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古今東西、興味のおもむくままに

藤原えりみ

美術ジャーナリスト

コロンバス

インディアナ州コロンバス。州都でもない一地方都市が、これほどの近代建築の宝庫だったとは。シカゴがバウハウスの実験場であったことは知っていたのだが......。しかも、R.ブレッソンやA.ヒチコック、小津安二郎に関するヴィデオ・ドキュメンタリーを製作するなど、映画研究で知られてきたコゴナダ監督の初の長編映画。コゴナダという監督名は、小津映画の脚本家として知られる野田高悟にちなむというのだから、小津映画への傾倒の深さ、愛情が随所に感じられる作品となっている。 コロンバスが近代建築の宝庫となったのは、コロンバスに本拠を置くエンジンメーカー、カミンズ・エンジン・カンパニーの社長J・アーウィン・ミラーが1950年代に、近代建築家による公共施設の建築を積極的に支援したことに由来する。ミラー自身の邸宅に始まり、銀行、教会、図書館、消防署、病院等々、今も60を超える近代建築が市民生活に溶け込む街を形成した。 主人公は2人。コロンバスで薬物中毒から立ち直りつつある母親と暮らす近代建築ヲタクのケイシーと、音信不通であった近代建築史家の父が倒れたために仕方なくソウルからやってきた韓国系アメリカ人ジン。近代建築に対しては正反対の思いを抱えた2人だが、建築の現場を訪れながら対話を重ねるうちに、心の奥に秘めていた互いの家族への感情を共有するようになる。近代建築は母との関係で思い悩むケイシーの心を癒し、ジンもまた父親のカメラで近代建築と空を撮影し始める。 住居やホテル内部の引いたカメラアングルはフェルメールの絵画を思わせる一方で、エーロ&エリエル・サーリネン、I.M.ペイ、リチャード・マイヤー、デボラ・バークらの設計による建築のディテールに注ぐ監督の眼差しは繊細で優しく、全編に滲み透る静けさには2人の心の呟きが漂っているようだ。 なお公式予告トレイラーの他にも特別映像公開中。「映画『コロンバス』特別映像“ケイシー&ジンと巡るインディアナ州コロンバスの名建築”全8種」で検索すると、ヴァーチャル建築散策を楽しむことができる。ぜひ!

20/3/17(火)

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