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m-floが考える、海外市場におけるJ-POPの未来 「世界に向けて売り出すには、今が最後のチャンス」

リアルサウンド

19/11/14(木) 7:00

 m-floの5年ぶり9枚目となるオリジナルアルバム『KYO』は、世界的に支持されるラテン界のスーパースターJ. Balvinをフィーチャリングゲストに迎えた「HUMAN LOST feat. J. Balvin」を収録するなど、グローバルな音楽シーンを視野に入れた作品に仕上がった。今年7月には米ロサンゼルスのアニメコンベンション『Anime Expo』にて、『m-flo presents OTAQUEST LIVE』を開催するなど、海外での活動にも力を注いでいるm-floは今、日本の音楽ビジネスの未来をどのように見据えているのか? “海外市場におけるJ-POPの可能性”というテーマで、m-floの三人に話を訊いた。(編集部)【インタビュー最後にプレゼント情報あり】

参考:今市隆二が語る、ソロ活動で芽生えた意識の変化 「歌い継がれるようなヒット曲を作りたい」

■☆Taku「『海外進出』という感覚はちょっと違う」

ーー今年7月、米ロサンゼルスのアニメコンベンション『Anime Expo』にて、『m-flo presents OTAQUEST LIVE』が開催されました。その手応えを教えてください。

VERBAL:思っていた以上の盛り上がりに驚きました。☆Takuは以前からアメリカで開催されているアニメのコンベンションに参加してDJをやっていて、すごく盛り上がると聞いていたんですけれど、それを肌で感じることができました。アニメのイベントというと、日本だといわゆるオタク文化の延長というイメージだと思うのですが、アメリカではそれプラスEDMフェスと同じようなノリでコスプレしている人たちが踊りまくっている感じ。しかも、会場に集まった4000人くらいの現地の人々のほとんどが、ちゃんとm-floの楽曲を知ってくれていて、全然アウェイな感じではありませんでした。

☆Taku:海外では、コナミの『beatmania IIDX』シリーズなどで僕らのことを知ってくれたファンがすごく多いんです。『キングダム ハーツ』で使われた宇多田ヒカルさんの「光」もそうだけれど、海外ではアニメやゲームがきっかけになって注目されたJ-POPはたくさんあります。とはいえ、今はK-POPの勢いの方がずっとすごい。彼らは20年以上かけて海外戦略をやってきて、それが実り始めている印象です。日本には世界的に見ても巨大な音楽市場があったから、日本向けに音楽を作って国内を回っていれば良かったけれど、これから先は少子高齢化などで市場が小さくなっていくのは目に見えているのだから、いよいよ海外マーケットも視野に入れてやっていかなければいけないと考えています。そうした視点に立った時、m-floとして何をすべきかというのは、現在の課題ではあります。

ーーいかにして海外に進出するかは、J-POP全体の課題でもあると考えていますか?

☆Taku:「海外進出」という感覚はちょっと違うなと、実際に色々とやってきて感じていることです。というのも、音楽好きというのは世界各国どこにでもいて、その人たちのもとにうまく届けば自分たちの曲がちゃんと聴かれるということがわかってきたから。「海外向けにこういう曲を作ろう」と考えてやると、かえってその意識が障壁となって失敗することも多いなと。むしろ大事なのは、どうやって向こうの音楽好きと繋がるか、自分たちのコンテンツにアクセスしやすい状況を作り出すかにあって、そのためのプラットフォームを構築したり、向こうでライブが開催できるルートを確立することが大事なんじゃないかと思います。

VERBAL:「海外に向けて発信するのだから、こういう風にしなければいけない」という思い込みを捨てるのは必要かもしれません。現地に行ってライブをしてみると、進出もなにも、向こうとしては全然ウェルカムな状況だったりしますから。グローバルに活動していくには、先入観や固定観念は捨てて、自分たちらしくやっていくのが何よりも大事だなと、44歳にして思うようになりました。

