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LiLiCoのこの映画、埋もらせちゃダメ!

ドラマチック過ぎてドキュメンタリーとは思えない『83歳のやさしいスパイ』

月2回連載

第70回

作品の軽快なタッチに反し、とても大切で重いメッセージを受け取って欲しい

今回は現在公開中の作品からひとつ、それと7月16日から公開される作品をひとつ紹介します。まずは全国順次公開中の『83歳のやさしいスパイ』から。なんの情報も入れずに観たら、ドラマチック過ぎてドキュメンタリーとは思えないでしょう。

新聞に“80~90歳の健康な男性”という条件で出ていた求人広告。それに引き寄せられたご老人たちは、耳はちょっと遠かったりするものの、皆やる気満々です。

その中で選ばれたセルヒオは、仕事の内容を知らされてびっくり。それは“高齢者施設で虐待が起きている疑惑があるため、その内偵調査として入所者になってスパイをする”というもの。そう、求人を出していたのは探偵事務所で、施設の入居者家族からの依頼で、スパイに見合ったご老人を探していたのです。

『83歳のやさしいスパイ』

セルヒオはスマホや超小型カメラ、メガネに仕込まれたカメラなど、慣れないスパイガジェットの訓練を受け、施設に入所します。施設はいたって平和で、入居者やスタッフの人々も皆穏やか。とても事件が起きそうな雰囲気はありません。

『83歳のやさしいスパイ』

彼はそこで生活しながら、探偵事務所からの司令どおりに周囲の調査を始めるのですが……。なんと3カ月もの間の潜入捜査を「取材の撮影」と称して施設にカメラを入れ、ガチの調査活動を収めたドキュメンタリーです。

『83歳のやさしいスパイ』

これがアカデミー賞長編ドキュメンタリー部門に候補入りするのは納得ですよ。だって、全然ドキュメンタリーに見えないほどエンタメしてるんだもの。

それに、スパイになったセルヒオさんが魅力的で、役者が演じるキャラクター以上に光ってる。たまにすっとぼけて自分のミッションを忘れちゃったりするんだけど、イイ人すぎて施設の人たちから好かれまくったり、恋心を取り戻す女性が出てきたり。本当にこんなことあったの!? と言いたくなるはずです。

『83歳のやさしいスパイ』

そして、もっとも重要なのが、観る側が最後に何を考えるか。それは、このミッションの依頼人である施設で暮らしている方々の家族が関わってくることなんです。すなわち、この作品をご覧になる皆さんの世代のお話。受け取るメッセージは、作品の軽快なタッチに反してとても大切で重いものなので、ぜひたくさんの人に観ていただいて考えてもらいたいですね。

『83歳のやさしいスパイ』

登場人物と同世代はもちろん、親の世代に観てもらいたい

さて、もう1作品は『17歳の瞳に映る世界』。ベルリン国際映画祭で銀熊賞を受賞した注目作です。

地味で目立たない高校生のオータムは、ある日、自分が妊娠していることを知ります。彼女が暮らしているペンシルベニア州では、未成年者の中絶に関しては両親の同意がない限りできず、親に真実を打ち明けることができない彼女は苦悩します。

『17歳の瞳に映る世界』

そんな彼女の異変に気づいたのは、彼女が唯一心を許しているいとこのスカイラー。彼女はお金を工面し、中絶手術で両親の同意を必要としないニューヨークに向かいます。少女ふたりのロードムービーを通じて、思春期の苦悩、現代の女性が抱える苦悩などを描いた社会派青春ストーリーです。

『17歳の瞳に映る世界』

未成年者の望まない妊娠と中絶については、どこの国の人でも問題視していること。また、思春期で揺れ動く心模様や、友達がいることで救われること、また若い女性が晒され続けている性暴力の危険。

『17歳の瞳に映る世界』

これら全てがどんな場所でも問題になっていることですが、それを当事者の視点から描いたことで、とてつもなく切ない物語にしています。物語全体を彩る憂いを帯びた色調の美しさも手伝って、じっくりとこれらの問題に向き合う時間ができたという感じです。

これは以前紹介したドキュメンタリー映画『SNS-少女たちの10日間-』と同じく、登場人物と同世代の人たちはもちろんですが、ぜひとも親の世代に観てもらいたい作品。

『17歳の瞳に映る世界』

少女たちが置かれた状況や、妊娠・避妊に対するサポートの態勢、子供が秘密を持ち続けないといけない危険など、早急に見つめ直さないといけない問題が描かれているから。そのどれもが、子供の力ではどうにもできないことばかりですからね。

『17歳の瞳に映る世界』

この映画をきっかけに、大人の側が変えていかないとどうしようもないことがたくさんあることに気づいてもらいたい。一度観たら、ずっと心に残り続けちゃうお話です。

※次回は7月23日(金)に更新予定です!

取材・文:よしひろまさみち 撮影:源賀津己

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プロフィール

LiLiCo
1970年11月16日、スウェーデン・ストックホルム生まれ。18歳で来日し、芸能界へ。01年からTBS『王様のブランチ』に映画コメンテーターとして出演するほか、女優、ナレーター、エッセイの執筆など幅広く活躍。

夫である純烈の小田井涼平との夫婦生活から、スウェーデンで挙げた結婚式の模様、式のために2カ月で9kgに成功したダイエット術、スウェーデン育ちならではのライフスタイルまで、LiLiCoのすべてを詰め込んだ最新著書『遅咲きも晩婚もHappyに変えて 北欧マインドの暮らし』が、2019年9月に講談社より発売された。

『遅咲きも晩婚もHappyに変えて 北欧マインドの暮らし』

講談社 1400円(税別)
発売中

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