春日太一 実は洋画が好き
もうすぐスクリーンで観られる『ヒッチャー』のルトガー・ハウアーにワクワクが止まらない!
毎月連載
第24回
『ヒッチャー ニューマスター版』(C)Filmverlag Fernsehjuwelen. All rights reserved.
大好きな映画──と言いながら、よく考えてみると“スクリーンで観たことのない作品”というのも、実は少なくない。
洋画、特に娯楽作品の場合、なかなか名画座などで過去作品が上映されることはないからだ。そのため、劇場公開時を逃すと、あとはテレビ放送かレンタルビデオで観るしかなかった。
公開時にそもそも生まれていなかったり、情報のアンテナに引っかからなかったりした作品は、どれだけスクリーンで観たくても、再上映の機会まで諦めるしかない。そして、テレビ放映やビデオで観てその魅力にハマって、それはそれで満足できていたりするので“実はスクリーンで観ていない”ということを忘れてしまっているという作品もある。
たとえば『続・荒野の用心棒』がまさにそれで、公開時には生まれていなかったし、それどころかレンタルビデオも出ていなかった。高校時代にチバテレビで放送されることを知り、それまで口を利いたことのなかった千葉在住のクラスメイトに頼み込んで録画してもらい、それを観たのが最初だった。
画質も悪かったしカットされたシーンも多かったが、それでも最高に楽しめた。そこからDVDが発売になるまでは、その録画テープを何度も何度も観て愛し抜いた。
今年1月にリマスター版が劇場公開された。初めて観たスクリーンでの高画質の『続・荒野の用心棒』。素晴らしかった。初めて観たかのような感激があった。何度も観てきたはずのひとつひとつのカットが、新鮮な刺激として目に飛び込んできた。
やはり、スクリーンで観るのは全く違う。ソフトやテレビや配信は、あくまで“次善の策”でしかない。そう痛感させられた。
“物凄く好きな映画”『ヒッチャー』との出会い
2020年はコロナ禍ということもあり、普段なかなかスクリーンで観ることのできないハリウッド娯楽作品が劇場公開されることになる。
そして、21年1月、満を持してアイツが日本にやってくる。
それが『ヒッチャー』!
愛してやまないルトガー・ハウアー主演の傑作映画だ。これも、“物凄く好きな映画”にもかかわらずスクリーンで観たことはなかった。
出会いは映画にハマりかけていた小学校高学年の頃。よく行く近所のレンタルビデオ店に1枚のポスターが貼ってあった。荒野のハイウェイで親指をあげる長身の後ろ姿のシルエット。そしてその横に大きく書かれた「心臓停止!」という不穏な文言。それは『ヒッチャー』の宣伝ポスターだった。たまらなくカッコイイ。魅入られた。
しかも、不穏なシルエットの主はルトガー・ハウアー。本連載で以前書いたように、スタローンの『ナイトホークス』の悪役で出演して以降、ルトガー・ハウアーに夢中だった身としては、たまらずレンタルした。
舞台はアメリカの荒野のハイウェイ。シカゴからカリフォルニアへドライブする青年(C・トーマス・ハウエル)は、ひとりのヒッチハイカーを乗せる。それがルトガー・ハウアー。気味悪い行動をとり続けるハイカーを青年は車から叩き出す。ホッとしたのも束の間、ここからハイカーは執拗に青年につきまとうようになる。
この手の“主人公が理不尽に追われる”型の作品の場合、『激突!』『ターミネーター』のように相手は主人公の殺害を目的としていることが多い。が、本作はそうではない。決して殺そうとはしない。時には助けることすらある。その一方で、主人公と関わった人間を次々と惨殺し、主人公を精神的に追いつめていくのだ。
しかも、それをするのがルトガー・ハウアー。知的で冷徹、それでいてタフガイ。そんな人間にロックオンされた主人公には、逃れる隙は全く感じられなかった。
その上、なぜそのようなことをするのかの目的も分からない。とにかく不気味で理不尽。主人公はひたすら生き地獄のような荒野を逃げ惑うしかない。
ルトガー・ハウアーがとにかくカッコよく、そして美しい。心奪われた1本だった。
が、“完全体”はまだ出会えていない。レンタルビデオはもちろん、いま出ているDVDの画質も良くないのである。
そんな『ヒッチャー』が、ついにスクリーンで観られる。しかもリマスターの高画質で。既にサンプルDVDでリマスター映像を観てはいるが、その段階で既に「うわ、今まで観てきた『ヒッチャー』より遥かに凄い!」と大興奮していた。それが、年明けにはついにスクリーンで観られるのだ。
そこに映るルトガー・ハウアーの姿は……。想像するだけで、今からワクワクが止まらない。
関連情報
2021年1月8日(金)よりシネマート新宿ほか全国順次公開
プロフィール
春日太一(かすが・たいち)
1977年、東京都生まれ。映画史・時代劇研究家。著書に『天才 勝新太郎』『仁義なき日本沈没―東宝VS.東映の戦後サバイバル』『仲代達矢が語る 日本映画黄金時代』など多数。近著に『泥沼スクリーン これまで観てきた映画のこと』(文藝春秋)がある。