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水先案内人のおすすめ

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邦画も洋画もミーハーに、心理を探る作品が好み

伊藤 さとり

俳優や監督との対談番組を多数、映画パーソナリティ

Red

余計な説明も余計なセリフも、ましてや回想シーンもない、感情だけがぶつかり合う生々しい人間のサガ。 こんなに洗練された日本映画は、久しくお目にかかっておりませんでした。 そうね、三島有紀子監督が『幼な子われらに生まれ』を転機に、さらに“親と性”について潜り込むように心と見つめ合っているのかもしれない。 もしかしたら、説明台詞の多い作品を見慣れた人には少々、不親切かもしれない。けれどこの映画の間合いまで、すべてを読み取れる人は、間違っていなければ、愛に身を捧げた経験の持ち主、もしくは愛と葛藤した経験の持ち主じゃないかと。 一見、俗に言う“勝ち組”的な生活を送る若き妻、塔子(夏帆)。エリートの夫とかわいい娘、優しい義母との暮らしの中で、どこか寂しげな表情を垣間見せるのは、演じ手の夏帆さんのなせる技。 しかも演出もセリフも興味深い。 例えば、夫(間宮祥太朗)が放つ言葉の端々に「うん」という口癖があるのだけれど、それが、夫自身は、妻の良き理解者であるフリをして、結局、自分の言葉を自分に言い聞かせているという自己中心さの表れだろうし。 そこに現れる10年前に愛した男、鞍田(妻夫木聡)。吸い寄せられるような憂いを秘めた眼差しで塔子の心を見抜く男は、言葉が無くとも彼女に愛を求めていると理解できてしまう。 そして、もうひとり、客観的にふたりを見つめる同僚の小鷹(柄本佑)。塔子と鞍田の内面を分析する彼の言葉があるから、観客側は答え合わせをしながらふたりの愛の行方に没入できるのですよ。 原作では、もっと多くの登場人物がいて、もっと細かく塔子の心情が描かれています。それをあえて登場人物を少なくし、それぞれの個性を浮き彫りにしながら脚本を作り上げたのは、塔子と鞍田の心情について、観客に賛否を承知で考えて欲しかったからに違いない。 その脚本を読み解く力を持った役者たちでないと表現できない深層心理が絡まり合う人間ドラマ。 結婚とはなんなのか? 母親になったら、女を捨てなければならないのか? 愛するとはどういうことなのか? 自分にとっての幸せとはなんなのか? もし、塔子に相談されたら自分はどう答えるのだろう? 塔子を責められずにいる自分って。 人間に生まれたサガなのかもしれない。

20/2/18(火)

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