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佐々木 俊尚
1961年生まれ フリージャーナリスト
アイダよ、何処へ?
21/9/17(金)
新宿武蔵野館
1990年代のユーゴ内戦で、ボスニア人男性7000人が殺害された民族浄化を当事者の目線で描いている。主人公は国連軍の通訳の女性。セルビア軍に包囲される国連軍基地で、夫と息子ふたりを救おうと彼女は走り回る。だれもが自分の位置であらん限り生き延び、戦っている現場で、どこにも唯一の正義なんてない。主人公アイダだって、自分の家族だけを守るために他の人々の生命はあえて見ないようにしている。そのリアルさが胸を衝き、そしてアイダの姿にはつねに絶望がまとわりついていて、狂気をはらむほどに追い込まれた表情とともに、まさに“悲痛”というものを体現している壮絶な演技だった。傑作。
21/8/4(水)