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相次ぐ大幅公開延期 その背景にある「満席にできないジレンマ」

リアルサウンド

20/6/10(水) 19:00

 先週の週末動員ランキング。劇場は営業再開したものの、まだまだ新型コロナウイルスの動員への影響が続く中、2位にジム・ジャームッシュ監督『デッド・ドント・ダイ』、5位にリュック・ベッソン監督『ANNA/アナ』と、いずれも80年代から長いこと日本でもファンベースを築いてきた監督の新作が初登場しているのは公開タイミングのせいとはいえなかなか感慨深い。思わず「映画を救うのは一般層ではなく中年以上の映画ファンだ」なんてことを言いたくもなってくるが、興行通信社はまだ興行収入の発表を控えたまま。自分も先週劇場に足を運ぶ機会があったのだが、客入りの寂しさに少なからずショックを受けた。映画興行の本格的な復活はまだまだ遠い。

参考:劇場版『名探偵コナン 緋色の弾丸』2021年4月公開へ 当初の公開予定日から約1年延期

 そんな中、今週に入っていくつかの注目すべき「公開延期」の発表があった。一つは、当コラムでも再三取り上げてきた『名探偵コナン 緋色の弾丸』。当初の公開予定日だった2020年4月17日から、丸一年後となる2021年4月の公開になることが決定した。メジャー配給による日本映画のシリーズ作品は、そのほとんどが年間スケジュールの中で公開時期が固定されているため、今回のような「緊急事態」が発生した場合、数ヶ月の延期では収まらない作品が出てくるであろうことは以前から指摘してきたが、1997年から休むことなく毎年製作されてきた『名探偵コナン』シリーズは、これで2年開くことになる。今や日本映画界屈指のヒットシリーズとなった同作が1本丸ごと年間興収から消滅することの経済損失は、言うまでもなく甚大だ。

 大幅な「公開延期」となったのは、何も『名探偵コナン』のようなブロックバスター作品だけではない。既に各メディアにおける精力的なプロモーションも始まっていて、前評判もすこぶる高かった(自分も新型コロナウイルス感染拡大前に試写で観ましたが素晴らしい作品でした)、今泉力哉監督の新作『街の上で』は、当初の公開予定日だった2020年5月1日から、2021年春の公開になることが決定した。自分が注目したのは、公開延期の告知に寄せた今泉監督の文章の次の一文だ。「まだまだ先の見えない状況ではありますが、やはり満席の劇場が似合う作品だと思ってます」。

 映画館の営業は再開できるようになった。しかし、ウイルス対策のために劇場はまだ満席にできない。そのジレンマの中で、今、多くの作品が困難な判断を強いられている。もっと言うなら、経営体力のある大手シネコンならともかく、(自分も以前働いていたのでよくわかるが)『街の上で』が上映されるような多くのインディペンデント系の劇場やミニシアターは、年に何作か生まれる人気作の満員興行による利益で、経営を回してきたのが実情だ。劇場側にとっては、本来は満席になるはずの作品でも満席にできない。作り手にとっては、作品の興行的なポテンシャルが損なわれる。観客にとっては、ウイルスへの予防意識だけでなく、客席制限によってチケットが売り切れかもと疑心暗鬼になって劇場から足が遠のく。この悪循環をどこかで断ち切らなくてはいけない。

 アメリカの主要都市でも、大手シネコンの各チェーンは7月に入ってから客席を25%(前後左右を空席にする)にして営業を再開していく見込みだという。毎日各都市で何万人もの人々がBlack Lives Matterのデモで密集しながらも、その街の映画館は開いていない現在の状態を報道で追っていると、ちょっと不思議な気持ちにもなってしまう。(宇野維正)

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