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水先案内人のおすすめ

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エンタテインメント性の強い外国映画や日本映画名作上映も

植草 信和

1949年生まれ フリー編集者(元キネマ旬報編集長)

DAU. ナターシャ

「本国ロシアで上映禁止」「ベルリン映画祭で賛否の嵐」「ソヴィエト連邦復活」といったフレーズが躍る予告編。映画宣伝特有の誇大コピーだろうと眉に唾して観始めた第70回ベルリン国際映画祭銀熊賞受賞作『DAU. ナターシャ』。 開巻から、食器、テーブル、コスチュームなどの小道具、食堂、実験室、拷問部屋の造形の深さに圧倒される。登場人物、画面に流れる空気が、本作の舞台である1950年代のソヴィエト連邦だと錯覚させられる。 ソ連某地の秘密研究所。科学者たちが軍事目的の研究を続けている施設に併設された食堂で働くウェイトレスのナターシャ。研究所に滞在するフランス人科学者リュックと惹かれ合うが、スパイ容疑でKGBの拷問を受ける。 全てがセット撮影のはず。だがその質感が従来の映画のセットとは全然違う。どう見ても本物。プレスシートには、「オーディション人数39万2千人、セットの広さ1万2000平方メートル、主要キャスト400人、撮影期間40カ月」とある。そのまま鵜呑みにはできないが、「映画史上最も狂った映画撮影」だと納得できる。本作『 DAU. ナターシャ』は9本作る計画の『DAU』プロジェクト、その第1作目だという。 監督は46歳のイリヤ・フルジャノフスキー(共同監督エカテリーナ・エルテリ)。 「忘れられつつある〈ソ連〉の記憶を呼び起こすべく〈ソ連全体主義〉の社会を完全に再現する」ためにプロジェクト『DAU』を立ち上げた」という。予告編には「ラース・フォン・トリアーをはるかに凌駕する」というのもあり、観終わったいま、確かに首肯できるフレーズだと思った。700時間のフィルムフッテージから甦る真実の〈ソ連全体主義の再現〉、絶対に見逃せない作品だ。

21/2/24(水)

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