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『鋼の錬金術師』マスタング大佐とリザ・ホークアイの“強い絆” 運命を共にする二人の覚悟を考察

リアルサウンド

21/1/20(水) 8:00

 2001年から約10年にわたって「月刊少年ガンガン」で連載された荒川弘『鋼の錬金術師』。アニメ化だけではなく、実写映画、ゲーム、ドラマCDとさまざまなメディアミックスもなされ、多くのファンを魅了した。

  エルリック兄弟の運命を大きく変えることとなったのが焔の錬金術師と言われるロイ・マスタング大佐。そのマスタング大佐を支えるのがリザ・ホークアイ中尉だ。冷静で有能、クールな彼女だが、時折見せる素の言動からは思いのやりのある女性だということが分かる。

 マスタング大佐の右腕として大きな働きをするようになった彼女もまた、重い過去を背負っていた。

長い戦いの始まりはロイと共に

 ロイとリザの関係は単なる上司と部下ではない。もともと、ロイはリザの父親を錬金術の師と仰いでいた。彼は「最高最強の錬金術」の研究を完成させており、自身も満足をしていた。しかし、ロイにその「力」を授ける前にこの世を去ってしまう。「私の研究の全ては娘が知っている」「娘をたのむ」と言い残して。

 「錬金術」の秘伝はリザの背中に入れ墨として刻まれているのである。消失や持ち出しを恐れていたと同時に、父としては娘が信頼できる人間に託したいと思っていたからかもしれない。父の葬儀でロイの「この国の礎のひとつとなって皆をこの手で守ることができれば幸せだと思っている」という言葉を聞いて、リザは父から預かったものをロイに託すことを決意する。

 その後、2人が再会したのはイシュヴァールの内戦だった。ロイは少佐として大きな戦果を挙げ、リザは士官学校生でありながら優れた狙撃手として活躍していた。しかしお互い『手柄』をあげていようとも、2人の表情は暗い。

「ああ、なんという事だ この女(ひと)も人殺しの目になってしまった」
「人に幸福をもたらすべき錬金術がなぜ人殺しに使われているのですか」

絶望を知った2人が歩き始めた道

 イシュヴァールの内戦を経て、「この国を仲間と共に変えたい」という理想を掲げたロイ。そこで、信頼をおける人物だけをそばに置くようになった。その中にはもちろんリザがいる。

 イシュヴァールの内戦後、自分の背中にある錬金術の秘伝を焼き潰してくれとロイに頼んだリザ。一度は「そんな事できるわけがない」と拒否をしたロイだったが、それがリザの新たな一歩だということを承知し、引き受けた。そんなリザにロイが頼んだ、いや命じたのは「私の背中を守ってもらいたい」。

 「私が道を踏み外したらその手で私を打ち殺せ」と命じ、そして問いかける。「付いてきてくれるか」。リザの答えは簡潔だった。「お望みとあらば地獄まで」。

 自分が道を踏み外したかどうかの判断を委ねるというのは、絶大なる信頼を置いていないとできないことだが、ロイにとってリザにはその資格があるということだ。一方で、これは自分が背負っているものを共に背負わせることにもなる。

ロイを守るために、リザはそばに居続ける。

 リザがロイにとって重要な存在であることは敵対するものから見ても明らかである。だからこそ、人質のような形で引き離されたこともある。それでも、どんなときも、リザはロイに付き従うし、そばで支える。もちろん、それはロイの身を守るという意味もあるだろう。しかし、それと同時にロイの”尊厳”を守るためでもあったのではないか。

 親友を殺したホムンクルス「エンヴィー」と相対したとき、ロイは憎しみを晴らすためだけに錬金術を使った。そんなロイの背後から、リザは銃を構える。

 ロイが道を踏み外さないように。そして、父が残した錬金術の秘伝が、ロイが堕ちる原因にならないように。ロイの焔の錬金術としての始まりはリザで、その責任を彼女は負っていたのかもしれない。

 自分が進むべき道に迷ったリザに、ロイは自分の背中を託すことで、生きる道を指し示したのではないか。全ての戦いのあとも、リザはロイに付き従う。きっと、2人の運命はどちらかの命が尽きるまで共にある。「父の弟子」「師匠の娘」という関係性ではなく、愛や友情というものも超えた、強い絆が2人を結んでいる。

(文=ふくだりょうこ(@pukuryo))

■書籍情報
『鋼の錬金術師』(ガンガンコミックス)27巻完結
著者:荒川弘
出版社:スクウェア・エニックス
ガンガンONLINE『鋼の錬金術師』サイト

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