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古今東西、興味のおもむくままに

藤原えりみ

美術ジャーナリスト

電線絵画展-小林清親から山口晃まで-

ヨーロッパの都市のように電線地中化するべきだという意見があり、2017年には「無電柱化推進条例」が可決されたと聞く。だが、「いや、それちょっと待て」と言いたい派の1人である私にとっては、泣いて喜びたいほどの悶絶ものの展覧会。 送電用鉄塔の並ぶ田園風景、住宅やビルに配電する超絶技巧的な配線技術、電線に連なる雀の群れ……。それらは青空や夕空の色合いと共に子供時代の原風景のひとつとなっている。それほど愛着があるにも関わらず、本展に足を運ぶまで、送信技術の伝来や生活の電化の歴史について何も知らなかった(己の無知を恥じる)。 ペリー提督がモールス信号機をもたらし、通信用送電の実験として電信柱と電信線が設置されたのは幕末のこと。早くも明治2年には電信柱と電信線のある日本橋を描いた浮世絵が制作され、小林清親による電信柱を描きこんだ東京の大判錦絵が続く。電信柱と電信線は蒸気機関車や鉄道と並ぶ日本の文明開化のシンボルとなり、明治20年代の東京の電化によって電柱と電線敷設の敷設が進むと、近代化を推し進める日本の都市や農村の景観として、岸田劉生や川瀬巴水、朝井閑右衛門らによって電柱と電線のある風景が盛んに描かれるようになっていく。 戦地における電線の敷設や天災直後の都市風景を描いた作品群を通して日露戦争や関東大震災、太平洋戦争という時代の変遷をたどり、戦後の復興期を経て山口晃や青山悟らの現代作家に至るまで、150年を超える日本の近代化の歩みを「電線」というモチーフによって再構成するというユニークな試み。さらに、まるで茶道具のように恭しく展示されている碍子(がいし)の密やかな佇まいも好もしい(こんなに間近に見る日が来るとは)。 この前代未聞の展覧会、要所要所に掲示された丁寧な解説パネルと出品作品146点をじっくり見ていたら、なんと滞留時間2時間! 見応えありすぎであります。

21/3/26(金)

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