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古今東西、興味のおもむくままに

藤原えりみ

美術ジャーナリスト

鏑木清方と鰭崎英朋 近代文学を彩る口絵 ―朝日智雄コレクション

明治24年から大正16年頃にかけて小説の単行本や文芸雑誌の巻頭を飾った木版口絵。絵師・彫り師・刷り師の分業による江戸時代の錦絵の制作技術を受け継ぎつつ、近代社会に生きる人々の喜怒哀楽を緻密な描写と鮮やかな色彩で描き出し、物語の場面や登場人物だけでなく、美人画風の単独の女性像も大変な人気を博したという。 なかでも木版口絵の最盛期に活躍した鏑木清方と鰭崎英朋は、二大スーパースターとして注目を浴びた。文化的に恵まれた環境で育ち、清楚で上品な女性像を描く清方に対して、年期奉公を経て絵師となった苦労人の英朋は妖艶な女性像を得意とした。ふたりの作品を中心に、彼らの先達たち(水野年方、武内桂舟、富岡永洗、梶田半古)の作品にも触れられる。 日常生活でのふとした瞬間の所作や人間関係に悩み悲しむ姿など、描かれる人物はほとんどが女性だ。男性目線による理想的な美女像なのだろうかと思ったのだが、実は明治30年頃から男女の恋愛や親子の情愛を主題とする「家庭小説」が新聞に連載されるようになり、熱心な女性読者を数多く獲得したという。 とすると、当時の女性たちは小説に登場する女性に我が身を重ね合わせ、女性が描かれた口絵を自らを映し出す鏡として受け止めていたのかもしれない。折しも明治30年代から大正期にかけては、当時のファッションリーダーであった芸妓やハイセンスな良家の子女を描いた百貨店のポスターが盛んに制作された時代でもある。木版口絵とは、当時の社会が求める女性像と当時の女性が求める理想の女性像とが微妙に交錯するメディアであったのかもしれない。 社会と女性、時代と女性についてあれこれと考えさせられる好企画。作品保護の観点から照明がやや暗いため、細部をじっくり鑑賞したい方は単眼鏡をお忘れなく。

21/6/4(金)

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