バカで、まっすぐで、お人よしで、情にあつい春田創一（田中圭）の恋路が描かれる土曜ナイトドラマ『おっさんずラブ-in the sky-』（テレビ朝日系）。SNS上では、春田と機長・黒澤武蔵（吉田鋼太郎）、副操縦士・成瀬竜（千葉雄大）、整備士・四宮要（戸次重幸）の、三角関係ならぬ四角関係が「切なすぎる」と話題を呼んでいる。

　なかでも戸次が演じる四宮は、第3話で雨に打たれながら「おれは春田が好きなんだ」と吐露したシーンが話題となり、Twitterで「シノさん」がトレンド入りするほど。四宮は、整備チームのリーダー的存在。仕事にストイックだが、おおらかな性格で、誰にでも好かれるタイプである。緋夏（佐津川愛美）の恋愛相談にのったり、春田や成瀬がトラブルに巻き込まれると彼らを優しくフォローする頼れる兄貴分だ。

【写真】シノさんと春田

　けれど、そんな優しい一面が彼自身を苦しめる。他人の気持ちを汲んでしまう分、四宮は自分の想いを伝えることができない。ドラマ内では、四宮が自分の気持ちを押し殺す姿が何度も映し出される。そして戸次は、そんな他人の幸せを願って身を引く四宮の恋心を苦しげな笑顔で体現する。周りを心配させないように、何事もなかったように振る舞う四宮だが、四宮の秘めた恋心を知っている視聴者からすると、その笑顔はあまりにも苦々しい。

　12月7日に放送された第6話。四宮と“一週間お試し交際”をすることになった春田は、イベントが書かれたカードを1日1枚引いて、二人で実行することに。最終日のカードは「手をつなごう」。四宮は照れくさそうな笑顔を見せ、春田の手に触れるが、笑顔を取り繕っていることに視聴者はすぐ気がついたはずだ。春田には四宮への恋愛感情はない。春田の口からはっきり伝えられたとき、四宮の目から涙がこぼれた。失恋することで、押し殺してきた想いが溢れ出たワンシーンだった。

　しかし、四宮は誠実さを崩さなかった。春田が正直な気持ちを伝えたことに「はっきり言ってくれてありがとな」と答え、四宮のその目は春田の目をまっすぐに捉えていた。取り乱すことなく、涙を拭って笑顔を見せた戸次の演技が、かえって押しつぶされそうな四宮の心を強く感じさせたのだ。

　第6話終盤、成瀬と向き合うことになった四宮。春田を想うばかりで、想われていることに気づかなかった四宮は、成瀬からの告白に戸惑ってしまう。成瀬が「もうあんたとしか（キス）したくない」と伝えたとき、口をかたく結んだ四宮の表情が頭に残る。失恋後、即座に成瀬の想いを受け入れることはないだろう。現時点では、四宮が成瀬の告白をどう受け止めたのか分からない。けれど、成瀬と向き合ったときも決して目をそらさなかった四宮。四宮のブレない人間性を、戸次が真摯に演じることによって、二人の切ないやりとりが際立っていた。

　戸次自身の魅力が、本作のコミカルな演出と繊細な心情描写にマッチしていることにも注目だ。人気演劇ユニット・TEAM NACSの一員である戸次。TEAM NACSが出演するバラエティ番組では、戸次の天真爛漫さが度々話題になる。そんな彼の無邪気さは、四宮が「まずはお試しで一週間」と申し出たコミカルな演出や、春田とのデートシーンで見せた自然体な姿に活かされている。一方、四宮の心情描写には、舞台で見せる情熱的な演技が活かされていた。

　四宮は春田を想い、春田は成瀬を想う。成瀬は四宮の前でだけ自然な笑顔を見せるが、その本心はなかなか掴めない。正直に想いを伝えれば伝えるほど、誰かが切ない想いをするこの関係性は見ていてとてももどかしい。

　次週予告では、四宮が成瀬を突き放すような描写が映し出された。しかしこのシーンもまた、四宮の優しさゆえの行動なのかもしれない。『おっさんずラブ-in the sky-』のビジュアルポスターに「誰かを好きになる資格はないと、自分に言い聞かせて」とある四宮。春田らの恋路も気になるが、想いを胸にしまい続けてきた四宮が幸せになる結末も願いたい。

（片山香帆）