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南條愛乃が語る、ライブを通して築いた“大切な場所”「今までやってきたことに間違いはなかった」

リアルサウンド

19/7/24(水) 12:00

 南條愛乃が、7月24日に新アルバム『LIVE A LIFE』をリリースした。同作は、2018年に開催された『Live Tour 2018 -THE MEMORIES APARTMENT-』の各会場公演(市川/名古屋/大阪/静岡)ごとに南條本人がセレクトした楽曲を収録したライブ音源盤4枚と、「君のとなり わたしの場所」に新曲5曲を加えた全6曲収録のオリジナル盤1枚の計5枚組。南條愛乃の現時点での集大成とも言える、大ボリュームの作品となっている。

参考:南條愛乃、歌詞の根底にある“つながり”の大切さ 作詞曲から音楽活動への思いを読み解く

 声優として着実にキャリアを重ねる中、2012年に念願のソロアーティストデビューを果たした南條。ソロデビュー当時は人前で歌うことが苦手意識を持っていたが、活動を重ねる中でライブは彼女にとってかけがえのない場所になっていったのだという。実際、ライブ音源/映像として今作に収録されている『メモパツアー』では、過去のライブを再現するパートが設けられるなど、南條愛乃の歌手としてのキャリアをステージ上で表現。さらに新曲も、ライブから着想を得て制作されている。

 南條愛乃の中で、どのようにしてライブが大切な場所となったのか。今作の制作プロセスをはじめ、作詞やライブ、ファンとの向き合い方に対する変化、そしてデビュー当時から貫き続けている音楽に対する思いなど、心ゆくまでたっぷりと語ってもらった。(編集部)

■メモパツアーを音源だけでも残したいなと

ーー今回のアルバム発売がアナウンスされたとき、まずCD5枚組という事実に驚きまして。

南條愛乃(以下、南條):確かに、あんまりないですものね(笑)。これは去年、『THE MEMORIES APARTMENT』という2種類のベストアルバムを発表して、それらを携えたツアー(※2018年9~10月に4会場5公演実施)を行なったんですけど、公演ごとに日替わりゾーンを用意していて。過去のライブツアーを追体験できるというコンセプトだったんですけど、さすがに全部を映像に残すことは不可能なので、音源だけでも残したいなと。過去のライブツアーも含めて全公演参加してくれた方もいれば、残念ながらあの公演は参加できなかったという方もいらっしゃると思います。でも、このメモパツアーをカタチにすることで、私を応援してくださる全ての人にその思い出を共有化して欲しいなと考えていたので、ツアー前から全公演音源は残しましょうという話で進んでいたんです。

ーーそもそもこのツアーで過去のライブを追体験できる日替わりゾーンを設けようと思ったきっかけは?

南條:ベスト盤を引っさげたツアーでは既存曲をやることになるので、今までのライブとどう差別化を図ればいいのか悩んでいたところ、だったらライブでは過去の公演の追体験を日替わりでできたら面白いんじゃないか? と。あとは、ベスト盤として曲を振り返るだけでなくて過去のライブも振り返るという構成にしたら面白いかなと思ったのがきっかけでした。ただ、まともにやったら曲数的に大変なことになるので、最初はちょっと怖くて言い出せなかったんですけど、ツアーコンセプトを考えているときにプロデューサーがそれに近いことをポロっと言って。「えっ、じゃあ過去の公演を思い出すようなセトリを日替わりとして、大幅に変えてやってもいいんですか?」「バンドがいいって言えばいいんじゃない?」というやりとりがあったんです(笑)。

ーー最終的にはバンドさんですものね(笑)。

南條:はい(笑)。なので、ライブとしてもこの5年間を振り返れて、5年間やり残したことがないみたいな内容にできてよかったです。でも、ツアーの音源化に関しては今年に入ってから、一回ボツになりかけたんですよ(笑)。

ーーえっ、どうしてですか?

