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『その女、ジルバ』はなぜ心に刺さるのか “普通”の暮らしや悩みを描いた40代女性のリアル

リアルサウンド

21/2/27(土) 6:00

 池脇千鶴が9年ぶりに連続ドラマ主演を務めている『その女、ジルバ』(東海テレビ・フジテレビ系)が、女性たちの高い支持を得ている。

 本作は有間しのぶによる同名コミックを原作としたもの。主人公・新(池脇千鶴)はアパレルで販売から「姥捨」と言われる倉庫勤務に異動させられ、沈んだ気分で40歳の誕生日を迎える。しかし、人生終わりモードになっていたところ、「ホステス求ム! 40才以上」と書かれた超熟女バー「BAR OLD JACK&ROSE」の求人に目を留め、思い切って飛び込んだところから、新たな人生がひらけていくという物語だ。

 池脇が演じるシジュー女性は、生々しくリアルで、「ドキュメンタリーみたい」という声が出ていたほど。しかし、そのリアリティもさることながら、何よりこの作品が多くの女性の心に刺さるのは、様々なシジュー女性、それも、これまでドラマではあまり描かれることのなかった“普通の人々”を描いている点ではないかと思う。

近年、登場が少なかった“シジュー女性”

 思えば、ドラマに出てくるシジューの女性たちは、昔は「主人公のお母さん」が主流だった気がする。ところが、近年ではシジュー女がそもそもあまり登場していない。

 女性の恋愛モノがメインとなったTBS火曜枠では、上白石萌音主演の『恋はつづくよどこまでも』のヒットを機に、30代の多部未華子を除き、松岡茉優、森七菜、上白石萌音の再登板と、20代女性を主人公としてきた。「お母さん」ポジションは、草刈民代(50代)、石野真子(60代)、南果歩(50代)、宮崎美子(60代)だ。

 TBS金曜ドラマ枠は、木村佳乃(40代)、黒木華(当時は29歳)、高畑充希(20代)を除き、長瀬智也、山田涼介、綾野剛&星野源、伊藤英明、福士蒼汰、山下智久と、男性主演が多い。

 フジテレビの「月9」も、現在放送中の『監察医 朝顔』の上野樹里や『コンフィデンスマンJP』(2018年)の長澤まさみなど、30代女性の主演作を除き、織田裕二、沢村一樹、ディーン・フジオカ、窪田正孝、錦戸亮など、男性主演が多くなっている。フジテレビ「木曜劇場」では、大倉忠義、亀梨和也などの男性主演のほか、深田恭子、石原さとみ、松下奈緒などの30代女優と、新木優子、二階堂ふみなどの20代女優が主演している。

 日テレの土曜ドラマの場合、『トップナイフ-天才脳外科医の条件-』の天海祐希・50代、『35歳の少女』の柴咲コウ・30代を除いて、男性主演だらけだ。

 また、日テレ水曜ドラマは、波瑠(20代)、浜辺美波&横浜流星(20代男女)、吉高由里子(30代)、高畑充希(20代)、杏(30代)、中条あやみ(20代)&水川あさみ(30代)、北川景子(30代)と、現在放送中の『ウチの娘は、彼氏が出来ない!!』主演の菅野美穂(40代)と『ハケンの品格』第2シリーズの篠原涼子(40代)を除いて、40代はいない。

 テレ朝木曜ドラマといえば、米倉涼子(第1期スタート時は30代)主演の『ドクターX~外科医・大門未知子~』シリーズや天海祐希(50代)主演の『緊急取調室』などのシリーズモノがあるほか、波瑠(20代)、高畑充希、杉咲花(ともに20代)と男性主演の作品が並ぶ。

 改めて思う。シジュー女性はどこに行ったんだろうか。

 おそらく現実の生活で、40代女優は結婚・出産・子育てにより、露出を減らしている時期にはあるかもしれない。

 たとえば、松嶋菜々子、篠原涼子、菅野美穂など、結婚・出産を機に露出をコントロールしている女優が多数いるほか、米倉涼子や吉瀬美智子など、バリバリ働く女性像としてお仕事モノなどで多数出演している女優もいる。内田有紀のように主人公の姉や先輩ポジションもあるし、仲間由紀恵や井川遥、長谷川京子など、ミステリアス要員のような活躍の仕方もある。

 ドラマのメイン視聴者層の高齢化もあって、主人公やヒロインポジションに30代が増え、その母親は50代~60代が多く、意外に“シジュー女”はメインどころでは登場頻度そのものが少ない気がする。

 そもそもドラマでは必ずしもリアリティを追求する必要はないし、現実に即した世界を描く必要もない。むしろ現実から大きく離れたエンタメを見せてほしいとも思う。しかし、今は現実の日常と地続きの世界を描く作品が多いなか、わずかに登場するシジュー女といえば、結婚せずに専門職でバリバリに仕事に生きているか、幸せな家庭があるものの、不倫に走るかの2択にされがちだ。

 「F2層」(35歳~49歳)はおそらくドラマ視聴者のメイン層だというのに、ドラマの中に登場するシジュー女は、いわゆる専門職の「バリキャリ」か、不倫しているか、良いお母さんをしているか――リアルにみんながそうだと思うなよ? と思っていた。そうでなければ職場のお局担当か、喫茶店などのママか、江口のりこが数々のドラマで重用されているように“主人公の周りで個性を放つ”道が求められがちである。

