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三鷹市芸術文化センターで、演劇・落語・映画・狂言公演の企画運営に従事しています

森元 隆樹

(公財)三鷹市スポーツと文化財団 副主幹/演劇企画員

舞台『わたしの星』大阪芸術大学presents 読売テレビプロデュース

本公演の初演は2014年8月、筆者の従事する三鷹市芸術文化センター星のホールであった。その頃、『演劇のワークショップ⇒最終日あたりに発表会』という企画を数多く目にしていて、もちろんそれはそれで十分に意義のあることだし、ひとつひとつの『ワークショップ⇒公演』をしっかりと成功させることは、大変な労力を必要とすることは分かっていたけれど、その時私は、「高校生だけが出演し、スタッフもその一部を高校生が担う、発表会では無い、普通の演劇公演が作れないだろうか」と考え、三鷹市芸術文化センター星のホールで『わが星』『朝がある』など、数々のチャレンジをしてくださっていた作・演出の柴幸男さんや、プロデューサーの宮永琢生さんに相談したところ、ご快諾をいただき、『わが星』の姉妹版としての『わたしの星』は胎動することとなった。 そのうえで、その初演時の準備期間中、私自身が何よりも心配していたのは、「お客さんが集まるかどうか」よりも、「演劇を嫌いになる高校生が出ないかどうか」だった。オーディションで選ばれた高校生CASTの中には事務所に入っている子もいたが、舞台経験が豊富という子はわずかで、中には全くの初舞台という子も数名いたし、STAFFにおいては、プロフェッショナルな作業が求められる舞台の裏側を覗くのは初めてという子ばかりだった。とにかく、この子たちが、千穐楽まで演劇を好きでいてほしい、そして、稽古初日の時点では想像もしなかったくらい演劇のことを好きになっていてほしい、その強い思いで日々稽古を見つめ、微力ながら、支えられる限りのことをしていった。それは、通常の2週間の演劇公演を担う何倍も、何十倍もの労力を要したけれど、あれだけの充実感をもってサポートに徹することが出来た公演は、『わたしの星』をおいて、他には無い。 高校生STAFFの中に1名だけ、顔合わせには参加できたものの、その後、学業や部活との折り合いが付かず全く来られなくなった子がいたのは本当に残念であったが、それ以外のCAST10名と、STAFF5名は、最後まで駆け抜けてくれた。そして千穐楽、舞台上で泣き、打ち上げで泣き、帰り際、ホールの前で大きな声で泣いている彼ら・彼女らを見た時に、自分自身も涙を堪えるのに懸命だったことを覚えている。そしてその後、彼ら・彼女らの何名もが、役者に、STAFFにと、演劇と関わり続ける人生を歩み始めていることを知る度に、本当に微力ながら、演劇の裾野の拡がりに貢献できる企画を、ままごとの皆さんとともに作り上げることができたんだなという思いを、嬉しく噛み締めることができた。 その後『わたしの星』は、CAST・STAFFが変わっても成立することを、そして時代が変わっても、さらにセリフや演出に変化があったとしても、根本的な部分で普遍的な作品であることを柴幸男さん自身が証明する形で、初演から3年後(それは、初演の時の高校生たちが全員卒業していること、すなわち、CAST・STAFFが全員入れ替わることを意味した)の2017年8月、再び星のホールで上演され、有り難いことに、今度は参加した全員が千穐楽まで駆け抜け、皆、生き生きとした視線で頑張ってくれて、初演を超えるお客様を迎えることができた。そしてさらに、2018年春には、台湾の高校生により上演され、成功を収めたという。 今回、大阪の地で上演される『わたしの星』が、参加する高校生にとって充実した夏になることを、そして、初演と再演時のセリフにあった「この夏は永遠。じゃなくてやっぱ一瞬。」という言葉の意味を、誰にも揺るがされることのない、自分の言葉としてしっかりと掴むことのできる夏だったと思える公演になるといいなと思います。そして、高校生CAST・STAFFが知らず知らずのうちに手に入れていた自信が、観客の高校生に、中学生に、小学生に、そして大人たちにも伝わり、「いい舞台を見たな」と「いつか私も演劇をやってみたい」と思う力となって、一歩一歩演劇の裾野が広がっていく。 そんな、大いなる底力を持った舞台。ままごと『わたしの星』の、幕が開きます。

19/8/10(土)

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