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水先案内人のおすすめ

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映画史・映画芸術の視点で新作・上映特集・映画展をご紹介

岡田 秀則

1968年生まれ、国立映画アーカイブ主任研究員

さくら

これまで『ストロベリーショートケイクス』(2005年)や『スイートリトルライズ』(2009年)を観ていたから、矢崎仁司監督はホームドラマには向かないものと勝手に思い込んでいた。例えば『ストロベリーショートケイクス』の4人の女たちは、みな重い孤独を抱えながらも、どこか浮遊感をたたえていて、むしろファミリーという概念の不在が似合うと思ったのだ。 だから、2年間の父の不在を経て、テーブルの周りに一家が集まる『さくら』の冒頭シーンを不安な気持ちで見つめ始めた。しかしやがて、ひとりひとりがすれ違い、孤立しているフィクショナルな家族像が明らかになるにつれ、人物たちの「感情の流れ」を生み出す監督独自の演出に安心して身を任せられるようになる。 解体しつつある家族を、絡み合う感情はそのままにどうにか維持してゆこうとする父と母と兄と妹、そしてその輪の中心に置かれた長兄の死。中でも妹役の小松菜奈の強い存在感に目を見張ったが、そもそもなんという非現実的に麗しい三兄妹だろう。感情のアンサンブルから成り立ち、リアルとアンリアルの間を堂々と歩む矢崎監督らしい一本だと気づいた。

20/11/10(火)

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