歴史や記憶、人間の存在の痕跡といったものをテーマに据え、60年代後半から世界中で作品を発表してきたクリスチャン・ボルタンスキーの活動の全貌を紹介する大回顧展が9月2日まで国立新美術館で開催されている。 自らを「空間のアーティスト」と呼び、「展覧会をひとつの作品のように見せる」と語るボルタンスキーは、様々な表現方法を駆使した作品約50点を時代順に紹介するのではなく、自分自身で個々の作品を組み合わせ、ひとつの大きなインスタレーションとして構成しているが、これは現役作家ならではの醍醐味といえる。金属製の箱が大量に積み上げられ、それぞれに死亡告知欄から切り取ったスイス人の写真が貼られている衝撃的な大傑作『死んだスイス人の資料』を筆頭に、本当にボルタンスキーは誰にも作れないものを魔術師のように形にしてしまう天才だ。

19/7/4(木)