南條:「これだけのボリューム、一体何枚組になるんだ? その中からブラッシュアップして、曲数を絞るのではダメなのか?」という話を、さすがにプロデューサーにされて。いろいろ悩みましたが、結局「当初の予定どおり残したほうがいいと思う」という結論に至ってこの枚数になりました。ただ、CDに1公演まるまる入れることは無理なので、10曲前後にMCを加えたくらいのボリュームで作業を進めていきました。

■「曲をお届けしたい」意識が今は強まっている

ーーこういうライブCDをこのタイミングに発表するというのは、南條愛乃というソロアーティストがここまでちゃんとライブと向き合って音楽活動をしているってことを証明でもあるのかなと。

南條:いやあ、そんな大層なことは言えないんですけど(笑)。音源は音源としてひとつ完成形なんですけど、ライブをやっていくごとにバンドさんの演奏や自分の歌い方によって、CDとはまた違った世界観や違った良さが出てきている面も感じていて。私は今までライブ音源を発表したことがなかったので、だったらベスト盤を出したあとにそれをお届けするのもありなのかなと思ったんです。なので、ライブで披露しているバンドさんの演奏込みの音をお届けしたいっていう意味合いのほうが強いですね。CDを聴けば当時のことを思い出したり、逆に今では歌えない歌い方をしていたりするので、それはそれで好きなんですけど、例えば「believe in myself」(※2015年7月発売の1stフルアルバム『東京 1/3650』収録曲)だったらCDよりももっと力強くなっている今の歌も聴いてほしいなとか、お客さんとの掛け合い込みのバージョンも聴いてほしいなとか、そういう曲として成長している部分もあるので、それを今回のアルバムに残せたらいいなっていう気持ちでした。

ーーCDで一度完成したものが、ライブを通して別の形に成長していくような。

南條:そうですね。でも実は私、もともとライブが苦手で、できればやりたくなかったんですよ(苦笑)。初期の頃はずっとスタジオで歌っていたいというか、人前で歌うのが嫌だったんですけど、それがソロをやっていく中でどんどん気持ち的にも変わってきて。

ーーどういう理由で変わっていったんでしょう?

南條:初期の頃はソロとしての曲の世界観とか表現したいものはあるんですけど、歌やライブに関して自分に自信があるわけではなかったので、作りたい意思はあるのに披露したい欲があまりなくて。作って終わりにしたかったんでしょうね。だから、すべてに対して保身的で、「ライブで失敗したら、次のシングルを出させてもらえないかも」と怯えたり(笑)。ソロの曲は大好きなのに、お客さんもみんな温かくて優しい人たちなのに、その人たちの前で歌ってもずっと緊張で胃が痛いままだったり、とにかく失敗してはいけない、うまくやらないといけないという、来てくれる方のためというよりも自分のためのライブだったんです。でも、それが回数を重ねていくうちに、ソロでの自分のあり方にもだんだん慣れてきたというか。自然体でいていいんだっていうことが実感として持ててきたんですね。あとは、お客さんたちもライブのたびに本当に楽しそうに聴いてくれたり、終わったあとも「来てよかったです」という声を届けてくれたりして。皆さん時間もお金も作って来てくれるわけじゃないですか。その人たちを本当に満たされた気持ちで帰してあげたいという気持ちにだんだん変化していったときから、ライブがどんどん楽しくなり始めたんです。

ーーそもそも南條さん、もの作り自体が好きな方なんですよね。

南條:そうなんです。もともと絵を描くのが好きで、脳内にあるものをアウトプットすることが好きなんですよね。

ーーお話を聞いて思ったんですが、南條さんにとってライブというものがいろんな人と思いを共有しながら何かを作っていく場にシフトしていったのも大きかったのかなと。

南條:確かに、表現の一部に変わっていったのかもしれないですね。最初の頃は全部自分でやらなきゃと思っていたところがあったのが、だんだんステージのことはステージ専門の人に任せようとか、自分の意見とか提案は伝えるけど、あとは餅は餅屋でやってもらおう、と。そうやって任せたい部分も任せられる部分も増えてきたことで、次は「自分をどう見せよう」という悩みも生まれてきて。レコーディングだったら歌のことだけを考えていればいいじゃないですか。でも、ライブ会場で歌うことでCDを通して伝えるのとはまた違った……バンドさんの音があったり周りにお客さんがいたりすることで、その日しか感じられないものもあるのかなと思うと、「曲をお届けしたい」という意識が今は強まっていて。今日はどんなふうに表現できるかなとか、そういうことが個人的には楽しくなっている気がします。

