全10回

篠田正浩　僕の映画探検旅行

篠田正浩　僕の映画探検旅行

ある時、なぜあなたは俳優、脚本家、原作者をとっかえひっかえ変えるのかと問われた。─── 映画を創るということは僕にとっては探検旅行なのです。芥川龍之介に『トロッコ』という短編があります。少年が山のなかで見つけたトロッコに乗ったら走り出す、というお話。“トロッコに乗った少年”が自分、そのトロッコが僕の映画なのです。乗った以上、自分の意思にかかわらず、魅せられ、落下する快楽と恐怖が隣り合わせの世界に身をゆだねるしかない。僕にとって映画とは、あらゆる好奇心と不安を、恍惚たるものにしてくれる人と出会える道具であり、映画創りはそんな人を捜し求める探検旅行なのです。─── 映画監督から身を引いて15年。“トロッコに乗った少年”も87歳になりました。このへんで、探検旅行で出会った人たちとの邂逅を追憶してみようと思います。