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『ONE PIECE』ドレスローザ編には尾田栄一郎のすべてが詰まっている 複雑なストーリーの中にある作家性

リアルサウンド

20/10/5(月) 16:54

 『週刊少年ジャンプ』で連載されている尾田栄一郎の漫画『ONE PIECE』(集英社)は「ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)」をめぐって海賊たちが戦いを繰り広げる大海賊時代を舞台に、海賊王を目指すルフィ率いる麦わらの一味が大冒険を繰り広げる姿を描いた物語である。

 70~80巻にかけて展開されるドレスローザ編は100話を費やした長編エピソード。今回は前半について解説する。

※以下ネタバレあり。

 パンクハザード島での戦いを終えたルフィたちは共に戦った王下七武海のトラファルガー・ローと、海賊同盟を組むことになる。目的は新世界の海を牛耳る「四皇」の一角である「百獣のカイドウ」を倒すこと。

 そのためには、カイドウと繋がりのある王下七武海の一人でドレスローザ国の王であるドンキホーテ・ドフラミンゴをまずは倒さなければならない。ドフラミンゴには武器商人・ジョーカーとしての顔もあり、科学者のシーザー・クラウンが作った人造悪魔の実(SMILE)を使ってカイドウと取引していた。

 パンクハザード島で捕獲したシーザーを人質に、ローはドフラミンゴと交渉。まず彼を七武海から脱退させると同時に、ドレスローザ国王の座を放棄させる。そしてドレスローザの北にある孤島「グリーンビット」で人質交換の約束を交わすのだが、実はこれは囮で、ローの目的はドレスローザ国のどこかにあるSMILE製造工場の破壊だった。

 ドレスローザ国に到着したルフィたちは、グリーンビットに向かうロー、ロビン、ウソップのシーザー引き渡しチーム。船を守るナミ、チョッパー、ブルック、モモの助の、サニー号安全確保チーム。そして、ドレスローザに潜入した、ルフィ、ゾロ、サンジ、フランキーと錦えもんの工場破壊&侍救出チームの三手に別れて行動する。

 ドレスローザは、人間と命を持ったオモチャが共存する「愛と情熱とオモチャの国」。表向きはスペインとイタリアを思わせる賑やかで料理がおいしい国なのだが、実は隠された裏の顔があることが次第にわかってくる。

 その後、ルフィたちは別行動を取るようになり、物語は更に枝分かれしていき、ルフィとフランキーは工場の場所を探るために国の幹部が集まるという「コリーダコロシアム」へと向かう。

 そこは新世界の猛者たちが報酬を求めて戦う闘技場。今回の報酬は命を落としたルフィの義兄・エースの保有していたメラメラの実(悪魔の実は能力者が死ぬと世界のどこかで復活する)だった。ルフィはエースの形見と言えるメラメラの実を手に入れるため、“ルーシー”として戦いに参加する。

 前半部ではコロシアムで戦うルーシー(ルフィ)のバトル・ロワイアルと、ローとドフラミンゴの人質交換をめぐる攻防が描かれるのだが、やがて、ドフラミンゴが支配する“ドレスローザ王国の闇”をめぐって、バラバラだった物語が一つにまとまっていく。

 ドレスローザ編は『ONE PIECE』の中でも複雑な話で、各キャラクターの動向を追っているだけで頭がこんがらがってくるのだが、作者がやりたかったことは明快である。

 ドレスローザ編は『ONE PIECE』の中に詰まっている全ての要素を圧縮した総集編かつ総決算とでも言うような展開となっているのだが、どこか尾田栄一郎自身による作品批評が漫画によって展開されているようにも感じられる。

 そう考えた時に一番面白いのはバトルの見せ方である。トーナメントバトルはジャンプで一番盛り上がる展開で、新キャラが続々と登場して派手な必殺技を使う姿はバトル漫画のセオリーを一応抑えているのだが、作者が見せたいものがバトルの面白さではないことが、読んでいてはっきりとわかる。

 やがて国内の剣闘士たちが、ドフラミンゴに逆らって捕まっている囚人だと明らかになる。囚人たちは100勝すれば開放されると言われているが、簡単には勝つことができず、戦いの中で見せしめのために処刑されてきたのだ。

 一方、街中を歩く生きたオモチャたちが、ドフラミンゴ配下の「ホビホビの実」の能力者・シュガーによって、オモチャに変えられた反逆者たちだったことも次第に明らかになる。この能力のエグい点は、オモチャに変えられた人間の記憶が、恋人や家族といった世界中の人々から消されてしまうこと。同時にオモチャにされた人間は、シュガーの命令に逆らうことができない。

 そんな中、一本足の兵隊のオモチャにされた男・キュロスが他のオモチャたちと反乱を企て、ルフィたち麦わらの一味と、昔からドレスローザで暮らしていたが今は工場でSMILE製造を強いられている小人のトンタッタ族が、共に力を合わせて革命を起こすという怒涛の展開へ繋がっていく。

 明るく楽しいジャンプバトルと、いくらでもグッズ展開が可能な(それこそオモチャやぬいぐるみのような)かわいいキャラクターで読者をひきつけながら、尾田栄一郎が常に描いてきたのは、虐げられた者たちが反旗を翻して戦う姿だ。それがすべて詰まった「ドレスローザ編」は、これぞ『ONE PIECE』という物語である。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

■書籍情報
『ONE PIECE』既刊97巻
著者:尾田栄一郎
出版社:株式会社 集英社
https://one-piece.com/

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