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『アオアシ』が描く、ユースクラブ選手のリアル 部活動のサッカーとの違いとは?

リアルサウンド

20/5/3(日) 12:00

 Jリーグの下部組織を舞台に主人公の青井葦人の成長を描く『アオアシ』。昨年2.5次元ミュージカルにもなった人気作品もとうとう20巻に到達した。

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■初めて本格的にJリーグの下部組織を描いた作品

 これまでの日本のスポーツ漫画、特に10代、学生年代をテーマにした漫画は、その大半が高校の部活動をその舞台としていた。もちろんこれまでの10代のスポーツ文化の多くを支えていたのは部活動である。特に高校年代の野球なら甲子園、バスケならウインターカップ、バレーなら春高と、TVでも放送され、一般的な知名度の高い大会も多く、漫画としてその舞台を題材にすることは同年代、もしくは部活動を経験してきた読者にとっては感情移入しやすいことに異論の余地はない。

 しかし、『アオアシ』が舞台にしたのはJリーグの下部組織、いわゆるユースクラブである。Jリーグが開幕して28年目を迎える。これまでも日本のスポーツ界において、他競技でもクラブチームというものは存在していたし、サッカーのクラブチームというものも多く存在していた。ただ、プロを頂点としてピラミッド型に組織作られ、上から一貫した体制で専門的な指導を受けられるクラブチームというのはJリーグの誕生によって作られた比較的新しい文化といっても過言ではないだろう。だからこそ現時点でもJクラブのアカデミーとよばれる下部組織というものが、特にサッカーに興味がない人たちにとってはいったいどんなところなのか、どんなことを子供たちは学んでいるのか、正直理解していない人が大多数を占めると思う。

 だが、むしろそんな人たちにこそ、『アオアシ』を読んで、Jのアカデミーというものがどういうものなのか興味を持ってほしいと思う。一般的にJ下部に属する選手は、早い子では小2~3から数百人集まるセレクションを勝ち抜いて能力(もしくは将来性)を認められた、文字通り選りすぐりの選手たちの集まりである。彼らはジュニア(12歳以下)、ジュニアユース(~15歳)、ユース(~18歳)とカテゴリーが上がるたびにクラブからふるいにかけられる。Jの下部組織には、ジュニアユースまでは複数のチームを持っているクラブも多く、そういったチームではユースに上がる段階で、単純計算で半分がふるい落とされる形になるのだ。

 もちろん単に持ち上がりだけではなく、ジュニアユース、ユースの段階で他のクラブ、学校に所属していてスカウトをうけたり、セレクションで合格を掴み取る選手もいるが、ユースの段階ではやはり外部からの合格はどのクラブでも数名である。幼少期からそういうサバイバルに勝ち残ってきて、質の高い指導を受け、なおかつトップレベルの選手のプレーを間近で見てサッカーに打ち込める最高の環境が与えられるユース選手は、当然ながら自分の実力にも自信を持っているし、選ばれた人間だというエリート意識を持っている選手も多い。エリート意識というより、クラブに対する、己に対するプライドが高いといえよう。

■部活動のサッカーとの相違点

 対して高校のサッカー部はというと、入り口はあくまでも部活動なので、その学校の生徒であれば在籍できるが、これも強豪校に関しては主力の大半が推薦(スカウト)組だったり、学校によってはJ下部でユースに昇格できなかった元J下部生を積極的に集めているところもある。おそらく、高校までサッカーを続けているからには一度くらいJ下部のセレクションを受けたり、幼い頃にJ下部に合格することを目標にサッカーに取り組んできた選手たちも多いので、Jクラブに対しての思いというのは多かれ少なかれみんな何かしら抱えていることは間違いない。むしろJ下部だけには負けたくないと思っている選手たちも相当数いるのが現実である。

 『アオアシ』本編ではいま、プレミアリーグ(U-18世代のトップリーグ)の真っ最中で、特にここ数巻は船橋をはじめとした高校の部活チームとの戦いが続く。プロの下部組織チームと高校の部活チームが同じ公式戦で戦えるというのもユース年代のサッカーの特徴の一つであるといえる。今回の船橋戦、そして21巻以降で展開される青森戦はいまのユース年代のサッカーのリアルな一旦が垣間見られるいい機会である。「クラブは戦術を教えられるが勝つことは教えない」という青森星蘭の監督のひとことは、サッカーの育成年代に興味を持つ人間なら、思わずいろいろ考えさせられる非常に深い言葉である。

 同じサッカー、同じ育成年代でありながら、そのイデオロギーはJ下部と部活では異なる部分があることは間違いない。ただ、どちらかが間違っているわけでもないし、決してお互い歪みあったり、乏しめあったりしているわけでもない。この作品に出てくる指導者たちは、みんなそれぞれの環境で自分なりのメソッドで選手たちを導いている。その導く先は単に目先だけの勝利ではなく、常にもっと高いところを見据えている。そして選手たちも、自らの目標のために真っ直ぐに練習に取り組んでいる。

 ”突き抜けた”選手の姿を目の当たりにして恐怖を覚えた主人公・葦人にとって、今回の船橋戦は初めての大きな挫折であったに違いない。果たして自身が”突き抜けた”選手になるために、これから何を学んで、どう成長していくのか。J下部組織に所属して、強烈な対戦相手との戦いの中で己の持つ突き抜けた才能をどのように発現していくのか、周りの人間がどのように関わっていくのか。部活とは一味違うクラブチームならではの成長譚を、未読の方はSTAY HOME週間であるこの機会に味わっていただきたいと思う。

■関口裕一(せきぐち ゆういち)
スポーツライター。スポーツ・ライフスタイル・ウェブマガジン『MELOS(メロス)』などを中心に、漫画、特撮、芸能、ゲーム、モノ関係の媒体で執筆。他に2.5次元舞台のビジュアル撮影のディレクションも担当。

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