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和田彩花の「アートに夢中!」

生きている東京展

毎月連載

第48回

開館30周年を迎えたワタリウム美術館(東京・表参道)で開催中の『生きている東京展』(2021年1月31日まで)。建築家マリオ・ボッタによる「ワタリウム建築プロジェクト」がスタートしたのは1895年。その後、1990年9月、渋谷区神宮前のトライアングル地にワタリウム美術館は生まれ、以来30年間、同館は東京からアートを発信するとともに、作品を生み出してきた。しかし2020年、未曾有のパンデミックの状況下で、世界が大きく変わろうとしている。そんないまだからこそ、ワタリウム美術館が見た、そしてアーティストたちが見たこの30年間から、東京を再考するために開かれた本展。コレクションを中心に、未公開ドキュメント、さらにゲストアーティスト3人を迎えて展示され、提示された「東京」の姿に、和田さんは何を思ったのか。

大好きな美術館

「生きている東京」展 展示風景
撮影:今井紀彰

ワタリウム美術館は、私の大好きな美術館なんです。初めて訪れたのは、2015年に開催された『Don't Follow the Wind』。これは東京電力福島第一原子力発電所周辺の帰還困難区域内で開催された展覧会のサテライト展示でした。それからずっと通っています。

今回の展覧会は、動き続け、まさに生きている東京に焦点を当てると同時に、30年間、東京とアートを見つめ、発信してきた美術館自体にも焦点を当てています。私自身も初めて美術館がどういう建物で、どういう構造をしていて、そしてどういう思いを持って建てられたのかということを知ることができ、ますますこの美術館が好きになりました。

ワタリム美術館外観

ワタリウム美術館は、スイスの建築家マリオ・ボッタによる日本で唯一の建築です。しかも三角地に建てられたことによって、建物の形は三角形。大通り、脇道、小さな後方部、といった3つの異なる空間状況に接し、対応しているんだそうです。

ワタリウム美術館のアクソノ メトリック投影画像

外側も少し変わっていて、コンクリートに黒い石材で横縞が施されています。正面左には、建物から押し出されてしまった非常階段が備え付けられているのですが、全体的にいっさい窓のようなものは見えません。だからちょっとした要塞のような、堅固な建物のように見えます。でも中に入ると吹き抜けや、案外自然光が入ったりと、外側の硬いイメージを払拭するような、美しい展示室が配置されています。

今回、じっくり建物を見てみると、直線と曲線がバランスよく、日本にはこんな建物はなかなかないなと思いました。一見するととても特徴的で街の中で浮いてしまいそうなのに、実際は街に溶け込んでいるという面白さ。でも街中に、著名なアーティストのアイデアや視線、手が加わった建築という作品があるということを、私も含めて、みんなもっと注目すべきですよね。なんだかとてももったいないことをしていたな、と思ってしまいました。

やっぱりJRは面白い!

今回は、膨大なコレクションから、島袋道浩、ジャン・ホワン(張洹)、寺山修司、齋藤陽道、JR(ジェイアール)、オラフ・ニコライ、デイヴィッド・ハモンズ、ファブリス・イベール、ナウィン・ラワンチャイクン、バリー・マッギー、マリオ・ボッタ、ナムジュン・パイク、そしてゲストアーティストとして会田誠、渡辺克巳、SIDE COREの作品が展示されていました。

JR《インサイドアウト》プロジェクト東北/東京 制作ドキュメント 2013年2月7日

その中でも、やっぱりJRが大好きですね。JRは、世界各国で大型の写真インスタレーションを発表しているアーティストです。ワタリウム美術館とも縁が深い作家で、2013年と2015年に展覧会が開催されました。

私が彼を知ったのはここ数年のことなんですが、JRと、ヌーヴェルヴァーグ誕生前夜から2019年に亡くなるまで、生涯現役を貫いた女性映画監督アニエス・ヴァルダが、フランスの田舎町やパリを2人旅をする映画『顔たち、ところどころ』(2017年)をSTAY HOME中に見たんです。これが最高に素敵で、ぜひこの映画も皆さんには見てほしいというぐらいお気に入りの映画になりました。

そしてこの映画を見てから、めちゃくちゃ彼のことが好きになって。JRは、「自由」「限界」「アイデンティティー」「コミットメント」などをテーマに、さまざまな表情をした人々のモノクロのポートレート写真を、大きく引き伸ばしてプリントし、壁、屋根、列車、船など、街中に貼り付けていくというというアーティスト活動をしています。街自体がキャンパスなんですよね。そのほかには映像作品もあります。

これまでに、東京やパリなどの都市に限らず、アフリカ、インド、パレスチナ、イスラエル、ブラジルなど貧しい地域や戦争などで情勢が不安定な地域で制作活動をしてきました。日本でも東日本大震災後の日本にも足を運んで作品を制作しています。

そう、彼は街自体を作品にしているんですよね。しかもその街の人たちを巻き込み、建物などだけじゃなく、住んでいる人たちを作品にしていくんです。時にはその場で撮影して、すぐに巨大なポスターへと印刷し、貼っていきます。

