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水先案内人のおすすめ

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坂口 英明

編集者(ぴあ)

兄消える

鉄工場をほそぼそと経営する、70半ばで独り身の主人公鉄男の家に、出奔していた80歳の兄・金之助が40年ぶりに、しかも若い女性を連れて帰ってくる。そこからいろいろあって「兄消える」までの小さなひと騒動。 100歳で大往生の父を送り、火葬場の煙突をみあげる鉄男とその友人。「もうそろそろかな」「ああ」「100年分、だな」「ああ」。精進落しの酒を飲み、親しい男友達たちが病気自慢、健康自慢を始める。幕開けはそんなシーン。まるで小津の映画です。おちついた町のスケッチ、昭和の雰囲気の残る呑み屋街、駅がでてきてここが信州・上田とわかります。するとこの鉄工場の前を流れる川は千曲川でしょうか。 実直そうな弟役は高橋長英。映画では『マルサの女』など伊丹十三作品でおなじみでした。兄役は86歳の柳澤愼一。昭和30年代、コメディ映画で活躍した名バイプレイヤーです。この映画では、まるで寅さんのように、いつも鼻歌まじりで生きている、困った兄貴、謎のキャラクターです。柳澤さんは60年ぶりの映画主演だそうです。 鉄男の、静かな暮らしに寄り添うように流れる静かなピアノのメロディ。音楽担当は晩年の黒澤明作品をてがけた池辺晋一郎さんです。エンディングテーマは、ムスタキ『私の孤独』の日本語カバー。ドキュメンタリー『ヨコハマメリー』に、メリーさんを晩年支えたと紹介された、永登元治郎というシャンソン歌手が歌っています。なかなかの選曲。監督は、文学座のベテラン演出家・西川信廣。新橋耐子、金内喜久夫、坂口芳貞など劇団の大御所が脇を固めます。文学座の顔、江守徹は銭湯の客で、湯船のなかでの特別出演です。そんな風に、すみずみまでていねいに作られた、おとなの映画です。

19/5/21(火)

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