■変に背伸びした言葉を使わないのが日常っぽい

ーー曲をどう効果的に届けるかという点では、例えばそれがライブの衣装や演出であったり、バンドとのちょっとしたアレンジの変化だったり、そういうところに南條さんのアイデアも含まれているわけですよね。

南條:そうですね。1stライブ(※2015年9月、大阪&東京で開催した『Yoshino Nanjo 1st LIVE TOKYO 1/3650 ミンナとつながる365日×???』)からだったかな、ステージのことについて案を出させてもらうようになって。でも、それも最初は伝えたいイメージはあるけどどこまで言っていいのかわからなくて、遠慮気味だったんです。自分が違うと思ってもプロが作ってきたものに対して「違う」と言う勇気がなくて、飲み込んでしまってモヤモヤしたものが残ったりとか。でも、それが「違う」と言っていいし、そうすることでどんどんお互いの差を埋めて最終的にいいものにできたら、それがチームとしても一番うれしいことだし、そういう作業も楽しくなってきたのかもしれないですね。

ーーこれは今回の新曲の歌詞にも共通するものかもしれませんが、人とのつながり……内側のスタッフさんや外側のファンの人たちとのつながりで生まれるもの、そのつながりをより大切に考えるようになったことで表現が少しずつ変化していったところもあるのかなと。

南條:確かに。コンセプト的にもそうなんですけど、1stアルバム『東京 1/3650』は自分の過去10年間を“夢を追いかけている人”に見立てて切り出したものだったので、ある意味すごく閉鎖的だし、人との関わりもほぼない。でも、そこから考えるとどんどん広がっているというか、開けていっている気がしますね。あとは、特定の誰かが曲中の登場人物として出てきたり……それはファンの人を誰かに置き換えた擬人化像だったりもするんですけど、日常の空気感を歌いたいというのはずっと変わらない中、やっぱりそこにはどうしても誰かが出てくる。うれしいとか悲しいとか怒りとかって誰かがいて生まれるものだし、そういうのも書けるようになってきたと思うんです。そもそも私、20代のときは夢見がちな書き方だったというか(笑)。もうちょっとふんわりと抽象的に書いたり、あんまり現実味がない言葉で書いたりもしていたんですけど、そこからどんどん現実に近い、ある意味生々しい表現の仕方もできるようになってきたのかな。今回のオリジナルCDだと3曲目の「and I」なんて生活感まで見えそうな、本当にリアルな感じですしね。

ーー確かにそうですね。僕は南條さんの書く歌詞を読んでいつも感じるんですが、日常的でナチュラルな感じが手紙に似ているなと。だから世代を問わずにスッと入ってくる言葉が多いんじゃないかと思うんです。

南條:それはうれしいですね。私、あんまり語彙がないというか言葉を知らないので(笑)。でも、日常会話って別に難しい言葉を知らなくても、人とのコミュニケーションは取れるじゃないですか。それってたぶん、私が書こうとしている日常的な歌詞にも言えるんじゃないかと思って。自分が知っている言葉や言い回しだけでも、意味や言い方を変えずにアプローチを変えたりっていうだけでも、たぶん意思や意味は伝わると思うので、そういう変に背伸びした言葉を使わないのが日常っぽくていいかな、わかりやすくていいかなっていう気がしています。

■歌詞の説明したほうが曲を受け取りやすくなる

ーーCDにはMCも残しています。そこで次に披露する楽曲の歌詞についての説明が含まれていたりもします。

南條:歌詞はもちろん聴く人それぞれの解釈で全然構いませんし、むしろそれが一番いい形だとは思うんですけど、特に自分が作詞したものにはエピソードがあったりするので、「実はこういう意味があったんだよ」っていうことを伝えてから聴いてもらうとまた違った見え方があるかもしれないと思うんです。「7月25日」(※『東京 1/3650』収録曲)という曲があるんですけど、実はこれは愛犬が死んだ次の日を歌った曲で。悲しい曲にしたくなかったので、祝福とかポジティブな言葉を使っているんですけど、パッと聴くと「結婚ソングかな?」と当時思っているお客さんもいたみたいなんです。それで「結婚式で流してもいいですか?」という声をいただきまして(苦笑)。

