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ぴあ

いま、最高の一本に出会える

注目のこの人 第6回 劇団シベリア少女鉄道・土屋亮一

くだらない笑いを生み出し続けた20年

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特集

19/7/31(水)

旗揚げ公演から貫くバカバカしさ

─── シベリア少女鉄道は今からちょうど20年前の1999年7月に結成されて、その翌年に旗揚げ公演『笑ってもいい、と思う』を上演されていますが、どんな内容だったんですか?

土屋 割と真剣な顔をして学園ドラマみたいなのをやってるんですけど、途中でステージのうしろにかかってる黒い幕が途中でバンって落ちると、『笑っていいとも!』のセットになってる。で、そのまま芝居は続いてくんですけど、なんか『いいとも』の出演者達が『いいとも』のコーナーをやってるように見えるっていう。番組の進行どおりに『テレホンショッキング』からコーナー挟んで、最後『いいとも選手権』で終わる、みたいな(笑)。

─── 学園ドラマでひとしきり番組をなぞるんですか。

土屋 そうですね。『いいとも』1回ぶん、すごいシリアスな顔をして、「明日も見てくれるかな?」ってところまで。登場人物に森田って名前の人がいたりして、小出しに段々漏らしてく感じはあるんですけど。基本的にはドまじめな芝居をやってるっていう体で進めて。

─── だんだん『いいとも』とシンクロしていく(笑)。初回からすでに心底くだらないことを全力でやるっていうスタイルは完成していたんですね。

土屋 第1回公演は、2003年に再演もしたんですけど、その時はちょうど『3年B組金八先生』に上戸彩が出てた頃で、最初、ブレザーの制服で下スカートで転校してきた女生徒が、「女子だけどズボンはいていい?」みたいな話になって。

─── そこは『金八先生』をなぞりつつ。

土屋 そのあとちょっと、事故に巻き込まれてサングラスをかけることになってしまうシリアスなドラマをやりながら、徐々にそっちに向かって行くっていう。

─── で、気づいたら上戸彩がタモリになってるんですか。

『笑ってもいい、と思う。2003。』(第1回公演 再演)

土屋 そうですね(笑)。そうやって仕掛けがあって後半にそれが一気に回収されるみたいなスタイルは、今もそんな変わってないといえば変わってないかもしれないですね。三谷幸喜さんの舞台が大好きで、特に『君となら』っていう芝居は伏線の回収がすごいんですよ。振ってあったものがガチガチガチガチってすべてきれいにはまっていく。『ラジオの時間』もすごく好きです。そういうのにすごく憧れてはいたのもあって、僕の脚本も伏線があって最後にドカンドカンっていう展開が多いんだと思います。三谷さんからしたら一緒にされたら迷惑だとも思うんですが。

─── それが1回目からうまくはまった。

土屋 あと、何の気なしにメンバーを集めたら、スタッフも演者も結構笑いに厳しい感じの人が揃っちゃって、変におちゃらけたことをしても冷めた目で見られそうで、この人たちの前でスベるわけにはいかない!っていうのを結構突き詰めて考えた結果、最初から念入りに振りの部分を作ることになりました。そこからどうにかしようって考えていくっていうスタイルがうまくいったので、最初の頃は特に前ふりをきっちりして、既存のものになってくパターンの芝居が多かったですね。『栄冠は君に輝く』(第4回公演)は、漫画の『タッチ』みたいな高校野球に恋愛要素を交えた話で、エース同士がライバルなんです。でも片方のエースが肩を壊したまま試合に出ることになって、そのライバルはふがいなさにちょっと納得いかなくて手を抜いて投げる。そうすると大量点が入って、スコアボードに「10点、9点、10点、9点」って表示されていくんです。

─── まさか・・・。

土屋 だんだんちょっと演技も誰かのマネしてるな、なんか所ジョージの真似でセリフを言いはじめて、『ものまね王座決定戦』になってる(笑)。

─── ほんとにくだらないですね(笑)。

『栄冠は君に輝く』(第4回公演)

土屋 あとその形に少し変化を付けたのが、『耳をすませば』(第5回公演)で、一人暮らしのワンルームみたいな部屋で、3本のオムニバス形式で出演者が変わる芝居をやっていくんです。だけど、それを同時に人が入り乱れる感じにしてやりながら、『アルプスの少女ハイジ』の映像を流したら、ちょうどそれがアテレコみたいにまとまるっていう。

─── それは観た人はみんな驚きますよね。でも作るのがめちゃめちゃたいへんそうですね。

土屋 そうですね。まず最初、役者に設定だけ決めて即興でやってもらったものと、映像の方と両面から合わせていくような作業でした。

─── 唯一無二というか、そういった芝居をする劇団は他にないですよね。そもそも土屋さんが演劇に興味を持たれたのはいつ頃なんですか?

