韓国の恋愛映画の名手、ホン・サンス監督が、男女のやりとりではなく、女性を主人公にして撮った作品。友人のもとを次々と訪ねていくヒロイン、ガミの3つの物語には、反復や唐突にズームするカメラなどいつものホン・サンス節が感じられますが、“逃げた女”をめぐるスケッチはさりげなくスリリング。繰り返されるガミの「愛する人とは一緒にいるべきだという夫の希望で結婚してから5年間ずっと離れたことはない」という言葉は、ときに自分に言い聞かせるかのようでもあり、ときに諦めているかのようでもあり……。 登場人物全員が何かを強く主張しているわけではないのに、食事をしながら繰り広げられる他愛ないおしゃべりや窓を開ける行為の中から、愛や結婚、自立や依存に関する考察が浮かび上がってくるあたり、やっぱりホン・サンス作品には中毒性があります。パーマをかけたボススタイルの髪の毛を揺らしながらよく食べ、よく飲み、けれども儚さや不確かさを感じさせるキム・ミニはずっと見ていたくなる魅力あり。のぞき見しているような監視カメラの映像も、映画を観るという行為のどこか後ろ暗い楽しさを感じさせてくれます。

21/5/30(日)