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小沢道成×中田夢花 舞台『水深ゼロメートルから』がまもなく開幕へ

ぴあ

小沢道成×中田夢花

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2019年に第44回四国地区高等学校演劇研究大会にて文部科学大臣賞(最優秀賞)を受賞した『水深ゼロメートルから』(作・中田夢花)。今回、俳優のみならず、演出家や美術家などさまざまな顔をもつ小沢道成が演出を手掛け、オーディションキャストを迎えて、上演されることになった。

原作者で、今回は脚色を担当する中田と、演出と美術を担う小沢に作品の見どころを聞いた。

――お稽古は順調ですか?

小沢 順調だと思います。

中田 ですね! みんなすごく稽古が楽しそうなんです。メンバーが全員そろってまだ1ヶ月も経っていないはずなのに、みんな仲が良くて。本当に高校の同級生みたいな感じの雰囲気で、素敵です。

小沢 みんなテンション高いですよね。確かに最初はちょっと人見知りしていたところもあったけど、ここ最近はキャッキャッしていますよ。で、僕もつられて一緒にキャッキャッしています(笑)

――改めて、今回の舞台上演にあたっての意気込みを教えてください。

中田 初めてお話をいただいたときは、びっくりしました。自分が高校時代に部活でやっていた演目、しかも徳島の高校でやっていたものを、東京の人に面白いと思ってもらえて、また違うメンバーで上演する機会を設けていただけるなんて。不思議な気持ちもありつつ、純粋に嬉しかったですね。

コロナ禍で、(高校演劇の)全国大会がなくなって、自分としても演劇に対するモチベーションや興味が薄れていた時期でもあったので、このお話をきっかけにまた引き戻してもらったというか。もう一度、演劇をやりたいなと思って、今回、脚色をやらせてもらっています。

――小沢さんとしては中田さんの思いをどう受け止めているのですか?

小沢 僕は一番最初に台本を読んだ時、台本の言葉が、すごい心に刺さってきたんです。そのとき僕はまだ中田さんの年齢などを下調べせず、とりあえず台本を読んだんです。読んでいたら、女子高生4人と先生1人が出てくる5人芝居で、尺(※上演時間のこと)は60分。60分でここまでの内容が書けるって。脚本を書く身としては、構成力もすごいし、面白い舞台になりそうだなと思って、自分からも「演出をやりたいです」と言いました。
そのあと、上演の映像を見させてもらって。そこでの驚きが、やっぱりプール! 高校演劇って、美術の設置に制限時間があるんですよね?

中田 設置とハケる(※片付ける)時間があわせて30分です。

小沢 しかも作られていたのが、本物のプールに見える舞台美術だったんですよ。これを高校生たちが作って、セリフを覚えて、みんなで稽古をして、舞台上にあげて、上演した。けれども、コロナの状況で、(高校演劇の)全国大会がなくなってしまった。

その思いを聞いて、これは絶対もう1回やらなくてはいけないと、使命感のようなものを感じたんですよ。当時と同じキャストではないけども、中田さんが書かれたものは、演劇としての可能性をいっぱい秘めた台本だったので。ここで終わらせてはいけない、僕も「ぜひやらせてください」という話になったんです。

――中田さんからご覧になって、小沢さんはどんな存在ですか?脚本家、俳優、演出家などさまざまな顔をお持ちですが。

中田 演出をされている姿を見ていて、すごく楽しそうなんですよね。それから作品をみんなと作り上げてる感じが、印象的で。演出の仕方も勉強になるし、稽古場の空気感づくりも、中核となって作ってくださっている。本当にすごいなって。みんなのお兄さんみたいな感じですかね。

小沢 そうですか? 僕は自分を女子高生だと思っています(笑)。一緒にキャッキャッしているだけなので。

中田 確かに女子高生の方が表現は適切かもしれないです(笑)

2年経った今も、愛がある作品になっている

――では、小沢さんから見て、中田さんはどういうところが魅力的だと思いますか?

小沢 恐らく「高校生が書いた」とか「女子高校生だからすごい」ということを言われたり、書かれたりすると思うんですけど、すごいところはそこではなくて。やっぱり中田夢花さんが書いた言葉や、中田さんが周りの仲間に抱いた思いを台本にしたということがすごいんです。もちろん「高校生の時だからこそ描けたもの」が多いとは思います。そして、仲間がいたからこそ出来たものだとも。

この『水深ゼロメートルから』を書かれた中田夢花さんは優しくて繊細で、丁寧で、人の痛みが分かる人なんだろうなと思うんです。そして、その人の痛みと、自分の抱いている思いをミックスするのがすごく素敵で。僕はこの台本の言葉を通して、そんなことを感じました。

――その作品をどういうところに気をつけながら演出されるのですか?

