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水先案内人のおすすめ

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文学、美術、音楽など、映画とさまざまな構成要素に注目

高崎 俊夫

1954年生まれ フリー編集者、映画評論家

マーティン・エデン

 ジャック・ロンドンといえば、幾度となく映画化された『野生の呼び声』『白い牙』に代表される動物小説の作家としてあまりにも有名だが、私はロンドンの貧民窟を仮借なきリアリズムで描いた鮮烈なルポ『どん底の人々』、そして何よりも自己のアルコール中毒体験を哲学的に考察した『ジョン・バーリコーン』や魂の遍歴を赤裸々に吐露した『マーティン・イーデン』のような自伝的物語こそが、この天才作家の本領だと思っている。 『マーティン・エデン』は、彼の代表作である自伝的長編の映画化だが、原作の舞台である19世紀のアメリカを20世紀イタリアのナポリへと置き換えているのが興味深い。プロレタリア出身のマーティン(ルカ・マリネッリ)がブルジョアの娘エレナ(ジェシカ・クレッシー)と恋に落ち、作家を目指すが、決定的な階級間の隔たりによってふたりは引き裂かれる。 マーティンは作家として空前の成功を収めるが、その代償として癒しがたい失意と自暴自棄によってデカダンの世界へと失墜する。逃げ去った女の幻影を追い続けるマーティンは、享楽的でありつつ敬虔でもある、まさにスコット・フィッツジェラルドが『グレート・ギャツビー』で描いた〝ロマンティックなエゴイスト〟そのものである。ルカ・マリネッリは、ニーチェの超人哲学に心酔する一方で、過激な社会主義者でもあったジャック・ロンドンの分身であるマーティンをニュアンスに富んだ繊細さで見事に演じている。

20/9/16(水)

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