Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

ぴあ

いま、最高の一本に出会える

佐藤健

佐藤健『ひとよ』で見せた“汚れが滲み出てくるような雰囲気”

19/11/8(金) 8:00

本日11月8日より、白石和彌監督による映画『ひとよ』が全国公開される。

15年前。降りしきる雨の夜に、その「事件」は起きた。小さなタクシー会社を営む一家の母親が、父親を殺害したのだ。母・こはる(田中裕子)と3人の子供たちは、父親から度重なる暴力を振るわれており、子供たちを守るための苦渋の手段だった。当然のように事件はセンセーショナルに報道され、「一夜(ひとよ)」にして家族をとりまく環境は一変してしまう。

そして現在、三兄妹はそれぞれの道を歩んでいた。兄の大樹(鈴木亮平)は地元の電気店、弟の雄二(佐藤健)は東京でフリーライター、そして妹の園子は地元のスナックで働いている。「ひとよ」の前に描いていた夢とは、違う環境にいる彼ら。なかでも、小説家の夢を持っていた雄二は、ままならない現状にフラストレーションを抱えていた。そんなある日、刑期が終わってからも、姿を見せなかった母が、家族のもとに帰ってきたという知らせが届くーー。

佐藤健

佐藤健の演じる雄二は、これまでの彼のイメージとは異なる「スレた」役どころだ。彼はこの役にどう挑んだのだろうか?

「難しい役とは思いませんでした。なぜなら“意味”はわかるじゃないですか。もちろん僕には、雄二のような経験はない。だけど、もし同じ立場になったら、こういう行動をとるかもしれない、こういう言葉を母親にぶつけてしまうかもしれない……。そんな、彼のやっていることの“意味”は、理解できると思います」

自分たちを救ってくれた、でも人生を大幅に変えてしまった母親に対しての複雑な想いを「よくわかる」という佐藤。彼が役を演じる上で、「意味がわかる」という点は、かなり大事にしているそうだ。

「まあ、意味のわからない役が来たことはないのですが(笑)。その場合は、わかるまで努力するか、わからないまま演じるかのどちらかでしょうね。でも、“わからないもの”って、努力でどうにかなるものばかりではないし。もし、そういう役が来たら悩むだろうなと思いますね。そもそも、僕自身がそこまで変わった人間でもないので、僕がわからないということは、作品を見ているお客さんにも伝わらないんだろうし」

佐藤健

口元にはヒゲをたくわえ、腰回りもデスクワークの多いフリーライターらしい(?)肉付きになっており、驚く観客もいるかもしれない。佐藤自身、体格にはこだわりがあったようだ。

「白石組に参加するなら、まず芝居の重心が低いというか、“線が太い”方がいいと考えたんです。体内にこびりついた汚れが滲み出てくるような雰囲気が欲しくて、それを体現しました」(佐藤)

白石組への参加を、「念願かなっての出演」と嬉しそうに語る佐藤。『凶悪』(2013年)、『日本で一番悪い奴ら』(2016年)など、社会派作品の印象が強い白石監督だが、これまでに観た作品の中では『彼女がその名を知らない鳥たち』(2017年)は、「日本映画で久々に引き込まれた、こんなに騙された作品はない」と、お気に入りなのだとか。

そんな思い入れの深い白石監督作品への出演だが、雄二の役については作り込んだわけではなく、撮影もフラットに挑んだようだ。

「監督も色々と言葉にする方ではありませんでしたし、現場に入るまでは、どんなシーンになるのか想像のつかない状態でした。むしろそうすることで、自分のすべきことがおのずと見えてくるというか、かなり自然体でいられました」(佐藤)

佐藤健

本作には印象的な言葉がたくさんある。中でも、こはるが口にする「もう、自由になっていい」は、その後の兄妹にも大きな影響を与えていたように感じる。この家族にとっての「自由」を、佐藤はどう考えているのだろうか?

「家族がこういう環境だったら、自然と“自分に幸せになる権利なんかない”だとか、色々なことを考えてしまうと思うんです。何か上手くいかないことがあっても“こんな家族のもとに生まれたのだから、仕方ない”みたいに思い込んでしまうというか。そういう縛りから解き放たれることが、“自由”につながるんじゃないかな。だけど、この家族はこの映画のあとも、急に自由を取り戻すわけではなく、大きくは変わらないかもしれない。雄二も年に一回くらい帰省するくらいで。それでも観てくれる人が、この家族が少しでも“自由になった”と感じてくれたら」(佐藤)

佐藤健
佐藤健

ちなみに、佐藤自身にとって「人生が変わった一夜」はあるのだろうか?

「ん~~。“スカウトしてもらった日”が、そうと言えるんですけど、昼なんですよね(笑)。その日のことはよく覚えています。高校2年のゴールデンウィークに、原宿に買い物に行った時のことですね。生まれて初めての東京で、ビクビクしながら歩いていたところ、声をかけてもらったんです。もちろんその日だけで変わったわけじゃないけれど、今思えばきっかけとしては大きな一日でした」(佐藤)

そして最後に、この映画を鑑賞後、自分の家族のことにも想いを巡らせてほしいと語ってくれた。

「“忙しくて最近家族と話してないな”とか、何でもいいんで、そう感じて久々に家族と連絡をとる……なんてことがあったら嬉しいですね」

佐藤健

撮影/奥田耕平、取材・文/藤谷千明

アプリで読む