小沢 僕が美術をやるんですが、舞台監督の大刀(佑介)さんに「本当にプールって必要?」と言われたんですよ。登場人物たちが抱いている気持ちは、決してプールという場所だけで抱いているわけではなくて、プールから帰って、お家で過ごす時間も、授業中もずっとモヤモヤしている。それがこの作品ではたまたまプールという場所に集まって、巻き起こっているわけで。

だからプールに限らない物語として捉え直して、具象のプールの美術は作らない方向でいます。彼女たちが、ここをプールだと思えばプールになるし、違う場所だと思えば違う場所になる。彼女たちの想いから発せられるものを大切にしたいなと思って。美術を僕がやる意味は、そこからすでに演出が始まっているので、そういった演劇でしかできないような見せ方を楽しみにしていただければ。

――脚色されるということですが、何かが大きく変わるのでしょうか?

中田 高校演劇だと60分という時間制約があって、カットしてしまった部分もあるんですね。でも、今回は登場人物のバックボーンを広げて書かせてもらいました。

――書かれたのは、もう数年前ですよね。改めて、ご自身が書かれた台本を見直してみてどうですか?

中田 自分で言うのもおかしな話ですけど、あのときの私、よく書いたなと思います。センシティブな話もあって、テーマとして触れにくいところがあったんですけど、高校生のときの自分、女として生きる自分から紡ぎ出したいなと思って書いた作品なんです。

執筆から2年も経つし、コロナ禍で世の中の状況が変わってしまったけど、それでもキャストの方や演出の小沢さんが愛を持って作品づくりに取り組んでくれているのが伝わってくるんですよね。自分はいつも書くときに、愛のある作品を書きたいなと思っているんですけど、2年経って、違うメンバーになった今も、愛がある作品になっていることが嬉しいです。

不安定な年代だからこそできる表現

――今回キャストは、初舞台という方もいらっしゃいますよね。ある意味フレッシュな舞台になりそうですが、どうですか?

小沢 フレッシュはフレッシュなんですけど、みんな上手いです(笑)。普通に自然な会話ができてしまう俳優さんばかりなんです。また、今回高校生役は全員オーディションなのですが、その分、作品にかける思いが強い。この役がやりたいと台本を読み込んだりして挑んでくれたんですよね。

僕がオーディションの時に一番大事にしたことが、中田さんが書かれた台本のキャラクターに合うかどうか。今回のキャストは、ベストメンバーだなと思っています。

――高校演劇についてもぜひお伺いしたいのですが、どんなところが魅力に感じますか?

中田 高校を卒業して、一歩大人になったから思うんですけど、高校生にしかできない表現があるなと思っていて。自分も現役のときに「高校生らしいね」みたいなことを言われるのが嫌だった人間なんですけど、でも改めて考えてみると、テーマとか言葉とかノリとか、多分現役高校生だからこそ醸し出せる雰囲気や空気感、不安定な年代だからこそできる表現がある気がします。

小沢 僕は高校演劇をあまり知らないので、想像つかないんですけども、確かに、舞台始めた頃のあの感じはもう出せない。役者として、どんどん技術や見せる力がついてしまって。それらを知らないときの「とにかく届けたい」という思いが実は一番大切だったりするけど、きっとそういうことかな?

中田 そうだと思いますね。たった3年間ではプロの役者並の技術を積むことができないと思うんですけど、でもだからこそ、最初に演劇を始めたときの情熱みたいなものがすごく強いのかなと思いました。

小沢 だからこそ、お仕事でやる演劇とはまた別だから、コロナ禍で中止になってしまうことへの重みがありますよね。もちろん、お仕事でやる演劇が中止になるのも、それはもう悔しいものではありますけど、それとは違って、お金なんかは関係なく、思いや熱量だけで作り上げたものが砕かれると、その思いはどこに行けばいいんだという話ですよね。

――最後にどんな方にこの舞台を見て欲しいか、コメントをお願いします!

中田 女子高生の話で、高校演劇が原作なので、「高校演劇か」と思う人もいると思うんですけど、そういうイメージを取っ払って、年齢や性別を問わず、いろいろな人に見ていただきたいです。

小沢 若い人に、見てもらいたいですね。キャストでも現役高校生がいたりするので、まさに現役生にも見てもらいたいと思うし、その子を持つ親御さんにもぜひ。実際に当時高校生だった中田さんが高校生活を送る中で感じたことを描いているので、「子どもたちはこういうことを考えてたのか!」と想像できるチャンスでもある気がするので。それも面白いですよね。いずれにしても、ぜひ劇場で体験してください!



取材・文:五月女菜穂

『水深ゼロメートルから』チケット情報
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventCd=2122042

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