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古今東西、興味のおもむくままに

藤原えりみ

美術ジャーナリスト

ルネ・ラリック リミックスー時代のインスピレーションをもとめて

昨年2月に開催された「北澤美術館所蔵 ルネ・ラリック アール・デコのガラス モダン・エレガンスの美」展に続くルネ・ラリック展の第二弾。今回は注文制作によるほぼ一点もののジュエリー・デザインから、より多くの人々に向けて型取り成形による香水瓶などのガラス作品制作へと時代の変化とともに歩んだラリックの業績を追う内容となっている。 タイトルの「リミックス」には、時代背景を通してラリック作品を読み直し、新たな作品解釈の可能性を探る意図がこめられている。 個人的に興味深かったのは、1920年代から30年代にかけて古代ギリシャ・ローマ文化への回帰が起こるなか、ラリックが制作した写実的な男性競技者や女性のヌード像で飾られたガラスパネルや花瓶などだ。花瓶の場合、掌でガラス製の裸体に触れることもできただろう。その感触はどのようなものだろうなのかと、触覚を刺激されてしまい、なんだか掌がムズムズしてくるのだった(妄想......)。 また「もうひとつの邸宅」と名付けられた建築家・中山英之氏による新館の会場構成も見どころのひとつとなっている。香水瓶やガラスのオブジェなどラリック作品を窓辺に置いて楽しんだであろう当時の人々の生活風景を、朝香宮邸であった美術館内に再現する試みで、窓を装った白い壁のガラス越しにラリック作品が見える。 壁の内側に回りこむと、室内と想定された壁面に花瓶や写真立やグラス・セット、1925年の通称アール・デコ博覧会のために制作した高さ15mの噴水党を構成していた女神像などのガラス製品に混じって、ラリック社の商品カタログなどの資料も展示されている。特定の顧客のための芸術作品からより多くの人々の生活を豊かにするデザイン製品へと、時代の変化を見据えたラリックのマーケッティング・センスに改めて気づく。「リミックス」展の意図はここにあったのだと納得。 庭園の豊かな緑に囲まれた展示空間で、差し込む自然光とひっそりと呼応するガラス作品群。ゆっくりと楽しむ時間のなんと贅沢なことか。

21/7/6(火)

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