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細野晴臣の音楽家としての奥深さ 『万引き家族』サウンドトラックを聴いて

リアルサウンド

18/7/11(水) 12:00

 第71回カンヌ国際映画祭で最高賞パルムドールを受賞した映画『万引き家族』。家族の在り方を描き続けてきた是枝裕和監督による“家族を超えた絆”をテーマにした本作は、正式公開から3週間で200万人を動員する大ヒットを記録。社会の枠から外れた人たちの生き方を精緻な筆致で描いた本作は、いままで隠されてきた日本の現状を露わにしたという意味でも多くの反響を呼んでいる。

 是枝監督の新たな代表作となった『万引き家族』の奥深い魅力をさらに引き立てているのが、細野晴臣による音楽だ。これまでに『銀河鉄道の夜』(1985年/杉井ギザブロー監督)、『パラダイスビュー』(1985年/高嶺剛監督)、『メゾン・ド・ヒミコ』(2005年/犬童一心監督)、『グーグーだって猫である』(2008年/犬童一心監督)などの音楽を手がけてきた細野。是枝監督は以前から劇伴家としての細野の才能に注目し、今回ようやく初タッグが実現したのだという。

 『万引き家族』における細野の音楽は、驚くほど自然に存在している。大仰なオーケストレーションなどは一切なく、アコースティックギター、ピアノ、マンドリンなどの生楽器に繊細な電子音を加えたサウンドによって、ドキュメンタリータッチの映像を静かに彩っているのだ。劇中で聴こえてくる街の喧騒、生活音などとの混ざり具合も絶妙。たとえば治(リリー・フランキー)と翔太(城桧吏)が団地の廊下で震えているゆり(佐々木みゆ)を見つけたときの電子音、治が工事現場に出勤するシーンで流れるピアノなどは、まるで場面そのものから湧き出てくるような手触りがある。過剰にドラマティックにならず、伝えたい感情を強要することもなく、登場人物たちの不安的な状況をナチュラルに反映させたこれらの音は、“できるだけ音数を削ぎながら、物語を際立たせる”映画音楽家としての細野の特徴を端的に示していると思う。

 音量は必要最低限に抑えられ、あくまでも目立たないように配置されている『万引き家族』の音楽だが(実際、映画を観ているときに音楽が気になることはほとんどない)、いくつかの場面で印象に残った楽曲がある。治と翔太がスーパーマーケットで万引きする冒頭のシーンにおけるコミカルなメロディ、翔太とゆりが川辺をとぼとぼと歩く場面のクラシカルなアコースティックギターの音色などは、その好例と言えるだろう。個人的にもっとも心に残ったのは、家族全員で海水浴に行ったシーンの楽曲。古き良きヨーロッパの映画音楽を想起させる洗練された旋律は、(それが一時的だとしても)穏やかな時間を味わっている家族の風景と重なり、この映画のなかでももっとも幸せな場面へとつながっている。家族の存在や登場人物に寄り添うのではなく、少し距離を置いたところで鳴らされているような音楽の在り方も素晴らしい。

 6月8日に配信リリースされた『万引き家族』のオリジナルサウンドトラックを聴けば、すべての楽曲が共通するトーンでまとまっていることがわかる。前述した通り、すべて生楽器と電子音で構成されていることもあり(作曲、編曲はもちろん、演奏、録音、ミックスもすべて細野自身が手掛けている)、全体を通してひとつの楽曲として聴こえてくるのだ。生々しい日常性とファンタジー的な要素を併せ持った『万引き家族』のために制作された音楽は、ふだんの生活にちょっとした色味を加えるBGMとしても楽しめそうだ。

 今年1月の台湾、香港での公演に続き、6月23日にロンドン公演(音楽レーベル<Light In The Attic Records>の設立16周年記念イベントおよび、坂本龍一がキュレーターを務める『Thirty Three Thirty Three’s summer series of arts and music, MODE』のイベント)、25日にブライトンでワンマン公演(高橋幸宏、坂本龍一も登場し、YMOの「Absolute Ego Dance」の演奏も実現!)を実施するなど、海外での活動も精力的に続けている細野晴臣。エレクトロニカ、ヨーロッパ音楽、ラテン音楽のエッセンスを散りばめた映画『万引き家族』のサウンドトラックは、全世界の音楽ファンに音楽家・細野晴臣の奥深さを改めて示すことになるはずだ。

■森朋之
音楽ライター。J-POPを中心に幅広いジャンルでインタビュー、執筆を行っている。主な寄稿先に『Real Sound』『音楽ナタリー』『オリコン』『Mikiki』など。

■リリース情報
『万引き家族(オリジナル・サウンドトラック)』
配信アルバム
発売:2018年6月8日(金)
全14曲(ボーナストラック含む)
作曲/編曲/演奏/Recording&Mixing〜細野晴臣
01.Shoplifters
02.Yuri’s Going Home
03.Living Sketch
04.Shota & Yuri 1
05.Yuri & Shota’s Shoplifting
06.The Park
07.Like A Family
08.Nobuyo & Yuri
09.Going To The Sea
10.Beach
11.Shota & Yuri
12.Run Away
13.The Empty Room
14.Image & Collage(Bonus Track)

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