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ぴあ

いま、最高の一本に出会える

撮影:伊藤青蛙

立川直樹のエンタテインメント探偵

万有引力『赤糸で縫いとじられた物語』 シーザーは世界的に評価されるべき演出家だ!

隔週水曜

第2回

18/7/11(水)

 素晴しかった。おもしろかった。深い……そして何よりもこれは実際に自分の眼で見ない限り、その魅力はわからない、言葉で伝えるのは不可能だと思った。

 新宿のシアターブラッツで6月15日から24日まで上演された万有引力の『赤糸で縫いとじられた物語』。〈寺山修司没後35年/演劇実験室◎万有引力創立35周年公演第1弾〉と銘打ち、万有引力の66回本公演としての上演だったが、今は亡き寺山修司が主宰した“演劇実験室◎天井桟敷”では全ての音楽を担当し、寺山修司の共同演出家としても仕事をしていたJ・A・シーザーは寺山修司の死を受けたような形で万有引力をスタートさせ、寺山ワールドを完璧に再現、いやそこに新しい血を入れた形での作品を精力的に上演し続けてきたが、“追っかけ”にも近いノリで見続けている僕としては、今やシーザーの作り出す呪術的かつ魔法のような世界はフィリップ・ドゥクフレやフィリップ・ジャンティといった世界的に評価され、世界を股にかけて活躍している演出家と並べて語られるべき存在ではないだろうか。

 でも、新聞などのメディアでは取り上げられることはほとんどない。“第71回カンヌ国際映画祭・最高賞受賞”とあって新聞は勿論のことテレビでもたくさん取り上げられた『万引き家族』は是枝裕和監督が文部科学相が「直接会って祝意を述べたい」と意向を示したことに対して「公権力とは潔く距離を保つというのが正しい振る舞いなのではないか」と自身のブログで祝意を辞退する考えを示したことがさらに報道に拍車もかけていったが、扱いやすいものを一時的にガーッと持ち上げる傾向はますます強くなっている感じがする。
 それはまたメディアの変化に他ならない。〈ぼくはね、子供のころから童話が好きだった。なぜなら、童話のなかには「謎」がいっぱいつまっていたからね。カボチャが馬車に化けたり、猫が長靴をはいたりする世界の謎は、どんな物理学者も名探偵も解明することはできない。だが、一歩その迷路にまよった人はだれでもそこに「血なまぐさい大人の世界の犯罪事件をうつしだす鏡」を発見するだろう。〉というシーザーの口上はわかりやすく単純なものとは対極にあるし、スマートフォンなどのゲームのやり過ぎで日常生活に支障をきたすゲーム依存症が“ゲーム障害”として国際的に疾患として認められたこと世界保健機関(WHO)が公表したという記事を見た時に、シアターブラッツの帰りの地下鉄の中でほぼ9割の人が携帯をいじっているシュールな光景を目にした時に、いい音楽や映画、演劇、美術…といったものはきちんと伝わっていくのだろうかということを改めて考えこんでしまったのである。

伝説的CMクリエイター杉山恒太郎の『アイデアの発見』、東京都写真美術館『内藤正敏 異界出現』

 ちょうどそんな時にタイミングよく、「ピッカピカの一年生」や、サントリーの「ランボー」他のシリーズなど数々の伝説的コマーシャルを作り、1990年式後半からはデジタル領域のリーダーとしてインタラクティブ・コミュニケーションの確立に貢献、トラディッショナル広告とインタラクティブ広告の両方を熟知した数少ないエグゼクティブ・クリエイティブ・ディレクターである杉山恒太郎が『アイデアの発見』(インプレス刊)という本を出した。サブタイトルは〈杉山恒太郎が目撃した、世界を変えた広告50選〉の通り、僕達の記憶に残る広告のエピソードが簡潔に書かれているが、読みながら思ったのは本当に日本だけではなく、世界的に知的なものが軽んじられ、文化的なものの社会で占める領域がどんどん狭くなっているということだった。

 WOWOWで中継された第72回トニー賞の授賞式で、昨年10月から1000席弱の小劇場で週に5日間、弾き語りによるショー『スプリングスティーン・オン・ブロードウェイ』の上演を続け、特別賞を受賞したブルース・スプリングスティーンを紹介する時にロバート・デ・ニーロが「まず最初にひとこと言わせてくれ。FUCKトランプ!」とかましたのは最高にうれしい一発。10秒遅れで中継映像を流していた米CBS局は音声を全面カットして対処したが、WOWOWはそのまま生中継した。

 デ・ニーロは6月5日にWOWOWで放映された2016年のパナマ・アメリカ合作のロベルト・デュランの伝記映画『ハンズ・オブ・ストーン』でも老いたボクシング・トレーナーの役をほれぼれとするうまさで演じていたがこれも映画館ではかからない。7月16日まで東京都写真美術館で開催されている『内藤正敏 異界出現』展にもほとんど人気(ひとけ)がなかった。
 見るべき値打ちのあるものなのにと、また溜息が出る。

〈寺山修司没後35年/演劇実験室◎万有引力創立35周年公演第1弾〉万有引力『赤糸で縫いとじられた物語』
日程:2018年6月15日〜24日
会場:新宿・シアターブラッツ
原作:寺山修司
演出・音楽:J・A・シーザー
構成・共同演出:髙田恵篤
出演:髙田恵篤/伊野尾理枝/小林桂太/木下瑞穂/森ようこ/髙橋優太/今村博/太刀川亮/比留間聡子/吉家智美/山田桜子/三好華武人/三俣遥河/森祐介/曽田明宏/田中真之/唐沢宏史/加藤一馬/泉佳奈


『アイデアの発見 杉山恒太郎が目撃した、世界を変えた広告50選』
発売日:2018年5月25日
価格:1728円
インプレス刊


『内藤正敏 異界出現』
会期:2018年5月12日〜7月16日
会場:東京都写真美術館 2階展示室
主催:東京都 東京都写真美術館 朝日新聞社

プロフィール

立川直樹(たちかわ・なおき)

 1949年、東京都生まれ。プロデューサー、ディレクター。フランスの作家ボリス・ヴィアンに憧れた青年時代を経て、60年代後半からメディアの交流をテーマに音楽、映画、アート、ステージなど幅広いジャンルの仕事を手がける。近著に石坂敬一との共著『すべてはスリーコードから始まった』(サンクチュアリ出版刊)。

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