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古今東西、興味のおもむくままに

藤原えりみ

美術ジャーナリスト

【緊急事態宣言中休館】テート美術館所蔵 コンスタブル展

コンスタブルは故郷のロンドンの北東に位置するサフォーク州や、家族と訪れたハムステッド、親友の住むソールズベリーなど、自らが実際に体験した場所の風景を繰り返し描いている。だが当時の美術界で評価されていたのは、ギリシャ神話や聖書などを主題の背景として描かれる「理想化された風景」であり、コンスタブルが描くようなごくありふれた田園風景に「絵画的な価値」を人々が見出すまでには時間が必要だった。 さらに彼の絵の具の扱い方も当時の人々にとっては「???」。近寄って見ると「自然に見える」樹木や川の流れ、空の雲は、さまざまな緑色を重ね合わせたり、光を表現する白い絵の具が点在させたりして、筆やペインティングナイフのタッチで細々と構成されているのが分かる。特に点在する白は「コンスタブルの雪」と呼ばれ、「まるで冬景色のようだ」などと揶揄されもした。 ところがフランス人の画商が、1824年にパリで開催されたル・サロン展にコンスタブルの作品を出品したところ、なんと金賞を獲得。母国イギリスよりもフランスでの評価の方が早かった。そして、「身近な自然」という主題はバルビゾン派へと受け継がれ、やがて光を色彩に置き換え絵筆のタッチで画面を構成する印象派へと至る。 今ではいずれも19世紀イギリス風景画の革新者であるターナーとコンスタブルだが、同時代人でありながら生き方も作風も対照的な2人はいつしか比較して語られるようになる。そして1832年、ロイヤル・アカデミーの展覧会で2人の作品が隣り合って展示されることに。展覧会開始前に、赤や緑の色彩鮮やかなコンスタブル作品に対して、自作の海景画の色調が地味であることに気付いたターナーは海面にいきなり赤い絵の具を塗りつけた。驚く人々を尻目に「これは赤いブイだ」と。コンスタブル にとっては、赤いブイ=弾丸だったのだろう、「彼はここにやって来て、銃を打ち放っていった」と述べたという。そしてなんと本展ではこの時の展示が再現されているのだ! 189年前のライヴァル対決を実見できる貴重な機会。ぜひともお見逃しなく。

21/3/7(日)

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