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『グランメゾン東京』 で天才を追いかける「努力の人」に 玉森裕太の“静かな演技派”としての実力

リアルサウンド

19/11/17(日) 6:00

 “憂い”の演技が際立つ人だと思う。

 TBS系列でO.A.中のドラマ『グランメゾン東京』に出演中の玉森裕太。事務所の先輩、木村拓哉演じる天才シェフの後輩役を瑞々しく演じる姿が印象的だ。

 今年、紅白初出場も決まったKis-My-Ft2のメンバーとして音楽番組やバラエティで活躍しながら、俳優としてさまざまな作品で鮮烈な残像を残す彼の魅力について語ってみたい。

 パリの二ツ星レストランで腕を振るう気鋭のシェフ・尾花夏樹(木村拓哉)。が、首脳会談の席で出した料理の中に、出席者のアレルギーを誘発する食材が混ざっており、尾花はパリの料理界から追放される。日本の恥と呼ばれながら帰国した彼は、フランスで出会った料理人・早見倫子(鈴木京香)とともに東京で新たなフレンチレストラン「グランメゾン東京」をオープンさせるのだが、同店をつぶそうとライバル店からさまざまな策略と妨害がーー。

 『グランメゾン東京』で玉森が演じるのは、フランス時代から尾花のコミ(見習い)として厨房で働いていた若手シェフの平古祥平。帰国後はホテルのビュッフェレストランで最年少の料理長を務め、大物都議会議員の娘・美優(朝倉あき)と婚約中という役どころだ。

 じつは誰よりも尾花に心酔し、彼の技術を買っている平古だが、パリでのトラブル以来2人の間には深い溝がある。そんな中、かつての仲間・相沢(及川光博)や京野(沢村一樹)も「グランメゾン東京」に合流し、平古のホテルの後輩・パティシエの松井(吉谷彩子)まで尾花にスカウトされ、店でデザートを作るという。

 素直になりたいのに素直になれない。プライドと意地、認められないことへの焦りと怒り、そして抑えきれない尾花への料理人としての憧憬。そんな平古の複雑な感情を玉森は繊細に魅せる。ホテルに訪れた尾花が自分を引き抜きにきたのかと一瞬表情を崩し、それが間違っていたと察した時の演技や、京野に渡された尾花作の鹿肉料理を暗い厨房で口にし、ひとり感極まって涙するシーンの芝居は特に見事だった。

 2009年、多くの若手俳優を輩出したドラマ『ごくせん 卒業スペシャル’09』(日本テレビ系)でドラマデビューを果たした玉森は、その後も『美男ですね』(TBS系)、『信長のシェフ』(テレビ朝日系)、『ぴんとこな』(TBS系)等で主演を務め、ジャニーズ事務所の中でも“静かな演技派”として独自の道を歩む。

 特にその演技力に感嘆したのは2017年にO.A.されたTBS金曜ドラマの『リバース』。大学時代のゼミの仲間が不審な死を遂げ、その真相を10年ぶりに再会した同級生たちが互いに疑いを持ちながらも探っていくというミステリータッチの同作で、玉森は真面目な高校教師・浅見を演じた。32歳の現在と、22歳の大学生時代(回想)という2つの軸が交差する構成の中、藤原竜也、小池徹平、三浦貴大といった手練れに負けじと「普通の高校教師」を真摯に演じる姿が記憶に残る。

 誤解を恐れずに言えば、ことドラマの中で役を演じる玉森裕太は“ジャニーズらしくない”プレイヤーである。

 ハジけるような明るさや光り輝く華といったキラキラした佇まいでなく、心の中にさまざまな葛藤を抱え、理性と感情の狭間で悩む……そんな役柄がぴったりハマる。前出の『リバース』でも、生徒に人気があるわけでも女性にモテるわけでもない普通の教師役をひたむきに演じる姿はいわゆるアイドルではなく“役者”のそれである。

 『グランメゾン東京』でも玉森演じる平古はさまざまな葛藤を見せる。1番憧れ信頼している相手から認められない悔しさと、その存在を断ち切れない片思いのような心の揺れ。木村演じる尾花の“ツン”に“ツン”で対抗しつつ、心の底では“デレ”を求める切ない表情が秀逸だ。

 また、このドラマ上での関係性が現実のふたりにリンクするのも興味深い。トップアイドルとして世間の注目を一身に浴びてきた木村と、その背中を見ながら先輩に認められたいと走り続ける玉森。平古にとっても玉森にとっても『グランメゾン東京』は絶対に負けられない勝負の場なのである。

 さらに本作にはちょっと面白い趣向がある。それが平古視点で彼の日常が描かれるスピンオフドラマ『グラグラメゾン 東京』(Palavi)の配信。婚約中の美優の気持ちがわからなかったり、ホテルの厨房で部下たちにかつて自分が尾花に言われたのとそっくり同じ言葉をぶつけていたり、松井の前で酔っ払い愚痴を言ってみたりとドラマ本筋以外で展開する平古のサイドストーリーが興味深い(そしてその素顔は非常にキュート)。

 玉森裕太に見えるのは青い炎だ。赤く情熱的に燃える火ではなく、静かに高い温度で熱量を生み出す青い炎。トップに君臨する天才でなく、その天才の背を見つめながら挫折し、己の道を必死に拓こうとする努力の人。

 今後、ドラマの中でも平古の存在がひとつのキーワードになるのは間違いない。そこで玉森がどんな炎を魅せてくれるのか、物語の行方とともに注目したい。(文=上村由紀子)

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