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WONK 荒田洸が明かす、多岐にわたる活動を重んじる理由 「表現はすべてのジャンルが結びついてる」

リアルサウンド

20/7/12(日) 12:00

 エクスペリメンタルソウルバンドWONKのリーダーであり、ドラマー、トラックメイカー、プロデューサーとして活動する荒田洸。近年はCharaやiriのサポートのほか、ISSUGI、唾奇、KANDYTOWNのIOといったラッパーたちのバンドマスターを務め、日本のヒップホップシーンと西海岸のビートミュージックを接続させながら、2018年に発表したソロ作『Persona.』では美しい歌声も披露するなど、その活躍は多岐に渡っている。

 もともとWONKというバンドは趣味趣向の異なるメンバーの集合体であり、ジャンルやミュージシャンの「ハブ」となることを標榜し、最新作『EYES』でも「高度な情報社会における多様な価値観」をテーマとするなど、多様性を重んじる活動をしてきた。そして、その核に位置しているのは、幼少期から様々なカルチャーに触れ、「すべては結びついている」と語る荒田の哲学であろうことが、このインタビューからきっと伝わるはずだ。(金子厚武)

●「こういう音作りもある」ということを浸透させたい
ーー荒田さんは小学生のときに海外のヒップホップが好きになって、同じく小学生のうちにドラムを始めて、そこからジャズを勉強したそうですね。かなり早熟だと言っていいと思うのですが、ご両親が音楽好きだったのでしょうか?

荒田:うちの母はデザイナーなんですけど、美術館だったり、ありとあらゆるところに連れて行ってくれて、いろんなものを見せてもらって、選択肢を与えてもらった中から、たまたま引っかかったのが音楽だったんです。特に大きかったのが『マペット放送局』っていうテレビ番組で、海外のラッパーとかがゲストで出ていて、それにどハマりしたのが音楽の入口でした。それまでもいろいろ聴かされてて、東京ドームでやったThe Rolling Stonesのライブにも連れて行ってもらったんですけど、小っちゃかったから、それは全然記憶になくて(笑)。

ーー小学生にはテレビのコメディ番組の方が響いたと(笑)。

荒田:『マペット放送局』を見てハマったのが、クーリオとプリンスとトニー・ベネットで、ブラックミュージックに根差した音楽の全体像を何となく知った感じだったので、あの番組の存在はかなりデカかったですね。

ーーそして、中学で出会ったJ・ディラによって、ヒップホップとジャズが結びついたと。自分でトラックを作るようになったのも、やはりJ・ディラの存在が大きい?

荒田:そうです。高校まではずっと野球をやっていたので、トラックを作り始めたのは大学に入ってからなんですけど、一聴して、「自分でも作れるかも」って思って……実際は全然そんなことなかったんですけど(笑)。そこから自分なりに研究して、上ネタのローファイ感とか、ドラムの音質とか、いろいろこだわるようになって、知識も増えましたけど、未だにあの音は作れないんですよね。

ーー打ち込みでトラックを作るようになって、ドラマーとしての自分にはどんなフィードバックがありましたか?

荒田:あるあるだと思うんですけど、自分が打ち込みで作ったトラックから学ぶようになりました。「こういうフィールを生で出すにはどうすればいいのか?」みたいな。音作りとしては、自分の理想の音は打ち込みのサウンドなので、そこに近づけようとしつつ、MIDIの規格では128分の1の中でしか強弱が付けられないのに対して、生ドラムのダイナミクスレンジの広さは無限大なので、当然生音でしか出せない表現の仕方がある。その両方を追求するために、クエストラブ(The Roots)の研究はかなりしました。

ーークエストラブやクリス・デイヴが代表的なように、ヒップホップやR&Bでは打ち込みを生で再現する流れが昔からあるわけですけど、近年は作り手がどんどんDTMネイティブになっていて、ジャンル関係なく、生と打ち込みの両方に精通しているドラマーが求められているように感じます。荒田さんは今どんなドラマーが求められていると思いますか?

荒田:自分の視野の中でしか話せないですけど……確かに、打ち込みのサウンド感を出せるドラマーは求められているというか、需要があるように感じます。ただ、僕が個人の活動としてヒップホップをやったりしてる中で思うのは、まだヒップホップのドラムを叩ける人があまりいないというか、「この人だ!」って思う人があんまりいなくて。ヒップホップバンドはいっぱいいますけど、個人的にはバンド感が強過ぎるんですよね。僕が好きなのは<Brainfeeder>とか<STONES THROW>の音楽だったり、The Rootsがやってるようなサウンド感なので、今の日本のヒップホップシーンにはそっちの派閥がいなさすぎるなって。そういう人がもっと出てきたらいいなって思うし、自分もそこを追求していきたいですね。

ーー荒田さんがヒップホップのシーンと深く関わるようになったのは、どんな人や場所との出会いがきっかけになっているのでしょうか?

