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般若が語る、ラッパーとしての人生と自身のヒップホップ観 「地道にずっと音楽をやってきただけ」

リアルサウンド

20/12/29(火) 12:00

 孤高のMC“般若”初の⻑編ドキュメンタリー映画『その男、東京につき』が公開中だ。渋谷からほど近い、様々な文化がせめぎ合う街・三軒茶屋から生まれたラッパー、般若。時代や流行に流されることなく、日本語によるラップにこだわり、その独特なリリックは多くのファンだけでなく、日本のヒップホップシーン、そして音楽シーンに大きな影響を与えてきた。

 本作では、これまで触れられてこなかった、壮絶ないじめ経験、音楽との出会いとジレンマ、自殺をも考えたという過去を般若が赤裸々に語る。いくつもの困難に行先を絶たれても書くこと、そして歌うことだけは辞めず、ついに武道館ワンマンライブを成功させた般若。リアルサウンド映画部では、般若のヒップホップ観、本作の感想からMCバトルブームへの複雑な思いまで話を聞いた。

般若が語る、ラッパーとしての人生と自身のヒップホップ観 映画『その男、東京につき』インタビュー

「地道にずっと音楽をやってきただけ」

ーー本作では先日の武道館でのライブ映像も多く収録されています。改めて武道館ライブを
振り返ってみていかがですか?

般若:1つの大きなポイントではありましたが、同時に通過点でもあったと思います。確かに大きな舞台だけど、やること自体はそんなに変わらないじゃないですか。目の前の人が1人でも1万人でもライブをするというだけの話で。武道館ライブが終わったあとは、地元の小さなライブハウスを回ったんです。それはそれでやはりとても有意義なものだったし、まだ僕の人生は続いていますから。

ーーそんな般若さんのこれまで語られてこなかった人生が本作では明かされています。ご自身で本作を振り返ったときに、自分の内心を吐露したような感覚はありますか?

般若:そうですね。全部ではないですが、ところどころで出したんじゃないかな。ぶっちゃけ、俺はこんなに苦労してこんなに成功したとか、ラッパーのサクセスストーリーみたいなものを語っている内容ではないじゃないですか。実際、僕もそんな派手なことをこれまでやっていたわけじゃなくて、地道にずっと音楽をやってきただけなんです。

ーー般若さんご自身では、これまでのラッパーとしての人生をどのように振り返っていますか?

般若:長かったです。だって40歳になって初めて武道館ライブをやるミュージシャンなんてなかなかいないじゃないですか。本当は20代そこそこのときにできるのが1番いいんでしょうけど、しょうがないですね。地道に少しずつ規模を上げていったような感覚です。時間がかかりました。

ーーMCバトル番組『フリースタイルダンジョン』(テレビ朝日系)では“ラスボス”として大きな注目を集めましたが、その後突如の引退発表も話題を呼びました。

般若:俺はバトルを現役でやってきた人間じゃないという違和感が当初から少しはあったんです。その違和感が、続けているうちに自分の中で大きくなってきて。俺は0か100かの人間なので、そうなったときに続けることができないんです。だから、引退しました。今後バトルに出ることもないし、審査員の話も来たりするんですが、それも絶対やらないですね。

ーーそんな般若さんがずっと続けているのが音源制作やライブで、その様子は本作の随所でも観ることができます。

般若:そのペースは、昔からずっと変わらないです。曲を作って、ライブをするというのが僕の生活の基本ですね。どんどん曲を出したいという気持ちがあるので、それならやれるだけやろうというだけの話です。

「俺みたいなやつってたくさんいる」

ーーMCバトルが流行して、ヒップホップというジャンル自体への認知は広まったと思います。そうした環境による変化はありますか?

般若:改めて曲を人に届けるという気持ちはやっぱり強くなりました。そういう状況もあって、俺がMCバトルの人間だと周囲から決めつけられたので。だからその倍曲を届けたいというのは、ラスボスをやっていたときからずっと考えていました。MCバトルの出口みたいなものは作りたかった。盛り上がっていることはすごくいいことだと思います。

ーー現在はコロナ禍ということもあり、なかなかライブができない状況でもあるかと思います。

般若:そうですね。今年はほとんどいつもみたいにライブはできなかった。先週、地元のライブハウスでライブしたんですが、気づいたら9カ月ぶりぐらいのライブだったんですよ。久しぶりにやってみて、やっぱりライブっていいなと思いましたね。このままだとみんなもっと元気がなくなるじゃないですか。精神的に落ち込んでいる人も増えていると思うので、こんな状況ではありますが、やっぱりライブはやっていきたいです。曲ももっと出したいし。