ーーご本人からしたら「やめたほうがいいんじゃないですか?」と(笑)。

南條:それはちょっと……みたいな(苦笑)。ストーリーを読むのが好きな方は歌詞を読んで曲の世界を楽しんでくれたりしますけど、そこまで歌詞に注目しない方も中にはいるので、そういう方にはライブのMCでとっかかりを作ってから歌ったほうが、言葉にも耳を傾けてもらえるんじゃないかなと。今回のアルバムだと大阪公演のCD(※LIVE CD3【岸和田市立浪切ホール 2018.10.8】)に「螺旋の春」という曲が入っていて、これは私ではなく橋本由香利さんが書いてくださったんですけど、歌詞をいただいたときに「この歌詞の意味は」という説明をテキストで送ってくれたんです。

ーーそこにはどういう言葉が載っていたんですか?

南條:「毎年同じところをぐるぐる回ってしまっていて、自分は成長できていないんじゃないか? と思うときもあるけど、それは見方を変えると螺旋階段のように実は上に登っているかもしれない。そういう生き方ができたら素敵だと思う」というメッセージが、私にはすごく目から鱗で。確かに私も毎年思い悩んだりすることや自分の成長が見えなくて悶々としたりすることもあるけど、実は螺旋階段の幅が狭くてもちょっとずつでも上がっていけたんだとしたらうれしいし、今後の人生的にもエールになる曲だなと、そのテキストをもらったときに感じたので、たぶんこれは説明したほうが皆さんも曲を受け取りやすくなると思ったんです。そうやって説明することで1曲1曲に対する皆さんの思い入れも変わったりするでしょうし、その曲自体を楽しんでもらえる今の環境というのはすごくありがたいです。

■ターニングポイントだった「ゼロイチキセキ」と『N』ツアー

ーー先ほど「初期はライブが苦手だった」という話がありましたが、その意識が変化していく過程で歌詞のアプローチや向き合い方にも変化はありましたか?

南條:向き合い方にもっとも変化があったのは「ゼロイチキセキ」(※2016年5月発売の5thシングル)の歌詞を書いたときですね。ソロでタイアップ曲の歌詞を書いたのは「ゼロイチキセキ」が初めてで。ネトゲがテーマになっている作品(※テレビアニメ『ネトゲの嫁は女の子じゃないと思った?』)だったんですけど、当時私もすごいネトゲにハマっていて、自分が好きなものだから書き上げたいという気持ちも強かったんです。

 でも、そこで初めて「いつもどおりの書き方をしてもOKが出ないんじゃないか? タイアップ元の作品にも失礼だな」と思って、急にレベルアップしないかなって気持ちで改めていろんな方の歌詞を読み漁ってみたりしたんですけど、それで急に自分の書き方が変わるわけもなく(笑)。それを経て「自分らしく、でも今までとちょっと違う書き方ってなんだろう?」と考えて書いた歌詞が「ゼロイチキセキ」でした。今までの書き方だったらたぶん文節をここで収めているなってところもはみ出して書いているし、サビの〈ゼロとイチのセカイで〉って始まり方も普段だったらしていないような書き方をしているし。ちょっと自分の中でチャレンジするきっかけをもらえた曲かなって気がします。

ーーなるほど。

南條:ライブでいうと、『Nのハコ』(※2016年7月発売の2ndフルアルバム)を引っさげた『N』ツアー(※2016年9月に全国5都市で開催の『南條愛乃 LIVE TOUR 2016 “N”』)がターニングポイントだったと思います。実はこのときのツアーは初日の名古屋から、すごくモヤモヤとした気持ちで始まっていて。『東京1/3650』のときは自分的にいいアルバムができたなと思って、だんだんソロ活動が楽しくなり始めていたんですけど、それと同時に声優もやっているので出演した作品やキャラクターから受ける印象がソロの活動と逆転してしまったときがあったんです。ソロとしてステージに立っているのに、本当に南條愛乃としてステージに立っていていいのかわからないというか、みんなキャラクターを求めて来てくれているんじゃないかとステージに立つのが怖くなっていた時期に始まったのが『N』ツアーだったんです。

