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YOASOBI、「夜に駆ける」から『NHK紅白歌合戦』出場、1st EP『THE BOOK』発売までの軌跡を徹底解説

リアルサウンド

21/1/18(月) 12:00

 コロナ禍を受け、不測の事態に備えて多くの人々が巣篭もり生活を余儀なくされた2020年、先の見えない不安のさなか、それを緩和させたのは、「本」や「映画」、「音楽」といった各種エンタメコンテンツだった。わけても、それまで特定の層を中心に人気を集めていたライブ動画アプリや定額制の動画/音楽配信サービスは、4月の緊急事態宣言以降、より身近な存在になった感がある。そんななか、コンスタントに新曲を発表して人々の心を満たすと共に、昨年の音楽シーンを牽引したのが、『第71回NHK紅白歌合戦』(NHK総合)でテレビ初パフォーマンスを披露したYOASOBIだ。本稿では、彼らのデビューから『紅白』出場、そして1st EP『THE BOOK』発売までの軌跡を辿る。

ストリーミング再生回数累計3億回を突破の「夜に駆ける」

 YOASOBIは、ソニーミュージックエンタテインメントが運営する小説&イラスト投稿サイト「monogatary.com」の投稿小説を音楽にするプロジェクトから誕生した男女2人組ユニット。メンバーは、作詞・作曲・編曲を手掛けるコンポーザーのAyaseと、ボーカリストのikura(幾田りら)で、彼らはそれぞれが、ボーカロイドプロデューサー、シンガーソングライターの顔を持つ。また、ikuraはソロ活動とは別に、アコースティック・セッションユニット“ぷらそにか”のメンバーでもある。

 そんな彼らのYOASOBIとしての活動は、2019年10月1日に配信された1本の動画から始まった。ikuraが星野舞夜の小説『タナトスの誘惑』の一節を読み上げたティザー動画だ。ティザー動画とは、商品や新規コンテンツの公開日に向けて情報を小出しにして興味を煽る性質のもので、商業広告手法のひとつ。音楽の分野では、K-POPアーティストのそれに秀逸なものが多く、YOASOBIもまたこれを効果的に採用している。

” YOASOBI ” November 2019 debut. teaser

 翌月16日には『タナトスの誘惑』を原作としたデビュー曲「夜に駆ける」のミュージックビデオ(以下MV)をAyaseのYouTubeチャンネルで公開。次いで12月15日に配信限定シングルがリリースされると、動画SNSのTikTokや、SHOWROOM、17liveといったライブストリーミングサービス利用者の間で話題となり、ライバーによる歌唱や配信中のBGM使用を機に一気に拡散。年明けには、Spotifyのバイラルチャートで1位を記録し、同時に各種音楽チャートを急上昇。さらに5月15日、アーティストが一発録りでパフォーマンスするYouTubeチャンネル『THE FIRST TAKE』のコンテンツ「THE HOME TAKE」でikuraの歌唱が配信されると、国内外の視聴者によるリアクション動画や、香取慎吾、宇野実彩子(AAA)、Toshlらをはじめとするアーティスト、一般視聴者によるカバー演奏が次々とアップされ、それらは瞬く間に世界へと広がった。その結果、昨年5月以降、現在までに「夜に駆ける」のストリーミング再生回数は累計3億回を突破し、さらに記録を更新中だ。

YOASOBI「夜に駆ける」 Official Music Video

「あの夢をなぞって」「ハルジオン」「たぶん」も続々リリース

 一方、「夜に駆ける」のヒットと並走させる形で、2020年1月18日には「あの夢をなぞって」(原作・いしき蒼太『夢の雫と星の花』)、5月11日には「ハルジオン」(原作・橋爪駿輝『それでも、ハッピーエンド』)、7月20日には「たぶん」(原作・しなの『たぶん』)を発表。これらはティザー動画の配信後、ほどなくMVと配信限定シングルが同時リリース。それぞれ、はるもつ、篠田利隆(異次元TOKYO)、南條沙歩がアニメーションを手掛けている。余談だが、南條沙歩による「たぶん」のティザー動画は、視聴者が手元のPC操作で画面を360度見渡せる楽しい仕掛けなので、未見の方は是非とも試していただきたい。