荒田:同世代に関しては、KANDYTOWNのDIANと大学で出会ったのが一番でかかったかもしれないです。もうひとつはジャジスポ(Jazzy Sport)の影響で、昔ふらっととジャジスポのイベントに行って、gakuさん(Jazzy Sport Music Shop 店長)に話しかけたら、「今屋上でMitsu the BeatsとかBudaMunkとかみんなでバーベキューやってるから君も来る?」って誘ってくれて。そのときに「実はバンドやってて」って言ったら、「何かできたら持ってきてよ」って言ってくれて、WONKで初めて作った作品を持って行ったら、「めっちゃいいじゃん」って言ってくれて、「リリースライブをジャジスポでできないですか?」って話をして。なので、その界隈との絡みはそこからすべてが始まりました。

ーーISSUGIバンドに参加したのもその延長だと。

荒田:そうです。だから、KANDYTOWNのIOくんとか、若い世代とやれたのはDIANがでかくて、ジャジスポ周りのレジェンドに関われたのはgakuさんのおかげ。で、もともとクエストラブに憧れてたから……日本のヒップホップのバンドに対して、「こういう音作りもあるよ」っていうのを浸透させたいっていうのがすごくあって。

ーーその手応えについてはどう感じていますか?

荒田:手応え……はまだないですね。でも、ジャジスポ周り、KANDYTOWN周り、唾奇さんとかも含め、自分に声をかけてくれるようになったのはありがたいし、スタートラインには立てたのかなって。今は録音物としての作品をもっとどんどん作って行きたいと思っていて、去年ISSUGIさんとやらせていただいた作品(『GEMZ』)は、音作りの面でも個人的にめちゃめちゃ納得行くものができたんです。なので、同世代のラッパーとも一緒に作品を作りたいなって気持ちがありますね。

ーー日本のヒップホップシーン全体の変化についてはどう感じていますか?

荒田:ちょっと頭打ち感はありますよね。僕が一緒にやらせてもらってるラッパーたちって、ヒップホップのヘッズはほぼ全員知ってると思うんですけど、J-POPの市場規模で見るとまだまだだと思うので、そこを突破したいし、してほしいなって思います。

ーーJ-POPの市場規模とまでは言えないかもしれませんが、BAD HOPを筆頭に、新たな流れができつつあるのも事実だと思うんですね。

荒田:それはありますね。Awich姉さんも、グローバルにいろんなアーティストとコラボしてたりして、ああいうのが突破口になるんじゃないかなって。僕はMIYACHIに頑張ってもらいたくて、MIYACHIなら海外とのトンネルを作る役割を担えるんじゃないかなって。だから、頭打ち感もあるけど、でも楽しみでもあるっていうか。WONKで言うと、僕らは「ハブになりたい」ってずっと前から思っていて、今だとCharaさんや香取慎吾さんともやりつつ、僕個人では唾奇さんやIOくんともやるっていう構図を作れたので、その母数をもっと増やしていけるといいなっていうのは思ってますね。

●「表現するって何だろう?」って考え続けることが重要
ーー荒田さんはドラマーであり、トラックメイカーであり、プロデューサーであり、さらにはソロアーティストで、シンガーでもあるというのは他になかなかいないですよね。

荒田:自分の作品に関しては、今はよりアコースティックに行くようになりました。ずっとトラックメイカーとして、フライングロータスみたいな音楽が好きだったので、あれをもっと自分色にして、ビートミュージックの進化版みたいなのを追い求めていきたいと思ってたんですけど、ヒップホップをやり過ぎたことによって、アコースティックをやりたくなってきて(笑)。最近のヒップホップとかR&Bの音作りですごく思うのが、一聴したときに、頭の中にDAWの画面が出てきちゃうんです。あとは、歌が乗ってきた瞬間に、ボーカルブースで録ってる感をめちゃ感じたり。そういう音作りには飽きてきて、自分の作品はもっとサウンド感に広がりを持たせたいというか、場所が想像できるような音を作りたくて。

ーー狭い画面ではなく、もっと広々とした場所?

荒田:例えば、Bon Iverを聴くと、「教会で歌ってるのかな?」って思ったりするじゃないですか。ああいう感じで、パッと聴いたときに草原の風景が浮かんだりするような音にしたいなって。ヒップホップをやりまくったことによって、今はそういう場所が浮かぶような音作りに興味を持つようになりました。

ーーコロナ禍で家にいる時間が増えたから、そうやって別の場所を想像させるような音楽はこれから求められるかもしれない。

荒田:どこかに連れて行ってほしいですよね。PCの中じゃなくて、もっと広い場所に……草原に連れて行ってほしいですね。

ーーソロ作としては2018年に『Persona.』をリリースしているわけですが、元からやりたいことだったのでしょうか?それとも、何かきっかけがあったのでしょうか?

