。

作品紹介

イキウメ『獣の柱』

日時:2019年5月14日~6月9日
会場:シアタートラム
作・演出:前川知大
出演:浜田信也/安井順平/盛隆二/森下創/大窪人衛/村川絵梨/松岡依都美/薬丸翔/東野絢香/市川しんぺー

『LUNA SEA The 30th Anniversary Special Live』

日程:2019年5月31日~6月1日
会場:日本武道館

ボブ・ディラン『ローリング・サンダー・レヴュー 1975年の記録』

発売日:2019年6月7日
ソニー・ミュージックレーベルズ

プロフィール

立川直樹(たちかわ・なおき)

1949年、東京都生まれ。プロデューサー、ディレクター。フランスの作家ボリス・ヴィアンに憧れた青年時代を経て、60年代後半からメディアの交流をテーマに音楽、映画、アート、ステージなど幅広いジャンルを手がける。近著に石坂敬一との共著『すべてはスリーコードから始まった』(サンクチュアリ出版刊)、『ザ・ライナーノーツ』(HMV record shop刊)。