☆Taku:LISAが書くリリックみたいだね。そう考えると、LISAは昔からグローバルな感覚の持ち主だったんだなと。

LISA:たしかになにも変わってないかも(笑)。私たちはインターナショナルスクールで出会ったというバックグラウンドがあって、聖歌隊でそれこそ様々な国からやってきた親御さんたちの前で歌ったりしていたから、アメリカで歌うのも日本で歌うのも本当は変わらないはず。それがいつの間にか、海外に行くにはものすごく高いハードルがあるように感じて、自分らしく歌えば良いということをすっかり忘れていたように思います。『m-flo presents OTAQUEST LIVE』では、逆に里帰りしたような感覚があったというか、そもそもm-floがずっとやってきたことだったなと思い出しました。マインドというか、DNAに刻まれたものをそのまま出せば良かったんです。

■VERBAL「日本はコンテンツを輸出する座組みを築いてこなかった」

――VERBALさんと☆Takuさんは去年、『PR3.0 Conference』に参加して、「LDHのプラットフォーム構想」というテーマでトークショーをしていました。海外の音楽ファンとどういう風に繋がっていくかを考える上で、海外と日本のファンの視点の違いを理解することが大切だと語っていましたが、改めてその考えを教えてください。

☆Taku:少し前の話になりますが、例えば日本のガラケーは、アメリカですごくかっこいいものだと思われていたんです。そういう感じで、僕らからすると日常的すぎて普通に感じるものが、逆に新鮮に捉えられることが少なくありません。音楽にしても、僕らはアメリカのサウンドに憧れている部分があるから、最新のダンスミュージックと自分たちの楽曲を比較して「ボトムの太さが全然違うな」と感じたりするんですれけど、向こうの人には「そこが繊細で美しいんだよ」と言ってもらえたり。アニメにしても、日本ではあまりヒットしなかった作品が、アメリカで大人気になっていたりすることもあります。だからこそ、無理に向こうの売れ線に合わせるのではなく、自分たちらしく作っていくのが大事だし、そういう感覚の違いはコミュニケーションを通じて知っていく必要があるのかなと思います。

VERBAL:m-floではもうアメリカのトレンドとかほとんど気にしなくなりましたね。もちろん、音楽家として今なにが面白いのかはチェックしていますし、理解しようとしていますけれど、そこに寄せていこうとはしていません。m-floは先ほどLISAが言ったように、もともと色んな国の文化が混ざり合ったような存在だし、素のままでやっていくのが一番良いなと。

ーー自分たちの音楽を、向こうの好きな人にそのまま届けられれば良いと。市場のポテンシャルはどれくらいあると感じていますか。

VERBAL:個人的には、J-POPが海外で普通に聴かれるようになる可能性はあると思います。僕らはデビューして間も無く、韓国に行ってライブをしたことがあったんです。当時は文化的国交が開けたばかりのタイミングで、おそらく僕らが一番最初でした。で、向こうに行ったら海賊版のCDが普通に売っていたんです。ネット文化が華ひらく前でしたが、向こうの人は新しいエンタテインメントに貪欲で、日本から多くの情報を手に入れていました。そして今、K-POPアーティストは、日本の音楽やファッションからインスパイアされてモノづくりをして、世界的に活躍している。海賊版はもちろん違法なんですけれど、韓国のコンテンツに対する姿勢はある意味では今の潮流に合っていて、実際にYouTubeとかでコンテンツを無料で世界中に配信したことで、地位を確立することに成功しています。日本にはすでに魅力的なコンテンツがあったのだけれど、権利を守ることを優先して、それを輸出する座組みを築いてこなかったというのが、僕の今の見解です。

☆Taku:会社に例えると、韓国は営業担当はいるけれど開発がいなくて、日本は開発がいるけれど営業がいなかったというイメージ。で、韓国は日本やアメリカの良いところをどんどん参考にして、海外の市場に対して猛烈に営業をかけていった。その結果として、K-POPはJ-POPに先駆けて成功を収めたのかなと。僕もそうでしたが、日本はずっと、アジアで最先端の国だという驕りと同時に、欧米に対する強いコンプレックスがあったと思うんです。それで、J-POPを世界に向けて積極的に売り出すことをしてこなくて、見事に機会を損失してしまった。でも、まだ可能性はあると思います。むしろ今が最後のチャンスなのかなと。

