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【おとな向け映画ガイド】

待望の映画化、ブロードウェイミュージカル『イン・ザ・ハイツ』と、台湾の大ヒットホラー『返校 言葉が消えた日』をご紹介。

ぴあ編集部 坂口英明
21/7/25(日)

イラストレーション:高松啓二

今週末(7/29〜31)に公開される映画は17本。全国100スクリーン以上で拡大公開される作品は『ジャングル・クルーズ』『映画クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園』『イン・ザ・ハイツ』の3本。中規模公開、ミニシアター系の作品が14本です。今回はその中から、『イン・ザ・ハイツ』と『返校 言葉が消えた日』をご紹介します。

ブロードウェイの歴史を変えた
『イン・ザ・ハイツ』

真夏のニューヨーク、道路いっぱいに500人ものダンサーがあふれ、歌い踊る。早くこういう日々が戻らないか、大きなスクリーンに映し出される圧巻のパフォーマンスに興奮しながら、そう思います。ラテン系のリズミカルな音楽とラップを融合した、まさに現代のブロードウェイ・ミュージカル。米ステージ界の最高権威、2008年のトニー賞では作品賞ほか4部門で受賞した作品の待望の映画化です。

“ハイツ”とは、ワシントン・ハイツ。ニューヨーク・マンハッタンの最北にある実在の町です。ドミニカ、キューバ、プエルトリコ、メキシコといった中米の国々からやってきた移民が多く住んでいます。服装はカラフル、ラテン系の音楽が聞こえてきそうな陽気な町ですが、人種差別や都市開発といった問題を抱えてもいます。

主人公は、故郷に帰る日を夢見るドミニカ出身のウスナビ(この風変りな名前の由来は、ぜひ映画で)。彼の心地よいラップにより、ストーリーが進行していきます。このウスナビを中心に、デザイナー志望のヴァネッサ、町の人々の期待をになって名門大学に入学したニーナ、タクシー配車係のベニー、4人の若者たちが逆境に立ち向かい、夢に踏み出す姿を描きます。

このミュージカルの原作者で、作詞作曲も担当したのはリン=マニュエル・ミランダ。プエルトリコ人の両親を持つニューヨーカー。大学2年生のときに書いたこの作品が、オフ・ブロードウェイからブロードウェイに進出し、大成功を収めます。ラティーノ(中南米移民)俳優だけが舞台に立つ、ヒップホップ系のミュージカルは、クラシック、ポップス、ロックが中心だったブロードウェイの歴史を変えました。ミランダはこの作品のあと2016年に、『ハミルトン』でトニー賞をなんと11部門受賞。いまや、アメリカ演劇界の顔的存在です。

全てがアジア系キャストという『クレイジー・リッチ!』を大ヒットさせたジョン・M・チュウが監督。ストリートダンサーを集めたTHE LXDシリーズというウェブムービーでも知られています。適役です。ニューヨークの下町でラティーノが主役、というと『ウエスト・サイド物語』を思い出しますが、ダンスシーンのインパクトは、あの古典に負けていません。いくつかのミュージカル映画へのオマージュも隠れています。

【ぴあ水先案内から】

渡辺祥子さん(映画評論家)
「……移民の若者たちの不満や心の傷が率直に吐き出され、そのパワーに圧倒されながらミュージカルの持つ力の強さを実感させられる」

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台湾のホラーゲームが原作
『返校 言葉が消えた日』

このところ台湾映画に傑作が多く、目が離せません。2019年、台湾最大のヒットになったこの『返校』も、サイコホラーなのですが、盛り込まれた内容がとても奥深く、怖いだけにとどまりません。他の国ではなかなか真似できない独特の世界を作りだしています。

台湾で流行ったホラーゲームが原作だそうです。時は1962年、''白色テロ時代"と呼ばれ、まだ台湾が言論の自由を制限されていたころ。国民党政権の統制下で、反抗する者は次々と逮捕され、処刑も行われていました。密告の奨励など、人間不信が極限に達していた暗い時代が舞台です。

学校にも国民党の軍服をきた教官が常駐し、生徒や教師に反政府分子がいないか目を光らせています。そんな中で、自由を求め、禁制本を読む"読書会"を開くグループがいました。主人公の女学生ファン・レイシン(ワン・ジン)もそのひとり。ある放課後、読書をしたまま眠り込んでしまった彼女が目を覚ますと、あたりは暗く、空気がいつもと違う。なぜか廊下にでても出口が見えない。彼女は学校に閉じ込められてしまったのです。校内をさまよううちに、荒らされた読書会の残骸や、会を開いて逮捕された教師たちの悪夢のような姿に遭遇し……。

ホウ・シャオシェンの『悲情城市』、エドワード・ヤンの『牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』という台湾ニューウェイブを代表する作品で描かれたのが、まさにこの白色テロの時代。時を経て、ジョン・スー監督がふたたびテーマとしてとりあげました。その背景には、やはり、昨今の中国による台湾への圧力など、嫌な時代に向かうのではという警戒心もあるのでしょう。

【ぴあ水先案内から】

立川直樹さん(プロデューサー、ディレクター)
「……かなりスタイリッシュでシュールな映像で描いた衝撃的なダーク・ミステリー……」

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佐々木俊尚さん(フリー・ジャーナリスト)
「……その結末のあまりのものがなしさに言葉を失う。台湾映画にまた傑作が登場した。」

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高橋諭治さん(映画ライター)
「……怪奇幻想が渦巻く異次元的な世界観は台湾版『サイレントヒル』と言うべきか。フラッシュバックを多用し、パズルのように哀しい真実を浮かび上がらせていく展開はドラマ性も高い。……」

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春日太一さん(映画史・時代劇研究家)
「……時代と権力に翻弄された人間模様を追った重厚な社会派ドラマなので、ホラーが苦手な人も堪能できるはず……」

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