YOASOBI 第三章「たぶん」teaser

物語を咀嚼した上で言葉を吟味・抽出し、新たな世界を提示するYOASOBIの楽曲

 YOASOBIの楽曲は、いずれも小説を基にAyaseが作詞・作曲を手掛けているが、彼は作中の言葉をそのまま採用するのではなく、物語を咀嚼した上で言葉を吟味・抽出し、新たな世界を提示している。原作のエッセンスを取り入れつつも、音感を意識しながら、一聴して耳に残る言葉に置き換え、聴き手の心を揺さぶる術に長けているのだ。とりわけ「夜に駆ける」と「たぶん」の換骨奪胎ぶりはその真骨頂。おそらく誰もが「夜に駆ける」をはじめて聴いた際、それが、死神に導かれ身投げする主人公を描いた作品だとは思わなかっただろう。ともすれば、爽やかな恋愛ソングと受け止めがちだ。しかし、楽曲を聴いたあとで原作を読み、改めてMVを目にすれば、それらが互いに相乗効果を生み、作品に深みを持たせていることが判る。

YOASOBI「たぶん」Official Music Video

 また、「たぶん」では、同居人との別れの朝を描いた原作を基に〈僕らは何回だってきっと/そう何年だってきっと/さよならに続く道を歩くんだ〉と紡いで見せた。実はこれらの言葉は原作に一度も登場しない。しかし、出会いと別れを俯瞰で捉えたこの歌詞は、あたかも人間関係の真髄を示したかのようで、主人公の思いを端的に言い表している。浮遊感漂うメロディとサウンドに歌詞が溶け合い、幾重にも意味を持つ不思議な効果を生んでいるのだ。このように、聴き手が自らの思いを重ね、深読み、拡大解釈出来るのもYOASOBI楽曲の魅力だろう。

 一方、Ayaseが紡いだ言葉を、主人公の気持ちに寄り添って歌うikuraは、作品ごとに様々な表情を見せ、難易度の高い音域も軽やかに、そして鮮やかに表現している。決して感情過多に陥ることなく、絶妙にコントロールされ、時にクールに、またある時は独特の揺らぎを伴って聴き手を魅了するのだ。

 ちなみに彼女の別の側面は、YOASOBIとソロ活動の合間にシンガーに徹して録音に臨んだNetflixオリジナル映画『フェイフェイと月の冒険』日本語版エンド・クレジット・ソング「ロケット・トゥ・ザ・ ムーン~信じた世界へ~」やGoogle Pixel 4aのCFで使用されたバート・バカラックの「(THEY LONG TO BE) CLOSE TO YOU」、サントリーのCFで披露されたベートーヴェン作曲「交響曲第9番第4楽章<歓喜の歌>」の歌唱で垣間見られる。

『フェイフェイと月の冒険』/幾田りら「ロケット・トゥ・ザ・ムーン~信じた世界へ~」楽曲スペシャル映像
YOASOBI・“ikura”幾田りら、ベートーヴェン「第九」英語詞アカペラ初挑戦 つむチャンネルも出演 サントリー「サントリー1万人の第九」新TVCM「2020年の希望」篇

「群青」での新たなコラボ、小説集の発売

 2020年9月1日、「たぶん」のリリースからほどなくして発表された「群青」は、山口つばさが『月刊アフタヌーン』で連載中の漫画「ブルーピリオド」とのコラボレーション、さらにブルボンの「アルフォートミニチョコレート」とのタイアップという、これまでとは異なるアプローチによる異色作で、原作はCM用に用意されたストーリーテキスト「青を味方に。」。

 本作では、ikuraはもちろんのこと、彼女が所属する“ぷらそにか”のピックアップメンバーに加えてAyaseがコーラスに参加、夢と向き合う若者への応援歌を高らかに歌いあげた。なお、この時点では、本作のMVは発表されず、代わりに動画「アルフォート×YOASOBI Special Movie 『群青』 inspired by ブルーピリオド」を配信。後日(12月1日)牧野惇によるクラフト・パペットを組み合わせた手作り感満載のMVが配信された。本作、アートアニメファンは必見である。

【公式】ブルボン アルフォート×YOASOBI Special Movie 『群青』 inspired by ブルーピリオド
YOASOBI「群青」Official Music Video

 なお、同月18日、既発3曲(「夜に駆ける」「あの夢をなぞって」「たぶん」)の原作小説に、のちに発表される「アンコール」の原作『世界の終わりと、さよならのうた』(作・水上下波)を加えた4作品+YOASOBIインタビューで編んだ『夜に駆ける YOASOBI小説集』が刊行(双葉社刊)、巻末には購入者特典として、ikuraによる『タナトスの誘惑』の朗読動画閲覧用QRコードが掲載された。ちなみに、本書、本稿執筆時点の市中在庫は7刷だが、先頃、再び重版が決定している。

「たぶん」映画化で生まれた新たな可能性

 11月13日には「たぶん」を原案にした同名映画が公開(監督・Yuki Saito)、偶然にもメインキャストのひとりが、ikuraの親友で女優の小野莉奈だったことも話題になった。この映画によって、YOASOBIの世界に新たな可能性が生まれたようだ。

