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水先案内人のおすすめ

評論家や専門家等、エンタメの目利き&ツウが
いまみるべき1本を毎日お届け!

文学、美術、音楽など、映画とさまざまな構成要素に注目

高崎 俊夫

1954年生まれ フリー編集者、映画評論家

愛のくだらない

過去に沖田修一や『あのこは貴族』の岨手由貴子などの逸材を輩出した田辺・弁慶映画祭で弁慶グランプリ・映画.com賞をダブル受賞した野本梢の新作は“キャリアと出産“LGBT”“ネット炎上”と、一見、現代的なモチーフをちりばめながらも、ありふれた日常のなかで関係を維持すること、結びつくことがいかに困難であるかを驚くほどの繊細さで浮き彫りにして見せる。 冒頭の同棲しているカップル、玉井景(藤原麻希)とヨシ(岡安章介)の慌ただしくもおざなりなセックスの後、景がアフターピルを飲むさりげない描写ですでにふたりの間にわだかまっている倦怠感が鮮やかに切り取られている。 やり手のTVプロデューサーらしい景が番組を任され、トランスジェンダーの金井(村上由規乃)を起用したことからトラブルが連鎖され、景の不用意な言葉や振る舞いが周囲に小波乱を生じさせていく。誰もが身に覚えのある無意識に行使するエゴイスティックな言動によって自己と他者のあるべき距離すらも無残に破損させてしまい、身もだえるヒロインを藤原麻希は、傷ましいほどリアルに演じている。随所に偏在し、インサートされる“水”のイメージが彼女のどうしようもなく自己中心的な心象をゆるやかに溶解させているのが際立って印象に残る。

21/8/11(水)

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