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水先案内人のおすすめ

評論家や専門家等、エンタメの目利き&ツウが
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文学、美術、音楽など、映画とさまざまな構成要素に注目

高崎 俊夫

1954年生まれ フリー編集者、映画評論家

レイニーデイ・イン・ニューヨーク

いわゆる"Me Too"騒動の影響で本国では公開が無期限延期という深刻な事態になっているウディ・アレンの新作は、今世紀に入ってからの彼のフィルモグラフィの中では最高傑作ではないかと思う。何よりも主人公であるギャツビー(ティモシー・シャラメ)の自意識過剰な“ひとり語り”の絶妙な可笑しさ、辛辣なユダヤ風ジョークの濫発、快く疾走するようなテンポは、私がもっとも偏愛するダイアン・キートンとコンビを組んでいた時代のアレンの作品を想起させる。 生粋のニューヨーカーであるギャツビーは、通っている郊外のヤードレー大学の恋人アシュレー(エル・ファニング)が有名な映画監督にインタビューするので、NYの名所案内のエスコート役を買って出る。ところが、アリゾナ出身のアシュレーはセレブたちとの遭遇ですっかり舞い上がり、散々な目にあうが、ウディ・アレンがアシュレーをもっとも皮肉を込めて戯画化しているのは明らかだ(性的に興奮するとしゃっくりが止まらないバカバカしいギャグが最高だ!)。 一方で、かつての恋人の妹チャン(セレーナ・ゴメス)と偶然、再会したギャツビーは、まさにスコット・フィッツジェラルドの処女長篇『楽園のこちら側』の草稿のタイトルである“ロマンティックなエゴイスト”としての自己を次第に露わにするのだ。チャンのほうもコマしゃくれた才女で、かつてのダイアン・キートンのような魅力を発散し始める。メトロポリタン美術館での語らい、とりわけホテル「ピエール」のラウンジで、ギャツビーがジャズのスタンダードの名曲『エヴリシング・ハプンズ・トゥ・ミー』をピアノの弾き語りで歌うシーンが陶然とするほどすばらしい。二人の会話の中で、時計台の下で待ち合わせる古い映画への言及があるが、これが至福に満ちたラストシーンへの伏線となっている。ちなみにその映画とは、私の推測では、ジュディ・ガーランドが戦地に赴くロバート・ウォーカーとNYで偶然出会い、運命的な恋に落ちる『二日間の出会い』(45年・ヴィンセント・ミネリ監督)である。この往年の清冽なメロドラマの名作と本作を見比べてみるのも一興かと思う。

20/7/1(水)

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