映画では、その制作風景と住んでいる人たちの反応をつぶさに見ることができるんですが、人々がJRの活動を享受し、ともに楽しみ、一つの作品と文化のようなものを作り上げている様子を見ることができる、最高に素晴らしい活動だなと思いました。

そのような思いがあった上で、美術館で彼の作品に対峙したときは感動しました。ここでもそんな活動をしていたんだって。現地で見られなかったことがすごい悔しいです。いつか私も作品の一部になりたいなって思います。

なごやかな気持ちになる作品も

いまコロナによって、私たちはまだまだ疲弊し、ストレスを抱えていると思うんです。そんな時に、ちょっとホッとするような作品を見て、心を解放したり、和ませるというのも大事ではないでしょうか。それを思い起こさせてくれたのが、島袋道浩さんの作品でした。

島袋道浩《象のいる星》 2008年 撮影:今井紀彰

1990年代初頭より国内外の多くの場所を旅し、そこに生きる人々の生活や文化、新しいコミュニケーションのあり方に関するパフォーマンスやインスタレーション作品を制作されている方だそうなんですが、作品は写真、絵画、日記など多岐にわたります。

特に私は日記のような、文字の作品に心惹かれたんですが、そこには、ひょろひょろっとした文字で、朝、屋上から見た鳥や大きなバルーンについて書かれていたりして。それを読んだときに、「朝って確かにきれいだよな」って思ったんです。当たり前のことなのに、なんだか忘れていたなって。

みんながきれいだと思うけど、いつの間にか忘れてしまっている日常の風景なんかを、フッと思い起こさせてくれるのが島袋さんの作品。単純な日常や、単純な目線っていうのを作品にして、人の心を和ませるのって素敵だな、と思いました。

SIDE CORE《empty spring》2020年

あとはSIDE COREもすごかったですね。まさに「いまの東京」を映し出した作品でした。

これは、緊急事態宣言下の渋谷のスクランブル交差点。いつもあふれんばかりの人がいるのが当たり前の光景なのに、人っ子ひとりいなくなってしまうなんて、誰が想像できたでしょうか。彼らはそんな事態の中でも、公共空間をゲリラ的に使用し、いまの社会そのものを作品に落とし込んでいるんです。彼らの作品を見ていると、やはり作家であり、表現者だなって思いました。

そしてこの作品を見たときに、Chim↑Pomも緊急事態宣言下の東京で作品《May, 2020, Tokyo》を制作していたことも思い出しました。彼らにとっては、この事態も作品とすべきモチーフなんですよね。

美術館という場所

ワタリウム美術館は、現代美術を見る上でもとても重要な場所だと私は思っています。

とかく大きな展覧会に惹かれてしまいがちですが、こんなにも素晴らしいアートが詰まった空間が、青山にあるということがとても素敵じゃないですか? 原宿や表参道から少し距離はありますが、美術館に行くまでの道のりもワクワクするんです。

美術館って、展示だけを楽しむんじゃなくて、その周りの環境や建物までもがある種作品のようなものであり、建ったその瞬間から、目新しくて異質なものが、周りの環境や、通る人々のエキスを吸い上げることによって、いつの間にかそこにある、一種さりげなくもランドマーク的な建物に変化していく。その様が手に取るように分かったのも、大きな気づきでした。

それにマリオ・ポッタが映像の中で、「文化というのは、人々の習慣とか行動とかからできる。そしてアーティストはその文化に関心を持っていろんな疑問をぶつけたり、疑問を追求することによって、アートを形作っていく」というようなことを言っていたんです。わかっていたつもりでしたけど、言葉にしてくれたことですごく腑に落ちました。

たくさんの発見があった今回の展覧会ですが、私たちがよく目にする光景が、ある瞬間から非日常になってしまう、その恐ろしさと驚きを感じた緊急事態宣言下の状況など、アーティストにとって、日常の一瞬一瞬が作品になるんだな、ということもよくわかりました。それにいまだけじゃない、過去の東京の姿も一緒に展示されることによって、東京はいろんなことがありながらも、ちゃんと生きている、ということが提示されていて。この状況下だからこそ余計に、「生きている東京」という展覧会タイトルが刺さりました。

構成・文:糸瀬ふみ 撮影(和田彩花):源賀津己

プロフィール

和田 彩花

1994年生まれ。群馬県出身。2004年「ハロプロエッグオーディション2004」に合格し、ハロプロエッグのメンバーに。2010年、スマイレージのメンバーとしてメジャーデビュー。同年に「第52回輝く!日本レコード大賞」最優秀新人賞を受賞。2015年よりグループ名をアンジュルムと改め、新たにスタートし、テレビ、ライブ、舞台などで幅広く活動。ハロー!プロジェクト全体のリーダーも務めた後、2019年6月18日をもってアンジュルムおよびハロー!プロジェクトを卒業。アートへの関心が高く、さまざまなメディアでアートに関する情報を発信している。

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