土屋 高校生の時に三谷幸喜さんの舞台がテレビでやってて、それがすごい面白くて。東京サンシャインボーイズの『ショウ・マスト・ゴー・オン』っていう舞台なんですけど。それがきっかけで演劇をやろうかなと思ったんです。

─── じゃあ、大学から演劇を始めて。

土屋 でも結局、大学では演劇部に入らずに放送研究会みたいなところに入っちゃって。サークルの中の発表会に向けてラジオドラマを書くっていうのをやってたんですけど、やっぱり演劇をやってみたいなっていうのが4年間、うっすらと自分の中にあって。大学を卒業してから、ちょっと知ってる高校のときの面白い人とか、あと公募して来た人と一緒に、初めてなので何もわからないですけど、とりあえず1回付き合ってくれませんか? みたいな感じで劇団を作ったんです。最初はちょっとやってみようかなっていう人の集まりだから、第1回公演は、場所代含めて予算60万円ぐらいで作って、チケット代も1500円ぐらいだったと思います。

─── シベリア少女鉄道の舞台は、演劇に対するメタな視点での仕掛けが多いのも特徴ですよね。

土屋 そうですね。最近はそういうメタな、出演者に裏の感情があってどうこうとかっていうところで遊ぶことが多かったです。去年、再演した『今、僕たちに出来る事。あと、出来ない事。』(第3回公演)は久しぶりにそういうのじゃない形をやりましたけど。SFとかタイムスリップとか、宇宙がどうこうとか結構壮大な話を舞台でやろうとしても、できることとできないことがあるよねっていう内容で。

『今、僕たちに出来る事。あと、出来ない事。from 2001 to 2018。』(第3回公演 再演)

─── それもある種のメタですけどね。この写真のシーンはマジックをやってるんですか?

土屋 いや、この写真は多分レーザーガンで首を切り落とされたシーンです。それを、なんとかできる範囲で表現している(笑)。

─── わはは、なるほど! いろんな「できないこと」で遊んでいるわけですね。

土屋 最終的にクローンと双子とタイムスリップといろんな要素が入ってきた結果、本人役が4人ぐらい必要になって、足りない部分は人形で代用していったら、ラストシーンは人形しか並んでなかったっていう、そんな感じの芝居ですね。逆に、大がかりなことをした公演だと、『残酷な神が支配する』(第16回公演)ですかね。回り舞台を使いました。

─── ミュージカルとか歌舞伎など大がかりな舞台で使われてる回転して場面転換する舞台装置ですね。

土屋 上から見るとベンツのマークみたいな感じで円形の舞台を均等に区切った3つの舞台があって、それがグルグル回って場面が変わりながら進行してくんです。だけど突然、猪木のビンタで舞台が逆回りする(笑)。

─── 突然、猪木! 猪木って、アントニオ猪木ですよね?

土屋 そうです。シリアスなドラマの最中に、なんの脈略もない猪木がビンタする映像が急に流れるんです。そうすると舞台が逆回転したことで謎が解けるみたいな。

─── 話を聞いてるだけだとわけがわかんないです! そういうちょっとどうかしてる仕掛けを思いつくときって、まずテーマが先にあるんですか?

