思い起こせば、幼い頃、へんな子供なりのプライドで他人に打ち明けられなかった秘密がひとつかふたつは誰にでもあったはず。 たとえば、実はカナヅチだとか、逆上がりができないとか、九九がいまひとつあやしいとか……。 打ち明けてしまえば「なんだそんなこと」で済むことが、本人にとっては屈辱以外のなにものでもなく、他人には口が裂けても言えない。 本作はそんな小さな秘密を大人になるまで抱えてしまった男が主人公。ひとつのトラウマを抱える彼は度重なる悲劇に見舞われる。ただ、そこに悲壮感が一切ないのは、脚本を手がけた『アメリ』のギヨーム・ローランと原作者のジャン＝ジャック・サンペの成せる業か。 どこか他人事ではない、自身を重ねてノスタルジックな記憶の断片が甦るような不思議な魅力がある。

19/9/13(金)