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野村正昭 この映画がよかった! myマンスリー・ベスト

私の9月第1位は、日本映画『僕たちの嘘と真実 Documentary of 欅坂46』、外国映画『TENET テネット』に決定!

毎月連載

第26回

20/9/30(水)

9月公開の日本映画、この10本

①僕たちの嘘と真実 Documentary of 欅坂46
②窮鼠はチーズの夢を見る
③劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン
④映像研には手を出すな!
⑤喜劇 愛妻物語
⑥Daughters
⑦映画クレヨンしんちゃん 激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者
⑧荒野のコトブキ飛行隊 完全版
⑨「はたらく細胞!!」最強の敵、再び。体の中は“腸”大騒ぎ!
⑩セノーテ

※対象は8/26~9/26公開のもの

じわじわと劇場公開本数が増えてきて、それにつれて、このマンスリーテンも、対象作品の中から選択肢が広がり、少しずつ楽になってきたわけですが(これは外国映画も同様)、ひょっとして、この位の本数が、小生のような観客にとっては適正本数かもしれません。これでもタイミングがあわず、見逃した作品が、まだまだありますが……。

『僕たちの嘘と真実 Documentary of 欅坂46』は、文句なしのマンスリーワン、というか、個人的には年間テンの中でも上位に入ること間違いなし。平手友梨奈出演の『さんかく窓の外側は夜』が、10月30日公開から来年公開に延期になってしまって、ああ、もう待ちきれない!

『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』は待たされた甲斐もあって、やはり京都アニメーションの実力というか底力を思い知らされる快作で、人に思いを伝えることの切実さを、ここまで丁寧に描かれては脱帽するしかなく、これもコロナ禍の影響で漸く公開になった『映画クレヨンしんちゃん 激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者』は、ラクガキを通して、遊び心の大切さ&ラクガキ・キャラクターたちの侠気に感動させられました。そして、思わぬ収穫だったのは、『荒野のコトブキ飛行隊 完全版』で『ガールズ&パンツァー』の空戦版というか、戦闘機を駆る雇われ用心棒の少女たちの活躍に目をみはりました。空中戦の迫力たるや、『ミッドウェイ』と互角に張り合えるほどで、しかも機体に当る銃弾の金属音もリアルで音響効果が凄い。さらに『「はたらく細胞!!」最強の敵、再び。体の中は“腸”大騒ぎ!』は、往年の映画ファンにとっては『ミクロの決死圏』(1966)を彷彿とさせる設定ですが、むしろ大胆にオートメ化されていて、赤血球や白血球、乳酸菌や血小板などが、それぞれ実に見事にキャラクター化され、彼や彼女たちが一致団結して、インフルエンザ・ウィルスや、ガン細胞らと戦う過程をエンタテインメントとして昇華していて、子供だけに観せるのは勿体ない。医学考証のレベルも高く、折々に出てくる字幕説明も勉強になります。マンスリーテンのうち4本もアニメーションになってしまいましたが、騙されたと思って、ぜひ観てほしい。勿論、『窮鼠はチーズの夢を見る』や『喜劇 愛妻物語』『Daughters』なども十分見応えのある力作でしたが、アニメーションの前では、実写勢は何となく、たじたじの感がありました。

『映像研には手を出すな!』は、“水先案内”にも書かせてもらいましたが、NHKで放映された連続アニメーション版が傑作で、正直申し上げると、この実写劇映画版には危惧を抱いていましたが、浅草さんを演じた齋藤飛鳥の好演もあって、予想以上の出来栄え。これだけ力作が目白押しだと、“水先案内”した『人数の町』が、はみ出してしまったのが申し訳なく、例月だとテン入り確実の『宇宙でいちばんあかるい屋根』や『友達やめた。』『甘いお酒でうがい』『リスタートはただいまのあとで』なども圏外になってしまい、ひたすら平身低頭の有様です。(私が観た9月の日本映画は23本)

『窮鼠はチーズの夢を見る』 (C)水城せとな・小学館/映画「窮鼠はチーズの夢を見る」製作委員会

9月公開の外国映画、この10本

①TENET テネット
②ミッドウェイ
③Mid90s ミッドナインティーズ
④アダムス・ファミリー
⑤パヴァロッティ 太陽のテノール
⑥スペシャルズ! 政府が潰そうとした自閉症ケア施設を守った男たちの実話
⑦ヒットマン エージェント:ジュン
⑧ソニア ナチスの女スパイ
⑨イサドラの子どもたち
⑩マイ・バッハ 不屈のピアニスト

※対象は8/26~9/26公開のもの

『TENET テネット』は、観てきた人たちのほぼ全員が「一度観ただけでは分からない」と口裏をあわせたかのようにコメントし、こちらとしては、おそらく、ノーラン監督の初期作『メメント』(2000)の延長線上&スケールアップしたものなんだろうなと見当をつけて、劇場で観ましたが、観ている間はなんとも言いようのない違和感があり、ディテールの粗さも目について、唸るばかり。しかし、いざ、こうして9月に観た作品のリストを並べてみると、やっぱりマンスリーワンは『TENET テネット』以外には考えられない! 映画全体のパワーに捩(ね)じ伏せられたというか、途中でこれは典型的なアイデア倒れなのではないかとも思いましたが、その“倒れ”てる部分が異様に面白いんだから、もう仕方がありません。破綻に次ぐ破綻、しかし、腕力でそれを納得させてしまうという意味では、これぞ映画の醍醐味なのかもしれず、とにかく観た後で無性に誰かと、この映画について話したくなる。かつては、そういう映画がゴロゴロ存在していたのに、最近は滅多になく、久しぶりの“お騒がせ映画”に、すっかり興奮させられました。

『ミッドウェイ』は興行的には苦戦しているようですが、やはり太平洋戦争ものは遠くになりにけりということなのかなぁ。でも、エメリッヒ監督にしては、日米両陣営に配慮し、少なくとも『パール・ハーバー』(2001)のレベルでは断じてなく、豊川悦司も浅野忠信も、ちゃんと様になっている。真珠湾攻撃もミッドウェイ海戦も、そこに至る経緯が描かれていて、日米戦史映画の中では、かなり出来が良いと思われるのに、この成績は残念。

今月は佳作が多く、日本映画同様に『行き止まりの世界に生まれて』『プリズン・エスケープ 脱出への10の鍵』『鵞鳥湖の夜』『チィファの手紙』『VILLE NEUVE 新しい街 ヴィル・ヌーヴ』『世宗大王 星を追う者たち』などをテンに入れられず、ここでも残念無念でした。(私が観た9月の外国映画は19本)

『ミッドウェイ』 (C)2019 Midway Island Productions, LLC All Rights Reserved.

プロフィール

野村正昭(のむら・まさあき)

野村正昭(のむら・まさあき)1954年山口県生まれ。映画評論家。年間新作800本を観る。旧作も観るが、それを数えると空恐ろしい数になるので、数えないことにしている。各種ベストテンの選考委員を務めている。

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