舞台の内容は、ほぼファミレスで決まる

土屋 最初はファミレスでネタ出しの会議みたいなのをするんです。昔からいる古株の役者の子らと、なんかある? みたいな話をしていく中で、反応をうかがういながらヒントを得る。さっきの猪木のやつは、最初、「松方弘樹、世界を釣る」の映像で釣り竿のリールを巻く度に舞台が回転するみたいな話だったんですけど、そこから「ちょっと釣りではわかりづらくないか?」「なんかわかりやすい動力ないかな?」「ビンタじゃね?」「じゃあ猪木じゃね?」みたいな(笑)。

─── 先に回り舞台が決まって、そのあと動力として猪木が出てきた(笑)。

土屋 いつも取っかかりは結構そんな感じで。「それ、なんかできそう!」ってなっても「それだと、もって5分だろうな」っていうのもよくあるんです。いろんなことを話してるうちに、90分ぐらいイケるんじゃね?っていうのが見えたところで僕が持ち帰って、パッて整理し始めるみたいな。『この流れバスター』(第25回公演)なんかはネタ出しの会議の前に、ちょうどジブリ映画の『風立ちぬ』を見たんですよ。肺結核か何かで奥さんが結構苦しんでる横で、主人公がすげえスパスパ煙草吸うじゃないですか。「あれはもう、ああいう技だな」「殺人技だな」って話になって「相手を殺してしまったりとか死に至らせるシーンを繰り出して相手を物語で倒すみたいなのどう?」って感じで決まりました。

─── そういう誰もが知ってるシーンを技として出し合う。

土屋 そう。だからタイトルの『この流れバスター』は、「この流れに持ち込めれば、相手を殺せるバスター」ってことです。それぞれ演技強度みたいなのが決まってて、強いやつの設定に巻き込まれたら死ぬ。『キン肉マン』みたいに「風立ちぬバスター」って、タバコをスパスパスパスパってやったり、「タイタニックバスター!」って、例のポーズを決めたり、とにかくそういう有名なシーン集めて、技として繰り出していくバトルものです(笑)。

『この流れバスター』(第25回公演)

─── ファミレスで話してた話がほぼそのまま舞台になってるっていう。

土屋 今年の頭にやった『いつかそのアレをキメるタイム』(第30回公演)は、『下町ロケット』っぽい町工場の話なんですけど、医療ものとか弁護士ものとか専門的な知識がいるドラマってあるじゃないですか。そういうのの具体的なことをボカしたままなんかできないかな?っていうのがあって。「ずっとその部分をアレってことで進めて、そのアレをあとでまとめて一気に勝手に決めちゃったら支障が出て面白いことにならないかな?」みたいなところまでをファミレスで決めてます。

『いつかそのアレをキメるタイム』(第30回公演)

─── 仲間内の会話の中のちょっとした思いつきみたいなものを、毎回形にしてるのがすごいですよね。

土屋 そうですね。あとは、3年ほど前にやった『君がくれたラブストーリー』(第27回公演)は、最初、カードゲームみたいな感じで始まるんですけど、話してることはギャングの会話みたいに聞こえる。でもじつはカードに書かれてるセリフを読んでは捨ててるってだけだったという話で。

─── それも後半に種明かしがあるんですか?

土屋 いやこれは1ターン目の最後の方から、テーブルの上にどうやら今セリフが書いたカードが捨てられてたらしいっていうのがわかって、その時にいちばん最初になくなった人が勝ちってことも観てる人に伝わる。それで優勝したやつがいて、で、納得いかなくてもう1度やることになって、カードをシャッフルして配りなおしてやると2回目は急に病院の話になったり、別の話になる。で、いろいろ経由して、最終的に綺麗にまとまるっていう。

『君がくれたラブストーリー』(第27回公演)

─── このスクリーンに映ってるカードは、順番通りに出されたものを録画したものですか?

土屋 いや、生でテーブルの上を映してます。だから誰かがカードをバラって落としちゃったら終わりですね。2回目は以降は全部見せてるから、きっちり順番になってるので戻せないですから。

─── それ、演じる人たちは非常に高度なことをやってますよね。

土屋 演じるのは大変だと思います。ほんとに。

─── リハーサルはかなり入念にされてるんですか。

土屋 でも、たぶん他のところに比べたら稽古時間は短いです。やっぱすごくセンスというか、面白どころを汲んでわかってくれる人が中枢にいて。浅見紘至(デス電所)くん、加藤雅人(ラブリーヨーヨー)くん、小関えりかさんといった常連の方もそうですし。古株の人達もそう。たぶんそれでまわってるんじゃないかと思います。同じものを、はじめましての人に持ってくと、たぶんうまくいかないでしょうね。