VERBAL:『Anime Expo』には4日間で12万人が集まっているんです。しかも、向こうのジャパンカルチャーのファンは、アニメやゲームを通じて自然に発生したもので、日本のエンタテインメント企業が積極的に働きかけてきたわけではない。もしも、そうしたファンの人たちのところに、アーティストやクリエイターが直接行けるような仕組みがあったら、きっともっと盛り上げていけると思うんです。『Anime Expo』のとあるDJブースの前では、サイリウムを持ってヲタ芸を再現するファンとかもいて、「いつか秋葉原に行くのが夢なんです」なんて語っていました。海外の人たちにとって、日本のカルチャーがどれだけかっこよく映っていて、憧れられているのかを自覚する必要はあると思います。もう、今のまま持っていくだけで十分に魅力的なはず。

LISA:本当に日本のみんなには自信を持ってほしいよね。VERBALも☆Takuも頑張って! 私、応援してるから、二人で日本を良くして。

VERBAL:いや、LISAも一緒に頑張ろうよ(笑)。

ーー昨今はNetflixなどのサブスクリプションサービスで、日本のアニメは世界中で配信されています。新しいサービスによって、さらにチャンスは広がっている印象も受けます。

☆Taku:そう、僕が思う最後のチャンスは、やはりアニメなんです。K-POPのヒットの源流を辿ると、一番最初にあったのは韓流ドラマとそのタイアップソングだったので、同じような流れでJ-POPが世界で聴かれるようになる土壌はできてきているのかなと。今の日本のドローイングによるアニメは圧倒的なレベルの高さを誇っていて、ロボットだったりミサイルの軌道だとかを描くことに関しては、まだ海外では真似ができないものです。でも、例えばアニメ風のデフォルメした美少女の絵は、少し前までは日本ならではの技法だったのが、今ではどこの国でも描ける人が出てきている。ただでさえ日本は人手が不足しているから、あと何年かしたらアニメでも中国などに先を越される可能性はあると思います。音楽でも、ハウスやヒップホップのビートを作ることに関して、アジアでは日本が一番ハイレベルだったのが、コンピューターの普及であっという間にどこの国でも作れるようになってしまいました。だから、日本のアニメが世界中でファン層を拡大している今こそ、みんなで協力して、積極的に動かないといけないと思うんです。

■LISA「私たちにとっての「KYO」を探す作品」

ーー最新アルバム『KYO』は、m-floのそうしたアティテュードをそのまま詰め込んだ作品だと感じました。特に「HUMAN LOST feat. J. Balvin」は象徴的な楽曲です。太宰治の『人間失格』を下敷きにしたSF劇場アニメーション映画『HUMAN LOST 人間失格』のエンディングテーマで、m-floらしいユニークな音楽性を突き詰めながら、グラミー賞アーティストのJ. Balvinと華麗なフィーチャリングを果たしています。

☆Taku:「HUMAN LOST feat. J. Balvin」は、まさに理論を実践できた作品です。最初に『HUMAN LOST 人間失格』のテーマソング制作の依頼を受けて、VERBALが昨年の『SUMMER SONIC』で初来日を果たしたスーパーナイスガイのJ. Balvinに「一緒に作らないか」と声をかけたところ、快く承諾してくれました。映画の内容に寄り添ったストーリーと同時に、恋愛におけるドライな一面を描いた楽曲になっています。

