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文学、美術、音楽など、映画とさまざまな構成要素に注目

高崎 俊夫

1954年生まれ フリー編集者、映画評論家

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウェスト

かつて『ウェスタン』という邦題で知られたセルジオ・レオーネの西部劇大作が、2時間45分のオリジナル・バージョンで、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウェスト』という原題で公開される。1970年代に新宿ローヤル劇場で見た記憶があるが、ほとんどディテールを忘れていた。数十年ぶりに再見し、これほど巨大な作品であったとは!という感嘆を禁じ得ない。 冒頭の列車が到着するまでの長い、長い、息を詰めるようなシーンから引き込まれる。待ち受けるウディ・ストロードやジャック・イーラムといった50年代西部劇を代表する悪役たちの汗まみれの髭面の極端なクローズ・アップの連鎖。まぎれもないレオーネのハッタリの効いたバロック世界が一挙に現出する。ハーモニカの異名を持つ謎めいたチャールズ・ブロンソン。そして飄々たるジェイソン・ロバーツと悪辣なヘンリー・フォンダが三つ巴となって、悲劇の魅惑的なヒロイン、クラウディア・カルディナーレをめぐって、とりつかれたように狂想的な輪舞を繰り広げる。 大陸横断鉄道施設に象徴される西部開拓期を時代背景に持つ、この映画は、当時は、西部劇というジャンルが崩壊に瀕していた時期に、突然変異のように現れた異形なマカロニ・ウェスタンという印象を抱いたが、今、見ると、キャスティングを含めて正統派西部劇の匂いが濃厚に感じられるのだ。ジョン・フォード以外で、これほど美しいモニュメント・ヴァレーの景観をとらえた西部劇があっただろうか。 エンニオ・モリコーネのあまりに叙情的な忘れがたい旋律が、この乾ききった叙事詩的西部劇に見事に照応しており、見終わると、巨大なオペラを見ていたような錯覚に陥る。異邦人たるセルジオ・レオーネはこのイタリア的な官能性をたっぷりと含んだ傑作によって西部劇というジャンルを刷新していたのだ。

19/9/25(水)

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