ーーそうだったんですね。

南條:『Nのハコ』というアルバム自体もある意味そこがテーマになって作っていたアルバムではあったんですが、ツアーファイナルに進むにつれてわかったのが……私もそうやって葛藤していたけど、ライブ会場に集まってくれたお客さんのほぼ全員はキャラクターじゃなくて南條愛乃としての歌を聴きに来てくれていて。でも、私と同じようにどう接していいかわからないというか、私もお客さんも両方で探り合っていたみたいな感じだったんです。葛藤していたのは私だけじゃなかったんだなっていうのがわかったときに、私もお客さんも含めて“南條愛乃ソロ”という土壌がまだ発展途中で、みんなでいくらでも作っていけるものなんだなと気づいて、「ここは帰る場所だし自然体でいていい場所なんだ、より大事にしたいし守っていきたい」と強く思いました。そう気づけた頃からだんだんとライブ自体に対しても、会場に来てくれる方に何かを還元していきたいって気持ちに変わっていった気がします。

ーーだからなんでしょうか、そのあとの3rdフルアルバム『サントロワ∴』(※2017年7月発売)を携えた『・R・i・n・g・』ツアー(※2017年9~11月に全国6都市7公演開催の『Yoshino Nanjo Live Tour 2017 <・R・i・n・g・>』)の映像を観たときに、それ以前とちょっと変わった印象を受けたんですよ。

南條:そうかもしれませんね。『・R・i・n・g・』ツアーは本当にお客さんにお返ししたいという気持ちで、思いを共有できる場所作りを改めてやりたいと思ったツアーでしたし。

ーーとなると、『THE MEMORIES APARTMENT』のツアーでは会場ごとに当時のツアーを凝縮したことをやりながら、そういう当時の思い出も振り返りつつ公演に臨んだと。

南條:はい。実は市川公演初日のセトリと最終日の静岡公演のセトリってほぼ一緒なんですけど、初日は「これからツアーが始まるぜ。ベストのセトリを聴いてくれ!」っていうテンション感だったのに、2日目から『東京 1/3650』に立ち返り、『N』ツアーでは実はこういう気持ちでやっていたんだというのを打ち明け(苦笑)。約1カ月に5年分を凝縮した記憶を持って最後の静岡公演に臨んだので、もう「ベスト・オブ・ベスト!」みたいな(笑)。なので、初日の勢いとはまた違ったものが出せたんじゃないかなって気がします。

■色から受ける印象を歌詞にしたらライブ由来の新曲になるかな?

ーー5枚組CDのうち1枚は、新曲5曲を含むスタジオ作品となっています。

南條:このツアー作品に「新曲を付けたい」と言われたのが今年に入ってからで、結構急な提案だったんですよ。私の中では次に出すものは「『THE MEMORIES APARTMENT』のライブ作品」と気持ちもコンセプトも固まってしまっていたので、今から新曲を作りたいという気持ちにはまったくならなかったんです。書きたいテーマはあったんですけど、それを今出す気持ちにはなれないし。でも、どうせ新曲を作るならライブに付随したものにしたいという気持ちもあって、どうしたら新曲と1年前のライブがつながるのかなと考えたんです。

ーーそのヒントが色だった?

南條:はい。ライブって曲によっていろんな感情になるじゃないですか。熱い曲を聴いたら熱い気持ちになるし、悲しい曲を聴いたら悲しい気持ちになるし。そこから、熱い思いは赤とか悲しい気持ちは青とか感情を一度色に落とし変えて、色から受ける印象を歌詞にしたらライブ由来の新曲になるかな? というところでこの新曲5曲が生まれました。

ーーそういえば去年のライブも、色が関連づいた演出はいくつか用意されていましたね。

南條:色って私にとっては切っても切り離せなくて。昔、絵を描くのが趣味だったりもしたので、そのせいもあるのかなって気もします。でも、昔から歌詞を書くにしても色って結構出てきていたので、あんまり私的には特別な発想ではなかったんですよ。

ーー興味深いのが、ソロデビュー作となったミニアルバム『カタルモア』(※2012年12月発売)の1曲目が「blue」と、すでに色と関連付いているんですよ。あの作品は6曲入りで、今回のオリジナルCDも同じ6曲入り。偶然だとは思いますが、5周年に関わる一連の活動を経て、ちょっと一周した感があるのかなと。