シジューにとって「普通」の暮らしや悩みを描く

 そんな中、『その女、ジルバ』には珍しくごく普通のシジュー女たちが登場する「姥捨て山」と言われる倉庫勤務に従事するのは、様々な経歴を持つ様々な「普通の人」たちだ。

 新はアパレルで「販売」から「倉庫」に異動させられ、よりによって自分を捨てた男(山崎樹範)に職場で再会してしまい、「老けたな」と言われたり、職場の年下男性に「おばさん」と言われたりする。しかし、シジューの重みを背負いつつ、俯いて生きていた新が「BAR OLD JACK&ROSE」では、「お嬢ちゃん、うちはロリコンクラブじゃねえんだ」と言われ、お客さんたちには「ギャル」「小娘」「ピチピチ」扱いされる。この店では40歳なんて「まだまだ若すぎる」くらいなのだ。

 さらに、前向きになり、明るく可愛くなった新を「ホストクラブ通いではないか」と心配するところから、職場の上司と同僚だったグループリーダー・浜田(江口のりこ)や、村木(真飛聖)との交流が始まる。

 村木は母一人子一人で、母の期待を背負って一生懸命勉強してきた国立大卒のエリートだ。しかし、倉庫勤務になり、不満を抱いていたところ、新や浜田との交流を通して前向きになったことで、自分から “卒業”(退社)を決める。そして、実家に戻り、母と一緒に暮らすことで、新たな道を歩んでいくのだった。

 一方、出向社員たちが「姥捨て」と厭う倉庫に、正社員として入社した浜田の場合、出向社員たちがすぐやめていくことに不満を抱いていた。実は親がなく、ヤンキー時代もあった浜田にとって、入社できた倉庫勤務のこの場所が、この仕事が、誇りだったのだ。

 様々な背景を持つシジュー女たちが「BAR OLD JACK&ROSE」と出会い、超熟女である人生の先輩たちの話を聞いたり、励まされたりしながら、前を向く力を得る。そして、互いにテレ臭そうにしながら、「〇〇ちゃん」と下の名前で呼び合うような友情を育む姿は、なんだかほほえましい。

 このドラマを観ていると、しみじみ思うのは、「友達」の大切さ。学生時代からの友人などは、しばらく会わなくてもすぐにつながる関係性が構築されている場合が多いが、大人になってから、シジューになってからの友達は貴重で、だからこそ良いもんだなと、しみじみ感じてしまう。

 もちろんイキイキ楽しく生きている素敵なシジュー女性もたくさんいる。しかし、実際のシジュー女性には、家庭もなければ、不倫もしていない、特別なスキルもお金もないが、日々を粛々と真面目に一生懸命に生きているという人が多数いるはずだ。何もない、何者でもない状態で、シジューになり、自分では見えない背中などに肉がついてきたり、体のあちこちに不可逆な体調不良や病気を抱えていたり、それでも変わらず休まず日々働き続けなければいけなかったりするのが、多くのシジューの女性の現実だ。

 交換も再生もできない体の様々な部位の不調や病気を抱えながら、「人生100年時代」の折り返し地点にもたどり着けていないという事実にめまいがするし、将来に不安を抱えたまま、親の老いや病気、介護などと向き合うシジューライフ。そんなリアルに生きるシジュー女性にとって、様々な傷を負い、苦しみを知りつつもキラキラ輝くパワフルな「先輩」たちから未来への希望や元気をもらえる場所は、かけがえのないパワースポットだ。正直、「BAR OLD JACK&ROSE」が自分の近くにもあれば……と思うシジュー女性は多いはず。

 これまでドラマでは決して描かれてこなかったシジューの「普通の人々」の「普通の暮らし」や「普通の悩みや葛藤」を描いた『その女、ジルバ』。この作品の評判を機に、今後、こうしたシジュー女性のリアルを描くドラマは増えていきそうな気がする。

■田幸和歌子
出版社、広告制作会社を経てフリーランスのライターに。主な著書に『KinKiKids おわりなき道』『Hey!Say!JUMP 9つのトビラが開くとき』(ともにアールズ出版)、『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)などがある。

■放送情報
『その女、ジルバ』
東海テレビ・フジテレビ系にて、毎週土曜23:40~24:35放送【全10回(予定)】
出演:池脇千鶴、江口のりこ、真飛聖、山崎樹範、中尾ミエ、久本雅美、草村礼子、中田喜子、品川徹、草笛光子
企画:市野直親(東海テレビ)
原作:『その女、 ジルバ』(有間しのぶ、 小学館『ビッグコミックス』刊)
脚本:吉田紀子
音楽:吉川慶、HAL
監督:村上牧人、根本和政、室井岳人
プロデューサー:遠山圭介(東海テレビ)、松本圭右 (東海テレビ)、雫石瑞穂(テレパック)、 黒沢淳(テレパック)
制作:東海テレビ、テレパック
(c)東海テレビ
公式サイト:https://www.tokai-tv.com/jitterbug/

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