 そして、昨年最後のリリースが、TOKYO FMの人気番組『JUMP UP MELODIES TOP20』へのゲスト出演をきっかけに制作された「ハルカ」(原作・鈴木おさむ『月王子』)。初お披露目は12月11日の同番組で、その後、12月18日に伊豆見香苗によるMVと配信限定シングルが同時リリース。主人公は人ではなくマグカップというユニークな作品である。

YOASOBI「ハルカ」Official Music Video

『紅白』で初のテレビパフォーマンス

 「夜に駆ける」のヒットで始まったYOASOBIの2020年、その掉尾を飾ったのは、冒頭でふれた大晦日の『第71回NHK紅白歌合戦』への出演だった。演奏曲はもちろん「夜に駆ける」。同曲は、LINE MUSICの年間ランキングで、BGM/着うた/カラオケの三部門で首位を記録したのを筆頭に、JOYSOUNDの「おうちカラオケ」ランキングで年間1位、Spotifyの年間ランキングでは国内バイラルチャート1位、『MTV Video Music Awards Japan 2020』で最優秀楽曲賞を受賞したほか、Billboard JAPANの『Billboard Japan Hot 100』で年間総合1位を獲得……と、文字通り彼らの代表曲にして、2020年を代表する楽曲となった。

 演奏は、埼玉県東所沢市にある角川武蔵野ミュージアム内の「本棚劇場」からの中継で、映像演出は「夜に駆ける」のMVを手掛けた藍にいな。「小説を音楽にする」のがコンセプトのYOASOBIにとっては、まさにうってつけの場所である。

 この日のためにAyaseが用意したイントロに導かれてカメラが室内に入ると、そこには3万冊の本が並ぶ高さ8mの巨大本棚が出現、カメラがステージ中央に立つikuraをあおり、また俯瞰すると、本棚がまるでマンモス団地と見紛うほどの異様な迫力を生み出した。本棚で作られた壁面にはプロジェクションマッピングによって、蛍光色で彩られた幻想的な空間が浮かび上がり、演奏中はMVと同様に、蝶が舞い、飛散する場面も。また、本棚のそこかしこに据えられた複数のモニターでは「夜に駆ける」の映像が再生され、時折り、本棚やモニターにタイムコードが投影される。まさに圧巻の初パフォーマンスだった。なお、当日はサポートメンバーとして、禊萩ざくろ(Key / Cho) AssH(Gt) 仄雲(Dr) やまもとひかる(Ba)の4人が脇を固めた。

初のCD『THE BOOK』発売

 そして年が明けた2021年1月6日。ついにYOASOBIにとって初のCD『THE BOOK』が発売された。これまで配信限定でリリースされた6曲に加えて、本作のために書かれたインストゥルメンタル2曲と、昨年CFで披露されていた新曲「アンコール」(原作・水上下波『世界の終わりと、さよならのうた』)を加えた全9曲を収めた1st EPは、完全生産限定盤の特製バインダー仕様で、各曲ごとに歌詞カードの紙質を変えるなど、随所に工夫が凝らされた永久保存版である。また、タワーレコード限定で『THE BOOK』収録全曲の初音ミクver.を収録したAyase名義による『MIKUNOYOASOBI』も同時発売。これは事前アナウンスなしのサプライズリリースだ。さらに、この日はテレビアニメ『BEASTARS』第2期オープニングテーマとして、原作者の板垣巴留によって書き下ろされたオリジナル小説『自分の胸に自分の耳を押し当てて』を基に書かれた新曲「怪物」が配信限定シングルとしてリリース。三皷梨菜のディレクションによるMVは、1月13日から配信中だ。次いで1月20日には、同番組のエンディング「優しい彗星」のリリースが控えている。

YOASOBI「怪物」Official Music Video (YOASOBI – Monster)

 以上、駆け足でYOASOBIの活動を追ってきたが、最後にふれておきたいのが、彼らのオフィシャルファンクラブ『CLUB 夜遊』について。1月6日にプレオープンし、現在無料会員登録を受付中。グランドオープン後は、弾き語りや朗読など、ここでしか聞けない番組が配信されるほか、様々な企画が予定されているようだ。2月14日には、初の配信ライブも開催される彼ら、これからもその動向から目が離せない。

■濱田髙志(はまだ たかゆき)
アンソロジスト。これまで国内外で企画・監修したCDは500タイトルを数える。テレビ、ラジオ番組の企画・構成や、書籍編集を手掛け、主にアーカイブを得意とする。
「週刊てりとりぃ」主宰。

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