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堀 晃和
ライター&エディター。記者歴27年、元産経新聞文化部長。映画と音楽と酒文化が守備範囲。
朝が来る
20/10/23(金)
TOHOシネマズ 日比谷
カメラが揺れる、光が揺れる、視線も揺れる、そして人の心も揺れている。河瀬直美監督は「揺れ」を通して、そっと想いを伝えてくる。観終わったあと、作品の熱で身体が温かくなった。 都会の湾岸地域で暮らす佐都子(永作博美)と清和(井浦新)は、幼稚園に通う一人息子の朝斗と幸せな日々を送っていた。実は夫婦には子供ができず、「特別養子縁組」の制度で、赤ちゃんのときに迎え入れたのが朝斗だった。ある日、産みの親の「ひかり」を名乗る女性から自宅に電話がかかってきた。「子供を返してほしいんです。それがダメならお金をください」。受話器の声に佐都子は困惑の表情を浮かべる。当時、14歳だったひかりとは一度だけ会っていたが、夫婦の前に現れたその女性は…。 原作は人気作家、辻村深月の同名小説。2016年の本屋大賞にノミネートされたミステリーテイストの人間ドラマだ。河瀬監督は朝のような鮮やかな光を絵筆に使って、繊細な心理を表現してみせた。たびたび挿入される風景描写が登場人物の心情に色彩を与え、観る者に迫ってくる。 何よりも俳優たちの「まなざし」に惹かれた。終盤、朝斗の幼いまなざしが向けられた先は…。最も注視してほしいシーンだ。
20/10/19(月)