荒田:WONK自体もともと自分がやりたいことをやるために組んで、自分がリーダーではあるんですけど、ワンマンバンドにはしたくなくて。せっかくバンドなんだから、みんなで作品を作りたいというか、チームプレーがしたかったんですよね。で、実際それぞれがいろんなところで経験してきたことをバンドに落とし込むようになって、結果的に自分だけのアウトプットをする場所ではなくなっていったんです。最初は俺が下地を作って、「こうゆうピアノを足して」とか指示してたんですけど、やっぱりバンドでそれをやっちゃうとつまらない。なので、自分だけの音楽を追求する場所としてソロを始めて、WONKはWONK、ソロはソロって感じで、今はいい感じに住み分けられるようになりました。

ーー最初から一蓮托生のバンドというよりは、それぞれが個人でも活動して、相乗効果を生むような活動スタイルを思い描いていたわけですか?

荒田:いや、最初はノリで始めてるんですけど、集めたメンバーがそれぞれ得意な範囲とか趣味がまったくバラバラだったので、自然とこうなって行ったというか。ここ最近はそれぞれバンドを組む前から興味があったことにより足を踏み入れて、それが結果的にWONKにも返ってくる流れができていて、その傾向は年々強まってますね。

ーーバンドメンバーにあえていろんな趣味の人を選んだというのは、幼少期からいろんなカルチャーに触れることが自然だったという最初の話とも通じるかもしれないですね。

荒田:そうかもしれない。僕はいろんなことに興味を持ってるような人が好きで、普段からそういう人たちと絡んでるから、WONKが今みたいなスタイルになったのも、自然なことなのかもしれないですね。

ーー自分の価値観だけを信じるのではなく、別の価値観に触れ、考え続けることの重要性をSF的な世界観で描いた『EYES』のストーリーも、もちろんメンバー全員がその意識を共有しているだろうけど、荒田さん自身の感覚と強くリンクしてるんだろうなって。

荒田:表現は個別の事象じゃないというか、すべてのジャンルが結びついてると思っていて。例えば、ガリレオ(・ガリレイ)は科学も物理学も天文学もやっていたように、結局すべては結びついてるんだなって、最近より感じるようになりました。僕の直近の夢としては、レインボーブリッジの上にオーロラを作りたいんですよ(笑)。自分の作品も作りたいし、日本のヒップホップに自分の思うサウンド感を根付かせたいし、服も作りたいし、それを別々のベクトルでやるんじゃなくて、ひとつのベクトルの中で完結させたくて。それこそ昔は美術館にもめちゃめちゃ連れて行ってもらってたんで、そういう経験も踏まえて、音楽だけじゃないもの作りで何かを表現したい気持ちはどんどん強まってますね。

ーーWONKとKing Gnuは深い交流を持っていますが、WONKが主宰するEPISTROPHと、常田さん主宰のPERIMETRONの活動からも見えるように、音楽的な接点だけではなく、「すべてが結びついている」という感覚をシェアしているのが大きいんでしょうね。

荒田:何を考えても、結局結びついてるんですよね。音のミックスを考えるのも、結局物理学とか音響学に結び付くし。ライブの演出を考えるにしても、僕が興味あるのはライブの演出だけをやってる会社じゃなくて、個人でインスタレーションとかをやってるような人たちで。そういう人たちの作品を見たときに、「この表現方法を使って、自分の得意な音と絡めることで、何か表現できるんじゃないか?」って発想をするので、そうやってすべてをクロスオーバーさせて、中身のあるいい表現にしていけたらなって。

ーー「オーロラを作りたい」という話にしても、一見突飛な考えだけど、「場所が想像できるような音楽を作りたい」という話と結びつくかもしれないですね。

荒田:まさに、そこも自然な流れかもしれないですね。

ーー今話してもらったのは、自粛期間の中で改めて考えたことでもあるのでしょうか?

荒田:うーん……僕、もの作りのことは常に考えてるタイプなんですよね。朝起きた瞬間から、「あれやりたいけど、どうしたらいいのかな?」って、自然に考えてるから、「自粛期間だから」っていうわけじゃ……いや、考えてましたね(笑)。もの作りそのものに関しては常に考えてるんですけど、もの作りをすることの意味とか、それを通じて何をやりたいのかとか、自粛期間でもっと奥の部分まで考えることができて、「結局すべてが結びついてるんだな」って、その中でより強く感じたんです。答えは出ないですけど、ただ作り続けるんじゃなくて、作品の強度を上げて、意味をしっかり込められるようにするには、一回立ち止まって、自分のこれまでの軌跡を振り返りながら、「表現するって何だろう?」って考え続けることが重要だなって、改めて思いました。(金子厚武)

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