VERBAL:ポリゴン・ピクチュアズの劇場アニメーション映画の主題歌で、しかもJ. Balvinがフィーチャリングで参加してくれている。これ以上ないほど奇跡的で理想的な座組みになったと思います。J. Balvinは今やトップアーティストの一人で、当然ながら何でもかんでも承諾してくれるような人ではないのですが、日本のアニメに関わることは彼らにとってとても価値があることなんです。今回、アニメ映画の主題歌だったことが、彼の琴線に触れたのは間違いないと思います。やはり、日本のアニメは世界中で愛されているのだと、改めて実感しました。

LISA:ミュージックビデオも実際に映画の監督を務められた木崎文智さんや、キャラクターデザインのコザキユースケさん、ポリゴン・ピクチュアズによる描き下ろし、デザイン、監修のもと制作されました。かっこいいので、ぜひ観てほしいです。

ーー『KYO』はアルバム全体でもしっかりとしたコンセプトがあり、一枚を通してミュージックジャーニーが楽しめるのもポイントだと感じました。

☆Taku:最近はストリーミングサービスが浸透していて、SpotifyやApple Musicではアルゴリズムでおすすめ曲を紹介してもらえるし、プレイリストで音楽を聴くのも当たり前になってきました。そうした状況の中でアルバムを出すと考えた場合、m-floはもともとアルバム一枚を通して世界観を構築したりすることに意識的でしたから、だったらアルバムを一つのプレイリストのように楽しめるようにしようと。楽曲のコンセプトがあって、そのコンセプトに繋がるインタールードがあって、しかも様々なタイプのサウンドが入っていて、という感じで、これまで以上に流れを意識した作品になっています。

VERBAL:アルバムのタイトルとなった「KYO」は、m-floとしては初めての和風タイトルで、響、京、共、境、強、狂、今日、鏡、協、興など、様々な意味を込めました。m-floは2017年に15年ぶりに3人体制で再始動することになったわけですけれど、それまで僕らは各々いろいろな次元で活動していたので、まずはそのズレを調整していく必要がありました。そうした自分たちの状況をコンセプチュアルに表現しようと考えた時、異次元やパラレルユニバースというキーワードが出てきて、そこから多面的な意味合いを持つタイトルを付けようと思い、最終的に「KYO」になりました。

ーーアルバムに収録された楽曲の多彩さをうまく表現する言葉でもあると思いました。また、今回のアルバムには、m-floの楽曲を今をときめくにトラックメイカー陣がリミックスしたミックスCD『20th Anniversary Best Mix by in the blue shirt』も付いています。こちらもm-floでしか成立しない一枚だと感じました。

☆Taku:Sweet William、tofubeats、WONK、starRoなど、今の日本を代表するクリエイターたちが参加してくれていて、幅広い音楽性の一枚になったと感じています。さらに全体のミックスをin the blue shirtことアリムラさんが担当してくれました。今の日本のシーンの面白さが感じられる一枚に仕上がっていると思います。過去の作品から今の作品まで入っているし、実際に打ち込みをしている人の感覚で聴くと、すごく楽しめるかなと。

ーー11月22日と23日には、Zepp Tokyoにて20周年ワンマンライブ『m-flo 20th Anniversary Live “KYO”』も開催されます。意気込みを教えてください。

LISA:このアルバムは、みなさんにとっての「KYO」を見つけて、それを感じてほしいという願いと同時に、私たちにとっての「KYO」を探す作品でもあります。ライブでは最新型のm-floを観てもらえると思いますので、ぜひCome Enjoyしにきてください、待ってます。

VERBAL:アルバムを引っ提げてのワンマンはけっこう久しぶりで、僕たちも今までで一番と言って良いくらい、気持ちをひとつにして向き合っています。これまでのファンのみなさんはもちろんですが、これからm-floを聴いてみようと思う人も気軽に遊びに来てほしいです。絶対に良いものを持ち帰ってもらえるように頑張ります。

☆Taku:『KYO』というアルバムリリースのライブであると同時に、m-floの20周年イベントでもあるので、”m-flo loves Who?”時代の楽曲もやる予定です。僕らが今、フレッシュだと感じている方々にも参加してもらいます。みなさんと一緒に過ごせることを楽しみにしています。(松田広宣)

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