ーー本作での般若さんの姿を見て、ラッパーになりたいと思う人もいるかもしれません。

般若:いいですね。やりたいと思うことが音楽じゃなくても別にいいと思うし。何かの力になれば、俺はこの映画ができてよかったなと思います。

ーー本作ではラッパーとしての般若さんの人生のほかにも、いじめの過去や親の不在など今まで明かされてこなかったパーソナルな部分も赤裸々に語っています。

般若:そうですね。別に大袈裟な話じゃないし、俺みたいなやつってたくさんいると思うんです。いじめがこの先なくなるのかって言ったら、いじめなんて絶対なくならない。いつの世でもそういうことはずっと起きてきたわけだし。だったら、いじめられたときにどう対処するかが大事だと思うんです。でも、子供の頃はそういう辛い時間が永遠に続くように錯覚してしまう。でも大人になって振り返ると、実はあの時間って絶対に忘れられないけれど一瞬ではあったんです。俺みたいに歪んだやつがこれ以上増えないように、そのことは伝えておきたい。死ぬのもったいないってすごく思いますね。ほかに楽しいことがこの先たくさん待っているんだから。生きていれば悪いこともあるし、いいこともある。俺も42歳になってもまだイライラするし。

ーー本作は武道館ライブが大きな節目と位置付けられていますが、般若さんが思う、今後のドキュメンタリーを撮るきっかけになりそうなタイミングは?

般若:もうないでしょ(笑)。もう撮りたくないです(笑)。誰も俺のことを知らなくなった60歳ぐらいのときに撮ってもらえたらいいですね。さらにどうしようもねえ飲んだくれになってボロボロの状態のときにまた映画ができたら一番面白い(笑)。借金とかしまくって追い込まれているぐらいがいいな。

「なにかが欠落しているんでしょうね」

ーー般若さんは本作をご覧になったんですか?

般若:嫌だったけど観ました。自分の作品を観るのは好きじゃないんですよ。自分の曲すらも聴かない人間なので。

ーー個人的に印象的だったシーンはありますか?

般若:俺がラジオに音源を送ったときのカセットテープをZeebraが持っていたのは正直引きました(笑)。俺よりもみんなの方がいろいろ覚えていましたね。BAKUもよく喋るし、AIちゃんもそういうこと言うなよって思ったし(笑)。長渕剛さんが今回こういう形で出演したことは異例だと思うし、すごく熱いことを言ってくれたのは嬉しかったです。長渕さんは、ほかの人のことをそんなに饒舌に語る人じゃないと思うんですよ。俺は付き合いが長いというのもあるとは思うんですが、胸にくるものがありましたね。

ーー出演している多くの人が、般若さんが異色のラッパーであると語っています。自身のラッパー像について意識することはありますか?

般若:それがないんですよ。同業者と話していると、みんなすごい真面目だなと思います。俺は、「なにやったら面白いかな」「あの子かわいいな」みたいなことしか考えていないので。確かにヒップホップは好きだけど、俺がヒップホップかどうかなんて自分で決められないし、どうでもいいことです。なにかが欠落しているんでしょうね。昔から、みんなが「カッケー」っていうものをあまりかっこいいと思わなかったんですよ。ラップをやる人口や聴く人口が増えているのは本当にいいことですが、俺はただ変わらず制作を続けるだけですね。言いたいことがなくなっちゃったら、そのときはもうやめますが。

ーーただ、武道館に立てるラッパーはそれほど多くはないと思います。般若さんご自身では自分がここまでラッパーとして続けられた理由はなんだと思いますか?

般若:やめなかったというのが大きいと思います。言いたくないけれど、地道だったんじゃないかな。曲を作ることと、みんなに聴いてもらうことに関しては俺も真面目なので。曲が出来ないときもたくさんあるし、むしろそういう時間がほとんどですけど、曲を作りたいという気持ちだけは離したくないとずっと思っています。

ーーこの作品を観た方にどんな気持ちで映画館を出てもらえたら嬉しいですか?

般若:うわー、それ難しい質問ですね(笑)。でも、前向きになってもらえたらすごくいいですね。別にこの映画って大したことを言っているわけじゃなくて、渋谷の並木橋のJRAに毎週いたような俺が、よくわからないけれど人様に聞いてもらえるようになったというだけの話だと思うんです。こんなどうしようもない人間でも生きていられるんだと知ってもらえれば嬉しいし、実はそういう気持ちってすごく大事だとも思います。俺を反面教師にして、こうならないようにしようと思ってくれ、と(笑)。

■公開情報
『その男、東京につき』
ヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて公開中
出演:般若、Zeebra、t-Ace、R-指定(Creepy Nuts)、T-Pablow、Gami、BAKU、松井昭憲ほか
監督・編集:岡島龍介
撮影監督:手嶋悠貴
エグゼクティブプロデューサー:ショガト・バネルジー、ジョン・フラナガン、福井靖典、松本俊一郎
プロデューサー:上田悠詞
製作:A+E Networks Creative Partners
協力:昭和レコード
配給:REGENTS
配給協力:エイベックス・ピクチャーズ
(c)2020 A+E Networks Japan G.K. All Rights Reserved
公式サイト:HANNYAMOVIE.JP

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