─── 劇団のメンバーは普通にサラリーマンをされてる方もいるんですよね。

土屋 スタッフや役者は結構いろいろで、それこそいちばん最初からいる古株の役者は他に職がある人もいて、毎回、そっちの仕事が終わってから開演直前ぐらいに入ってきます。劇団を立ち上げた当時はまだ大学生だったりバイトしながらでしたけど4、5年たった頃に、役者をやっていきたいっていう人と、他の仕事するけどうちの芝居だけやりたいみたいな人と分かれた感じですね。僕は基本この仕事で食べたかったのでそのまま続けていくことにしました。そのほかに加藤雅人くんとか、浅見紘至くんは普通に事務に所属してドラマとか出てる役者さんがレギュラーで出てくれてます。だからいろんな価値観が混在していますね。 

─── シベリア少女鉄道の芝居は、ジャンルとしてはコメディになるんですかね?

土屋 僕の中では長い尺のコントだと思ってるんですよね。結構それは割と初期の頃から思っていて「永遠のように、長いコント」って最初の公演のチラシのキャッチにも書いた記憶にあります。ジャンルって話で言うと、あまりこういう舞台が他ではやっていないので、自分が見たいものを作ってます。だからひとりよがりですけど、ひとりよがりのくせに、とにかくウケたいし、ほめられたいって気持ちでやってますね。

─── 土屋さんはテレビのコントもよく書かれてますが、テレビ用のコントとシベリア少女鉄道の舞台では、ぜんぜん違うものなんですか?

土屋 そうですね。やっぱりこれは言えばわかってくれるみたいな、言語化しづらいことでも自分らの界隈だと汲んでくれるみたいなこともあるし、そもそもかかわる人数が少ないので。外の例えばテレビのコントだと、たくさんの人が関わっているから、やっぱりちゃんと何人も介していく上で意図を言語化できるようなものじゃないといけない。ゆくゆくは小出しにして紛れ込ませていけたらいいのになーって思いつつ、こんなこと言い出すと回らないんだろうなみたいなのは我慢して、ちょっと引っ込めるってことはやっぱりありますね。

─── たしかにさっきの猪木がビンタしたら舞台が回るようなのは、ちょっと伝えるのが難しいですもんね。

土屋 まあでも、最初にテレビをやらせていただいた時も、舞台を何度か見に来てくださってたプロデューサーさんに、やってみない? みたいな感じで呼んでもらった感じだったので、今も「ちょっと攻めちゃいなよ」とか「らしさ出しなよ」って言ってもらえることが多いですね。テレビの人たちにも、ある程度、土屋はバカなんだなっていうのは伝わってるというか(笑)。比較的、楽しくやらせてもらってるほうだと思います。幸せ者です。

─── 現在上演中の『ココニイルアンドレスポンス』は初の4人芝居ということですが。

土屋 今回は特に、とても細かくてくだらない出し物になってます。ひとりよがり度は高いかも知れないですけど、自分が大好きな笑いというか、そういう大好きなシーンがいっぱいあります。それをなんとか大勢の人に伝わるようにもっていきたいですね。当日券は全ステージで用意してますし、まだ間に合うのでぜひ観てみてほしいですね。

文・構成 河上 拓

公演日程

シベリア少女鉄道 vol.31『ココニイルアンドレスポンス』

作・演出 土屋亮一
出演 浅見紘至(デス電所)、加藤雅人(ラブリーヨーヨー)、小関えりか、川井檸檬

新宿・ THEATER BRATSで8月4日(日)まで上演中。
プレイガイド予約は前日18時まで。当日券は当日19時から劇場にて販売。平日は20時開演。3日(土)は14時と18時開演の2回公演。4日(日)は13時と15時開演の2回公演となっている。

詳しくは公式Webへ
http://www.siberia.jp/stage/

プロフィール

土屋亮一

1976年生まれ。國學院大学在学中、放送サークルでラジオドラマを執筆。卒業後1999年に「シベリア少女鉄道」を設立。以後、全作品の脚本・演出(たまに出演)を担う。『ウレロ』シリーズ(TX)をはじめ『LIFE!~人生に捧げるコント~』(NHK)、『戦国鍋TV』(TVKほか)、『SICKS 〜みんながみんな、何かの病気〜』、『徳山大五郎を誰が殺したか?』などコント番組、テレビドラマなどの脚本を手掛けるなど多方面で活躍中。

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