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古今東西、興味のおもむくままに

藤原えりみ

美術ジャーナリスト

ヘルムート・ニュートンと12人の女たち

20世紀後半ファッション写真に革新をもたらしたヘルムート・ニュートンの生誕100年を記念するドキュメンタリー映画。撮影中の貴重な動画や記録写真が随所にはめ込まれているのだが、この映画の主役は彼が撮影した女優やモデル、歌手たちなのではないか。 シャーロット・ランプリング(女優)、イザベラ・ロッセリーニ(女優)、グレイス・ジョーンズ(モデル・歌手・女優)、アナ・ウィンター(米国版『VOGUE』編集長)、クラウディア・シーファー(モデル)、マリアンヌ・フェイスフル(歌手・女優)、ハンナ・シグラ(女優)、シルビア・ゴベル(モデル)、ナジャ・アウマン(モデル)、アリヤ・トゥールラ(モデル)、ジューン・ニュートン(女優・写真家・ヘルムートの妻)。ニュートンの写真を「典型的な女性蔑視」と否定したスーザン・ソンタグ(批評家・小説家・映画監督・演出家)。 官能性を織り交ぜつつ男女の関係における暴力性や力関係の歪みをファッション写真として提示した功績は大きい。フランス語のTV番組だと思われるが、ソンタグとニュートンの仏語による応酬シーンも興味深い(2人は仏語のネイティヴ・スピーカーではないにも関わらず。司会者のうろたえぶりも微笑みを誘う)。とにかく登場する女性たちの「言葉」による分析の鋭さに瞠目。撮影対象となりながらも、ニュートンと同等に対峙し、言われるがままの「人形」ではなかった彼女たち。日本の女性芸能人に求められる「可愛らしさ」や「従順さ」など糞食らえ! 毀誉褒貶も多々あったニュートンだが、妻のジューンとの仲睦まじい姿が印象に残る。映画は、不慮の事故に遭い入院した夫と自分を撮影した、ジューンの写真で締めくくられる。時代による評価は揺れ動き続けるだろうが、ドイツに生まれナチス政権下から逃れてサヴァイヴァルした、1人の写真家の人生の重さはいつになっても変わらないだろう。

20/12/11(金)

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