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水先案内人のおすすめ

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エンタテインメント性の強い外国映画や日本映画名作上映も

植草 信和

1949年生まれ フリー編集者(元キネマ旬報編集長)

SHADOW/影武者

『紅いコーリャン』(87)でベルリン、『初恋のきた道』(00)でヴェネツィア、『LOVERS』(04)でカンヌなど、世界の映画祭を制したチャン・イーモウ監督。中国のみならず今や世界的な大監督のひとりだが、『サンザシの樹の下で』(10)以降、演出にキレがなく作風も停滞していた感があった。 しかし『グレートウォール』(16)に続く二年ぶりの新作『SHADOW/影武者』は、過去のどんな作品をも超越した壮大で華麗、エキサイティングな映画になっている。陳腐な形容だが“不死鳥のごとく甦った”というしかない巨匠の復活作だ。 イーモウ作品の系譜としては『HERO』(02)『LOVERS』(04)に続く“武侠映画三作目”と位置づけられそうだが、モティーフは三国志において魏・呉、蜀が荊州という土地を競って取り合った「荊州争奪戦」をアレンジしたものだという。戦国時代の中国。圧倒的な軍事力の差で敵の炎国に領土を奪われて二十年が経つ沛(ペイ)国が舞台。主人公は領土奪還を願う沛国の重臣・都督とその影武者だ。 見どころは盛りだくさんだが、まず挙げたいのは中国伝統の水墨画の世界を思わせる白と黒を基調とした映像表現の素晴らしさだ。その繊細で想像力をかき立てるモノトーン映像には、“色彩の魔術師”チャン・イーモウの創造力がほとばしり出ている。さらに見る者を圧倒するのは、影武者の武器である鉄製の傘だ。鋭い刃で骨組みされた傘が、敵対者の皮膚を裂き骨を砕く。そんな武器が実際に存在したのか想像上の産物なのかは知らないのだが、その傘が繰り出すアクションは素晴らしくスリリングで映像的だ。『乗風波浪~あの頃のあなたを今想う』(17)のダン・チャオが、頭脳明晰で武芸の達人でもある沛国の重臣・都督(トトク)とその影武者の一人二役を名演している。 久々の必見中国映画の快作に出会った喜びは大きい。だが、中国映画を世界に押し上げたもうひとりの巨匠チェン・カイコ―の低迷ぶりが気にかかる。

19/9/3(火)

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