大戦後のポーランドを中心とする「冷戦時代」を舞台にした作品で、全編とても美しい白黒の映像で進められる。白黒の映画というのはどうしてこれほど美しいのだろうか、と考えてしまうほど。ある男と女が音楽を通して近づき、そして恋におちるが、西側の音楽にあこがれた男はひとり亡命してしまう。そして冷戦時代ならではの「壁」がふたりを引き裂いていく…。究極のラブストーリーで、ポーランドの音楽を主体にした音楽もすばらしい。中でもポーランドの作曲家タデウシュ・シギェティンスキの『2つの心』という曲は、純粋な民謡としても、ジャズバージョンとしても何度も登場してふたりの関係性の移り変わりを映し出していく。もともとドキュメンタリー映画を多く手がけてきたポーランドのパヴリコフスキ監督は、本作を自分の両親に捧げていて、主人公ふたりの名前は両親からとられているという。両親はベルリンの壁崩壊直前に亡くなった。旧東欧の人たちにとって切実なテーマであった「壁」という障害が、現在また違う形で世界を蝕みはじめていることを考えさせられた。すごくお薦めです。

19/6/24(月)