南條:5周年を経てベストアルバムを経て、ソロとしての土台がこの5、6年である程度固まって、ここから新しいスタートが切れるみたいな気持ちでいたので、そのタイミングにまたミニアルバムっていうのもなんだか面白い気がしますね。確かに「blue」と言われてハッとしました。怖いな(笑)。今やっているツアー(※取材時。2019年5~6月に実施された『南條愛乃 Acoustic Live Tour Vol.1 17/47 ~わたしから会いにいきます!~』)で新曲を毎回1曲披露しているんですけど、「青の曲」のことをプロンプターに「blue」と書いていて、一度そのまま「blue」と読んじゃったら「あ、『blue』って曲あるな」とすぐに「青です」と言い直したんです(笑)。そこでは気づかなかったんですけど、確かにまた巡ってきた感じがありますね。

ーー改めて、今回は5つの色(ピンク、青、赤、緑、黄)から受ける印象をモチーフに作詞していったわけですね。

南條:例えばピンクっていう色が導き出すのは“かわいい”だと思うんですね。今回の楽曲はすべてコンペティションで選んだんですけど、青だったら“同調”とか“シンクロ”というイメージからバラードがいいとか、ピンクだったら“かわいい”からそういう曲調がいいみたいにオーダーを出しました。選考する際には作曲家さん名は伏せられた状態だったんですけど、何曲か上がってきた中からピンときたものを選んで、そこからどういう歌詞にしようかなという作り方をしていきました。

■ライブと日常生活は切っても切り離せない関係

ーーすべてご自身の作詞というのは、『東京 1/3650』での書き下ろし新曲以来です。

南條:『東京 1/3650』みたいなことをまたやりたいとは思っていたんですけど、今回はツアーを回りながらの制作だったので、果たしてやり遂げられるのか……と不安でした(苦笑)。作家さんにお願いしたほうがいいんじゃないかとも考えたんですけど、ライブ由来のコンセプトで作っていて、ライブで感じた感情を色に置き換えて、そこから再構築するという作業は南條ソロにおいては自分が書いたほうがいいんじゃないかなと。とはいっても、スケジュール的にはかなりギリギリで、本当に訳がわからなくなりましたね。「繋がりの歌」なんて歌を録り終えて数日後にラフを聴き返したら「私、こんな歌詞書いた?」と思いましたから(笑)。

ーーそんなことが(笑)。今回のオリジナルCDには「君のとなり 私の場所」を含めた6曲が収録されていますが、どの曲も歌詞の中に出てくる“きみ”の対象はそれぞれ異なると思います。ですが、全体を通して聴いたときに“きみ”という相手に対して「そばにいる、見守っていたい」という相手とのつながりをすごく大切にしながら前に進んでいくという姿勢が一貫しているなと。「and I」に〈きみとともに生きてる〉という歌詞がありますけど、そこを改めて提示しているというか強く歌った曲が揃った印象があります。

南條:確かにそうですね。ずっと根底にあるのはやっぱりお客さんの存在で、お客さんのことをそのまま歌っている曲(「繋がりの歌」)もあれば、「お客さんの中にはこういうシチュエーションに当てはまって、こういう空気感を体験したことがある人がいるかな」とか「こういう感情を持ってほしいな」という曲もあるし。例えば「and I」は登場人物が2人で、夜更けの時間帯に街明かりだけで部屋の中、静かに話しているというシチュエーションをイメージしたんですけど、それも生きているということがひとつテーマにもなっているんです。近くに誰か大事な人がいてくれる安心感ってあるじゃないですか。私はよく、曲を聴いたときにその人その人にとっての大切な誰かの顔が浮かんでくれたらいいなとか、誰かに対して自分がこうしたいなと思う瞬間があったりするかなとか思うんですけど、特に最近はどの曲を書いていても「みんなどんな感じで聴いてくれているんだろう?」という思いがずっと根底にある気がします。だから、人の存在を当たり前に書けるようになってきたのかもしれないですね。

ーーなるほど。

南條:でも、そういうことも昔はテーマとして書こうと思わなければ、なかなか……「Dear × Dear」(※2014年発売の2ndシングル『あなたの愛した世界』およびアルバム『東京 1/3650』収録)みたいな初期の曲は、たまたま友達と話していて「こういう空気感いいな」と思ったところから作ったんですけど、それもテーマを決めたからできた曲で。わりと自分が主体になっている曲が多いんですけど、最近は自分というより相手の存在が見えやすい曲が、もしかしたら多いかもしれないですね。

ーー言葉や思いを聴く人にちゃんと伝え届けることの意味をより理解したからこそ、こういう表現の仕方が強まっていったところもあるのかなと。

南條:韻を踏んだりしてよりよく聞こえるようにする手法もありますけど、私にはそういうことができなくて。それよりも1曲を通しての気持ちの流れだったり、曲を聴いてくれたその5分間で人がどれだけ心を動かされるか、そういう歌詞を作りたいなって気持ちが強いのかもしれないですね。あとは、声優をやっているのもあって言葉は大事にしたいなと思っていて。普段は言葉遣いが悪いんですけど(笑)、やっぱり書き文字にすると言葉ってより強く見えるじゃないですか。だから、書き文字にしたときに汚い言葉を使いたくないというのが昔からあって。でも、変な言い方かもしれないですけど、結局は絵を描いている感覚にすごく近いのかもしれないですね。綺麗な色を使いたいとか綺麗に描きたいとか、細かいところを最後に描き込みたいとか。ちょっと、そんなふうにも思いました。

ーーそういう作品集に『LIVE A LIFE』というタイトルを付いたのもすごく象徴的ですね。

南條:やっぱりライブ作品というのが念頭にあったので、ライブという言葉は使いたいなと思っていて。『LIVE A LIFE』という語感もいいし、今の自分にはライブと日常生活は切っても切り離せない関係になっているし。ジャケット写真もそうなんですけど、日常生活を象徴する部屋のシチュエーションにライブのスポットライトを投影して撮影したので、日常とライブが重なり合っているみたいな、象徴的なジャケットになったと思っています。

■ファンの皆さんと一緒にもの作りをしている感覚

ーー現在(※取材時)行っているアコースティックツアーは47都道府県を数回に分けて回るというものですが、第1弾の17本が終わったあとも続いていくわけですよね?

南條:全部回るまでにどれだけかかるかは話し合い中なんですけど、全都道府県に行こうと決めてしまいましたので(笑)。「全国の応援してくれる人たちに会いに行ったら?」と案をくれたのはプロデューサーなんですけど、「そんな体力、自分にあるかな?」と不安に感じていたら「何回かに分けてもいいし。ソロのコンセプト的にはすごくハマると思うよ」と言われてすごく納得したんです。それに、私のソロライブツアーは大きめのところからはじめさせてもらったので、今こうして後ろの人まで顔が見えるライブハウスの距離感で生楽器の音だけでお届けするというのは、すごく“人対人”の交流をしている感じが強くて。それをソロデビューから7年経った今やれているのは大きな意味がある気がするし、今後の活動にも絶対にプラスに作用することしかないと思います。

ーーでも、これがソロを始めた頃だったら……。

南條:絶対にできてないですよ!(笑)。それが5周年を経た今というのが、ある意味ベストタイミングなんだなという気がしています。

ーーそう考えると、ここまでの一つひとつの活動すべてがつながっているんですね。

南條:そうですね。『Nのハコ』も言ったら根本にあるのはネガティブな気持ちなので、作品にするのはちょっと躊躇するじゃないですか。でも、それをあえて隠さず作品に昇華することで、自分の中でも決着がつくかなと思いますし。ある意味マイペースというかわがままというか、よく言えば自然体で無理をせずにやってきているからこそ、いい具合につながっているのかもしれないです。これが無理をしていたら、どこかでこんがらがってしまう部分も出てきてしまうかもしれない。でも、今も楽しくソロの楽曲が歌えているというのは、今までやってきたことの運び方や気持ちの変化というのが間違いではなかったことを証明できているのかな。

ーー南條さんにとっては、この順序が最適だったと。

南條:はい。昔からよく思うことなんですが、その人らしいというのが一番強いなと。すごく変なことをしていてもそれがその人にとって一番輝いて見えるのなら、それが最強じゃないですか。なので、今後もなるべく自分の気持ちに嘘をつかないでもの作りをしていけたらいいなと思います。もちろん、それがひとりよがりにならないで、応援してくれる人ありきの土台の上で、ある意味ファンの皆さんと一緒にもの作りをしているような感覚でこれからもやっていきたいですね。(取材・文=西廣智一)

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